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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
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主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・九重優衣(ココノエ ユイ

友香のクラスメイトであり、親友。

活発な金髪サイドテールの少女。

機械仕掛けの身体を持つ。

6


「そうね……なら私が、今からあなたの疑問に答えてあげるわ」



 いつも通り、友香が自信満々の笑みを浮かべる。

 その彼女が、優衣に問いかけた。



「優衣、あなたは今日、ここに来るまでどうやって来た?」

「え、どうやってって言われても、普通に電車に乗って来たけど?」

「そうね、私も電車を使ったわ」



 目を閉じ頷く友香。

 優衣は、彼女が何を言いたいのか意図が掴めず首を傾げた。

 友香が目を開け、再び口を開く。



「いい、優衣?つまりその電車が無ければ、今の私は存在しないということになるわ」

「て、哲学の話か……?」



 難しい話をされると思い、身構える優衣。

 そんな彼女に、友香は優しく微笑みかける。



「いいえ、単純な話よ。私は電車を使ってここに来た。その電車がもし無ければ「電車に乗ってここに来たこの私」は成立しないわよね?」



 本格的に、彼女が何を言いたいのかわからなくなってきた。

 優衣は、眉間に皺を寄せて、友香の真意を汲み取ろうと努めたが無理だった。

 ギブアップとばかりに優衣が結論を急ぐ。



「あ、ああ、それは分かるけどさ……それが講義の内容と、あと私の疑問とどう関係があるんだ?」


「その電車は、様々な要因が重なり合って「電車」という存在になり得ている。運転手がいなければ、線路が無ければ、元となった鉄が無ければ……いとも簡単に「電車」は無くなり、私は存在し得なくなる」


「ん?てことは……」



 なんとなく。なんとなくだが、優衣は、目の前の少女が何を言いたいのか分かってきた気がした。

 優衣は自頭は良いのだ。友香が順序立てて話せば、すぐに理解していた。



「そうよ、私たち人間は存在しているようでしていないような、そんな曖昧な存在なのよ。そんな物事のあり様を、仏教では「クウ」と言うわ」



 優衣は、ハッとした。



「あ、だからさっき、講義って…」

「ええ、そういうこと。仏教には中観チュウガン思想というものがあるんだけど、これは空の思想に従来より説かれていた縁起の思想が統合されたものなの。その観点から言えば、私たちは無数の縁によって今ここにいると言えるわ」



 優衣は、友香が導き出した回答に、その衝撃に、目を見開き呆然とした。

 そんな彼女にお構い無しに、少女が言葉を続ける。



「そもそも、私たちの始まりは何?両親が出会って結ばれて、私たちは初めてこの世に生を受けるの。それはあなただって同じでしょ?」



 友香が問いかけた。

 優衣は、すぐに何か言葉を返すことはできなかった。

 頭では理解できているのだが、その答えにいまいち自信が持てなかったのだ。

 口をついて出たのは、疑問形だった。



「そ、そう……なのかな?」

「そうよ。だから、あなたが整備や修理無しでは生きられないというのは、縁によってでしか存在し得ない人として当たり前のことなの。むしろ、優衣はよっぽど人として生きているわよ。人は一人では生きていない、生かされているんだから」



 優衣は、友香に後押しして欲しかった。自分の存在というものを。あり方を。認めて欲しかった。

 そして、彼女は断言してくれた。間違いなく人として生きていると。


 優衣は嬉しかった。安心した。親友である彼女が、認めてくれて。

 正直、自分が生きているかどうかなんてどうでも良くなっていた。親友の友香が認めくれている。その事実だけで、優衣は充分だった。



「私にとって優衣は大切な人よ。あなたの代わりなんていないんだから」



 それが反町友香の結論であった。

 大切な人。そう言われて、優衣は胸が温かくなった。それと同時に心の靄が晴れたような気がした。



「そうか……ふふ、ありがとな、友香」



 優衣は微笑み、親友に礼を告げた。

 その彼女も満足そうな表情をしていた。



「ええ、だから暴飲暴食は控えなさい。まぁ、どうせ、食欲を満たすことが人である証明とか思ってるんでしょうけど、そんなの私以外気がつかないわよ?」



 友香が苦笑する。優衣は目を丸くした。

 友香は気がついていたのだ。優衣のさりげないSOSに。

 もしかしたら、自分が質問することも想定していたのかもしれない。優衣はそう思った。



「友香は、何でもお見通しなんだな」

「当たり前でしょ?だって、私は生まれついての大天才、反町友香なんだから」



 いつもの数倍、自信満々な笑みを浮かべて友香が言い放った。

 その可笑しさに優衣が吹き出す。



「ぷっ、なんだよそれ」

「高飛車探偵って流行らないかしら?」



 すぐさま真面目な顔に戻って提案する友香。



「うーん、今の時代、それは人が遠のく一方だと思うぞ?」

「そうよねぇ……」

「あ!じゃあ、食いしん坊探偵なんてどうだ?」

「いいかもしれないわね、上手くいけば食品企業とのタイアップも狙えるわ」

「言っておいてなんだけど、何を目指してるんだよ……」

「ハンバーガー美味しい?」

「美味いけど、私は肉まんの方が好きかな?」

「比較対象」



 友香と優衣はそれが自然のように、談笑を始めていた。

 しばらく、2人はくだらなくも意味のある、青春の時を楽しんでいた。


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