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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
20/27

水の守護神像の下で

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。

20-1


 峯楼館を出た友香は、地図を頼りに劉未来の居住区を歩いていた。



(この角を曲がってまっすぐね…あれ?ここってたしか……)



 少女には、その景色に覚えがあった。

 そして、聞き覚えのある声が彼女の耳に入ってきた。



「ラッシャーイ!ナマコナマコ!ナマコだよぉーう!!」



 特徴的な呼びかけ、そして執拗なまでのナマコマーケティング。

 先日起きた誘拐事件の一件で顔見知りになった魚屋の店主、リョウだった。

 彼が友香に気がつき、声を上げた。



「お!?まっちゃんじゃねーか!!」

「久しぶりね、漁さん」

「おう!久しぶりだな。それよりも……今朝方いいのが手に入ったんだ。買ってかないか?ナマコ」



 なぜそこまでナマコを推してくるのだろうか。不思議な男である。

 というか、そもそもナマコの旬は冬なのだが……わかっているのだろうか。



「相変わらずナマコ売ってるのね。そんな高級品より、安い物をたくさん売った方がここのニーズには合ってると思うけど?」

「かっー!こりゃ厳しいね!」



 友香に痛いところを突かれ、豪快な苦笑をしながらガリガリ頭を掻く漁。



「ところで、まっちゃんは何しに来たんだ?普段ここ、あんま通らねぇだろ?」



 しかし、すぐに彼は真面目な顔をして友香に尋ねた。

 それに、少女がここに来た目的を話す。



「ええ、実は人を探していて…劉未来って人、知ってる?」

「ああ、劉さんか!知ってる知ってる。犬飼ってるおばあちゃんだろ?」

「ええ。これからその人に会いに、家に行くところなの」

「そうなのか…あ!今は劉さん家にいないぞ?」

「え?」

 


 意外なところから出た、意外な情報に驚く友香。



「いや、さっきうちの前を通ったんだ。だからいないと思ってな。たぶん、山下の公園に行ったんじゃないかなぁ?」

「あら、そうだったの。ありがとう、無駄骨折るところだったわ」

「いやいや、礼には及ばねぇよ」



 ニカっと笑う漁。



「それじゃあ、行ってくるわ」

「おう、気をつけるんだぞ!」

「ええ、ありがとう」



 漁に別れを告げ、公園を目指した。






20-2


 老婆は山下公園にいた。

 水の守護神像前の前のベンチに腰掛け、杖を立てかける。


 愛犬のプードルの頭を撫でていると、前から一人の少女が向かって歩いてきた。

 老婆は、少女のその容姿に目を奪われた。


 海風になびくピンクがかった白い髪。病的にまで白く細い肢体。そして、獲物を狩る猫のような鋭く澄んだ赤い瞳。

 大人と少女が、美しさと不安定さが同居しているような、儚ささえ感じられる空気をまとっていた。

 そんな少女が見つめてきたのだ。目を奪われない方がどうにかしている。

 老婆は、吸い込まれるように彼女を見つめていた。



「こんにちは、隣いいかしら?」



 そんな少女が話しかけてきた。

 老婆はハッと我に帰ると、杖を自分側に寄せる。



「こんにちは、どうぞ」

「ふう……かわいいワンちゃんね、名前はなんていうのかしら?」



 少女こと反町友香は、腰を落ち着けると尋ねた。



「フーちゃんっていうの。大人しい子だから撫でてみて?」

「え?……いいの?」



 友香は、意外そうに驚きつつ、フーの頭を撫でた。

 もしゃっとした毛の感触と、生き物の温もりが感じられた。



(犬もいいものね)


「本当に大人しいわね、この子。可愛いわ」

「私はね、この子がいるから生きていられるの。お嬢さん、あなたもかけがえのない何かをきちんと見つけるのよ。そしてそれを失わないように、失っても落ちぶれないように凛として生きるの」

「……ありがとう、心に留めておくわ」



 少女の表情を見て、老婆はハッとなってからため息をついた。



「はぁ、年を取ると説教くさくなっていやねぇ。老婆のたわごとだと思って聞き流してちょうだい」

「いいえ、その言葉の意味をよくよく考えてみるわ」



 友香がニコリと笑う。劉が少し困ったような、でも嬉しそうな表情を浮かべた。



「あ、ねぇーー」

「劉未来さんですね?」



 友香が何かを言おうとしたとき、二つの影が二人の前に現れた。

 二人が顔を上げると、そこには清花と物部の姿があった。



(物部署長…?)



 この場にふさわしくない人物の登場に、友香が眉をひそめる。



「周博然の件でお話があります。署までご同行願いますか?」

「……嫌と言っても連れて行くんでしょう?さぁ、行きますよ」



 老婆が立ち上がり、清花に連れられていった。

 物部が残り、彼女の後ろ姿を見送る。

 そんな彼を見て、友香が声をかけた。



「あなた、ホント自由ね。何しに来たの?」



 腕を組み、ため息混じりの友香。

 彼女に向き合った彼は、真顔で適当なことをぬかした。



「たまには街を散歩するのもいいかと思ってな」

「そんな理由で、あなたが現場に出てくるとは思えないけど?」



 笑みを浮かべ、首をかしげる友香。



「……フッ、お見通しか。俺も自由が利くうちに媚を売っておこうと思ってな」

「媚?私に?意味ないと思うけど……」

「お前というより、お前たちに、だな。薄々感じてはいるんだろ?」

「さぁ?何を言っているのかさっぱり分からないわ」



 友香が肩をすくめ、わからないというポーズをとる。

 そんな彼女に目を細め、



「君ならこの惨劇をどうにかしてくれると、そう思っているんだがな」

「……残念だけど、私はあなたに都合のいい探偵じゃないの。勝手にあなたの理想を、私に当てはめるのはやめてもらえないかしら?」



 友香がニコリと笑う。



「そもそも私、警察は嫌いなの」



 と付け加え、少女は表情を殺し、物部を睨みつけた。



「そうか」



 物部は、悲しそうに後悔するように目を細めた。



「でも……あなたのことは信頼してるわよ」



 友香が真剣な顔をして、彼を見つめる。

 物部も、黙って少女の瞳を見つめ返す。

 しばらくして物部が目を逸らし、満足そうに笑みを浮かべた。



「……フッ、それを聞いて安心した。また会おう」



 彼は目を伏せ、踵を返していった。

 友香は、その後ろ姿を意味ありげな表情で見つめていた。




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