承認欲求
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・九重優衣(ココノエ ユイ
友香のクラスメイトであり、親友。
活発な金髪サイドテールの少女。
機械仕掛けの身体を持つ。
9
友香と優衣は昼食を終え、校舎内へと戻った。
そこは工学部棟で、白衣を着た、如何にもな学生たちが学園生活を送っていた。
だが、校舎内はいつもとは違う、異様なザワつきを見せていた。
友香たちの数メートル先には、大きな人だかりができている。
「ん?なんかあったのか?」
「さぁ……」
2人も何があったのかと気になったが、すぐにその理由がわかった。
人だかりが捌け、その中から注目の的となっていたシルエットが現れた。
その影は友香たちを見つけると、
「あ!友香ちゃん!」
手を振って、2人の元に駆け寄ってきた。
その人物は、友香のよく見知った少女だった。
「……!夢!?」
目を見開き、友香がその名を呼ぶ。
彼女の名前は白妙夢。友香たちの親友であり、天才舞台女優として世界的に活躍している英傑であった。
「久しぶり!」
「ええ、久しぶり」
友香とハグを交わす夢。
「優衣ちゃんも久しぶり!」
「ホント久しぶりだよな。2ヶ月ぶりくらいか?」
「それくらいかも!」
夢は優衣ともハグを交わすと、嬉しそうに微笑んだ。
そんな彼女に、横から友香が尋ねた。
「どうしたの?今、ミュージカルの世界ツアー中じゃなかったかしら?」
「そうだよ。それでね、次は日本でやるから一時的に寮に帰ってるんだ〜」
「あら、もうファイナルだったのね。確か場所は……京都だったかしら?」
「そうそう!はぁ…横浜でできれば友香ちゃんたちにも見てもらえたのになぁ……」
夢は残念とばかりにため息をつき、うな垂れた。
そんな彼女を見て、友香が苦笑する。
「ま、こればっかりは仕方ないわ。チャンスがあれば絶対見に行くから」
「……!約束だよ!」
「ええ、約束」
「私も行くからな!」
「うん!」
優衣と夢が笑い合う傍ら、友香の耳には周りのヒソヒソとした声が聞こえていた。
『おい、誰だよアレ?』『なんか妙に馴れ馴れしくないか?』『一人は九重優衣だろ?あのサイボーグの』『あの白髪の奴誰だよ』『反町友香だ。あの中華街の国立探偵』『あれがか!?』『なんであんな奴が白妙夢と一緒にいるんだよ?』
友香が横目で人混みを見つめ、不快そうに目を細めた。
夢は、世界で活躍する女優である。
一方、友香は一般人どころか、裏中華街に暮らす日陰者といってもいい。
しかし、そんな境遇など関係なく、2人は大親友といってもいいのだが、そんなことは部外者である第三者が分かるわけもない。
その違和感とも言える不釣り合い具合に、周りの大衆は驚きという不快感を示しているのだ。
加えて、夢は超絶美少女である。殊更に注目を集め、その度にこのような空気になるのである。
もはや、友香はもう慣れっこだったのではあるが。
友香は夢に視線を戻すと、笑みを浮かべ彼女に問いかけた。
「でも、こんなところで油売ってていいの?私みたいな闇市育ちといたらあなたのイメージ、傷ついちゃうわよ?」
その言葉に一瞬、目を丸くして驚く夢。だが、次の瞬間にはその感情は消え、険しい表情をする彼女の姿がそこにはあった。
「それ、もし本気で言ってるなら怒るよ。私は、そんな風には思わないし。肩書きや外見だけ見て人付き合いを変えるなんて、虚しい人がやることだよ」
声のトーンを数段落として、不本意とばかりに静かに語気を強める夢。
彼女の身体は震えていた。
「縁を軽んじ、取捨選択を自在にできると思うのは愚かで傲慢なことだって、前に友香ちゃんが言ってたでしょ?」
言いたいことは言い切った。
夢は息を吐き、力を抜く。
「あら、そうだったかしら?」
友香がニコリと笑い、首をかしげる。
「ええ、そうですよ。それに友香ちゃんは、私にとって大事な大事な、私のファン第1号だもん!」
「そう……嬉しいわね」
日本中を虜にした、屈託のない笑みで笑う夢。
友香は彼女から視線を外すと、照れ臭そうに笑みを浮かべた。
その顔を見て、満足とばかりに夢は大きく頷いた。
(私も肯定してもらいたかったのかしらね……)
ポツリと心の中で呟く友香。
信じてはいるのだが、一度でいいから本人の言葉で聴いてみたい。
一見、矛盾しているような……そんな先程の優衣の思いを、身をもって理解できた気がした。
「で?今日はどんな事件を追ってるの?」
友香に、興味津々と瞳を輝かせた夢が迫る。
どうやら閑話休題のようだ。
久しぶりに会った友人と近況報告をしたいのだろう。
そんな夢に対し、友香が困惑気味に返答する。
「え?別に何も追ってないけど……」
「え゛!?友香ちゃんが事件に首を突っ込んでないなんて……!明日は雪かも……」
「失礼ね。そんなに毎日、身の回りで事件が起きるわけないでしょ」
驚きの表情を見せる夢。
苦笑する友香。
「あ、そっか。言われてみればそうだね、あはは」
コロコロと表情を変える夢。
そんな彼女を見て友香は思った。
彼女はやはり演技の世界に向いているのだと。
そして、彼女と友達になれて本当によかったと。
つくづくそう思うのであった。
・白妙夢(シロタエ ロマン
友香、優衣の親友。
舞台女優として世界で活躍している少女。
ミディアムショートにした明るい茶髪と綺麗なタレ目が特徴。