次への一歩
主な登場人物
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
・足利孝之(アシカガ タカユキ
ベテラン刑事。清花の教育係。
中年太りの男性警部。
高校生になる娘がいる。
・一之江ことり(イチノエ コトリ
神奈川県警の鑑識官。階級は巡査部長。
清花のことを気に入っており、仲良し。
整った顔立ちと身体を持つが、性格はズボラ。29歳。
8
「ダメだね、こりゃ」
鑑識室に到着し、復元作業の進捗具合を尋ねた清花。
その問いかけに対し、鑑識官、一ノ江ことりがため息をつきながら発した言葉がこれだった。
「やはり、復元は難しそうですか?」
「うーん、できないこともないけど、すっごい時間かかるよこれ」
頭をポリポリと掻きながら、困ったような表情をすることり。
それが伝播したように、清花も似たような険しい顔をする。
「そうですか…」
「仕方ないな。どうすっかなこれから……カルテの線は諦めるか?」
腕を組んだ足利が問いかける。
清花は、少し考えるポーズを取ってから、
「いえ、諦めるのはまだ早いと思います。これから店に行きましょう。受付嬢が覚えているかもしれません」
清花は、このカルテに事件の真相を解く鍵があるはずだと考えていた。
可能性があるのならまだ諦めたくはない。彼女はそう思った。
「なるほどな…まぁ、こればっかりは記憶力が良いことを願うしかないな」
足利も今までの様子を見るに、同じなのだろう。彼が頭を掻き毟りながら、その可能性に一縷の望みをかける。
そんな刑事2人の会話を黙って聞いていたことり。彼女が、申し訳なさそうな声をあげた。
「うーん……力になれなくてごめんね」
ことりがガックリと、心苦しそうにうな垂れる。
「い、いえ、そんな……こちらこそ急に押しかけてしまってすみません」
そんな彼女を見て、清花は逆に申し訳ないことをしたと思った。
ことりは、人が行う鑑識作業を全て彼女一人でやっている。手の回らない、上手くいかない時もあるだろう。
そうなれば、最大限パフォーマンスを発揮できず、期待にも応えることもできなかい。彼女に歯痒い思いをさせてしまった。清花はそう思った。
それ故に、彼女は早めに退散しようと思った。
「んじゃ青山、そろそろ……」
「あ、はい」
その気まずさを感じ取ったのか、足利が声をかけてくれた。
「ごめんね、清花ちゃん」
しょんぼりすることりに、清花は、
「いえ、こちらこそ忙しい中すみません。引き続き復元の方、よろしくお願いします」
頭を下げ、警察官の先輩に最大の敬意を払ってから鑑識室を後にした。