失ったものは
書きあがりました。
よろしくお願いします。
「さて……」
鬼の様な剣幕で
今回の騒ぎに関わった隊員達を一括した
カレン女史であったのだが
条約の話が終わったあたりで雰囲気が一変し
表情が消え去り
静かにこう切り出した。
「ここからが本番の話だ、
先ほどは怒鳴って悪かったが
そうしなければならないほど重要な話なので
しっかり聞いてもらいたい。
また、絶対に命令あるまで他言無用だ
もし情報を漏らした場合
私がその者達を直接処分する」
氷のように冷たいものが
背中を通り抜け
隊員達が縮み上がっているのが見える。
「現在の、ウラキの姿から察している者もいるだろうが
我々は、神にも匹敵する、回復方法を無くしてしまった」
隊員達から騒めきが起こり
カレンがそれを制する。
「静かに、騒ぎの後、ウラキを検査して判明したのは
体内に入り込んだラビリンスシードを
あの淫魔の少女が全て取り除いたこと。
彼を死の淵から生還させ
昔負った骨折や小さな傷の痕跡まで全て治癒し
体を若返えらせたことだ」
厳密には年齢を計測する術はないのだが
20代後半だった見た目は10代後半程度になり
異常なほど完璧に健康な肉体を得ていた。
「まさか、エリクサー……」
隊員の誰かがつぶやく。
「そう、その通り
これは淫魔の能力に関係してくる。
彼らは人間の魔力の源である『精』を吸収する際
対象に対し、体内へポーションに似た作用の体液を注入するのだが
それは、淫魔の血が濃ければ濃いほど効果が高いものになる。
個体にもよるが、純血種であればエリクサー並みのものもいるのだ 」
会議室内が静まり返っている。
「それは淫魔達が世界から姿を消した理由につながるのだが……。
皆も知っているだろうが、私は吸血種であるが、我が一族は魔力も力もあり
寿命も長いため、人間を『獲物』として捉え
一方的に魔力の源である血液を吸収して生きてきた。
まあ、現在は違うのだがそれは置いておく。
それとは対象的に
淫魔は魔力も力も弱く、寿命も人間並みであった。
動物などからも『精』吸収できるが決して効率が良くないため
摂取する魔力は不足気味になる。
そこで、彼らは人間を一方的に搾取する相手ではなく
『精』を得る代わりに『生』を与え共生する道を選んで生きており
人間とギブアンドテイクの関係を築いてきたのだ」
言葉を発するものはなく、皆ただ聞いているだけだ。
「続けていいかな?
現在は『条約』により守られている亜人達だが
それより以前、古よりその能力を知った時の権力者達の
一部の馬鹿どもが
淫魔達に対し、何を行っていたか知っているか? 」
「……捕えて、囲い込んで奴隷に……」
ウラキが吐き出すように呟いた。
「そう、権力者達(馬鹿者ども)は老いを恐れ、
彼らの体液を求めた。より純血で高位の淫魔のな」
歴史の中で
時の権力者達は
淫魔の体液を求め
彼ら、彼女らを狩り
自由を奪われた者達は
死ぬまで体液を搾り取られ
ことごとく
この世から消え去ってしまったのだ。
人間と共生するための能力が
皮肉にも
彼ら自身を絶滅に追いやったのだ。
「私も『亞人のための権利と保護に関する条約』の作成と締結には関わったのだが
それは主に、奴隷の様に狩られていた淫魔の保護を目的としたものだった。
だが、やっとの事で条約が発効されたその時には
既に世界から淫魔の純血種は絶滅し、
保護した混血達も数えるほどしか残っていなかった。
全く、皮肉なものだよな。」
ここで一旦彼女は言葉を切り、全員を見渡す。
「新たな迷宮が生まれようとし、ラビリンスシードがばら撒かれていると推察される中
絶滅したはずの、しかもエリクサーを作り出せる
淫魔が現れたとしたら、各国はどう動くと思う?
国以外にも、特に、法律なぞ関係ない阿呆な無法者達がそれを知ったら? 」
そう、我々はあまりに大きなミスを犯していた。
そこまで思い至っていた隊員達は多くなかっただろう。
多くの国は、表面上は条約に従うだろうが
悪質な国や力の弱い国ほど
淫魔存在は秘匿され
自国の利益のため
道具として利用されてしまう事を。
「君たちの軍務のことは理解しているし
知識不足なのも仕方ないことだ、しかし
そのために
貴重な、世界の宝とも言える
淫魔の自由と、生命が脅かされる事態に陥ってしまったのだよ。
これからは、もっとよく考え、慎重に行動してもらいたい
私からは以上だ」
そこで彼女の話は終わった。
しかし
まだ解決していない問題がある。
重苦しい空気を変えるため
相方にあえて質問してみる。
「エリクサーもだが、ラビリンスシードの対応はどうするんだ? 」
「ああ、それならおそらく大丈夫だ」
「なぜ」
「彼女が残した、いや、切り取られたが正しいか、
その尻尾があるだろ。
期限付きだが、
これを解析すれば手がかりは見つかるだろうな」
「期限? 」
「この尻尾は大部分が魔力でできているんだ。
だから、一定時間経過すると拡散して消えてしまうんだ。
もともとは、魔力を吸っている最中に何かトラブルがあり、逃げ出す際の
時間稼ぎと、魔力提供者への置き土産ってところだな
体液は残っていなかったが、魔力反応がわずかだが残っているんだよ
保管のため、厳重にシールドしているし
まあ、寝ずに解析すれば糸口はつかめるだろう
いや掴まなければならん。
そちらは任せてほしい。
その代わり、お前らにはきっちり自分達の仕事をしてくれ
ちゃんと淫魔の娘を見つけて保護しろよ」
彼女の言葉を受け私は強く頷き
隊員達へ指示を飛ばす。
「ああ、わかった。
皆、聞いたか?
情報漏洩を避けるため、この件は極秘事項とし郊外を禁ずる。
捜索については先に出した『重要人物』の保護のまま継続
詳細の報告は、私の方で信用のおける上層部へ行い
その後の行動は結論が出次第、追って指示する。
ここにいる者達は
他の小隊と交代の上、しっかり休養する様に。
解散! 」
私はそう言って
隊員達を下がらせた後
ウラキにそのままこの場に残る様、呼び止めた。
長いので分割にします。
説明回
あと一話分だけ
続きます。




