ダブルミーニング
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・九重優衣(ココノエ ユイ
友香のクラスメイトであり、親友。
活発な金髪サイドテールの少女。
機械仕掛けの身体を持つ。
・生天目 響(ナマタメ ヒビキ
友香、優衣のクラスメイトで親友。
黒髪ロングをハーフアップにした少女。
天才ハッカー。バニラアイスが好物。
21
「飯だー!」
優衣が両手と、声を上げた。
物部と別れた友香は、優衣、響とともに昼食を摂りに学園の食堂を訪れていた。
時間帯のせいか、食堂は多くの学生で賑わいを見せていた。
「あの、今日まだ何もしてないんだけど……」
「お腹空いちゃったのね。朝ごはん食べてこなかったの?」
後ろに続く友香が、困惑気味にツッコミを入れる。
その隣にいた響が、苦笑しつつも優しく語りかけた。
時刻は12時半。午前講義が終わる時間だったが、彼女たちはまだ講義を受けていなかった。
「いやぁ、寝坊しちゃって……あはは」
苦笑しつつ頭を掻く優衣。
「ちゃんと寝ないとダメよ?夜更かしは美容の大敵なんだから」
「はーい」
(まるで親子か姉妹ね……まぁ、どちらにせよ優衣の方が歳上なんだけど)
2人のやり取りを眺め、そんな感想を抱く友香。
「それじゃ、ご飯取ってくるね!」
「私もお水を取りに行くわ」
「あ、私も手伝うよ」
優衣が食券を手に受け取り口へ向かう。
食券にはQRコードが印刷されており、リーダーに読み込ませると自動で料理を作ってくれるシステムになっていた。
物にもよるが、大体2分ほどで料理ができる。
彼女は、牛すきうどんを注文していたようだ。大きい器が載ったトレイを受け取る。
「さてっと」
優衣はごく自然な流れで、うどんの上に備え付けにあった紅生姜を盛った。
いや、盛ることはいいのだがその量が尋常じゃなかった。
次々と紅生姜をのせる優衣の横で、友香が目を丸くする。
「ちょ、ちょっと、優衣?いくらなんでも盛りすぎじゃない……?」
「?」
友香が戸惑いつつ尋ねる。
対して優衣は、首を傾げたあと、ニッと笑ってみせた。
「こうした方が美味いんだ!友香もやるか?」
「い、いえ、私は遠慮しておくわ」
「響は?」
「わ、私も遠慮しておこうかな?」
「そうか、また今度な」
屈託のない笑みを浮かべる優衣。
彼女は、今日初めてのご飯とあってか、ご機嫌なのか歌を口ずさんでいた。
「一度だけしか言わないの〜愛してるフリでもいいから〜私に告げて〜」
「何それ?」
友香がテーブルにコップを置きつつ、トレイを置く優衣に尋ねる。
「ん?最近ハマってるアーティストのkeywordっていう曲」
「BM9だっけ?本当好きね」
「ああ!この前、ライブに行ってきたんだ。いやぁ〜感動したよ!」
お弁当をカバンから取り出しつつ、感想を漏らす響。
それに倣い、友香もお弁当箱を取り出す。
優衣が、その熱狂を思い返すようにウンウンと頷いていた。
「……なるほど。keywordで愛の言葉、ね」
「お!よく気づいたな!そうなんだよ、これダブルミーニングでさ!ファンでも知らない人がいるんだ!」
3人が椅子に座る。
いやぁ友香はすげーよ!と優衣が言う傍らで、友香はハッとした。
「なるほど……!ダブルミーニング!!」
目を見開く友香。
次の瞬間には、少女は思考の世界に身を投げていた。
彼女は考えるポーズをとり、
「そういうこと……なるほど、これなら私が感じた違和感にも納得がいくわ」
不敵な笑みを浮かべながら、ブツブツと呟いていた。
「な、何がなるほどなんだ?私、何か変なこと言ったか……?」
その様子に、優衣が恐る恐る尋ねる。
「いいえ、むしろ逆よ。ありがとう、助かったわ」
「ど、どういたしまして……?」
何がなんだかわからず、首を傾げつつもとりあえずお礼を言っておく優衣。
その横から響がため息を吐きつつ、友香に釘を刺す。
「何かまた事件追ってるの?ほどほどにしておくんだよ?」
「ええ、心配かけないよう心がけるわ」
「そうじゃないよ。心配かけてもいいから、困ったらちゃんと私たちを頼ってってこと」
真剣な顔をして言う響に、友香が目を丸くした。
「……ふふ、ありがとう」
照れくさかったのか、うつむき目を細める友香。
「な、なぁ、そろそろ食べないか?」
待て。をされた犬のような表情をする優衣。
たしかにお腹が減った。
「それじゃあ、いただきますか」
「ええ」
「よしっ!「「「いただきます!!」」」
3人が手を合わせて、食事を始めた。
ブーッブーッ
そのとき、友香の板電話が音を立てた。
「あ、ごめんなさい」
ディスプレイには、青山清花の名前が表示されていた。
(清花…?)
「はい、もしもし、私だけど…何ですって…!?ええ…そう…わかったわ」
清花から聞かされた報告に、声のトーンを落とす友香。
少女は、昼食を前に談笑していたときとは打って変わって、険しい表情を浮かべていた。