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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
19/27

峯楼館の朝

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・李徳深(リー トクシン

シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。



・黒珠珠(ヘェジュウジュウ

シンが拾ってきた黒猫。

人懐っこく、好奇心も旺盛。

清花のことがあまり好きではない様子。

19


「で?李さんは朝帰りしてきたわけだけど、どうだったのかしら?」



 ニヤニヤと笑う友香。

 場所は峯楼館。友香が店前を通ったとき、タイミング良くシンが帰宅したのだ。

 少女が彼を店内に引き入れ、そして尋問が始まったのである。

 そんな彼女に対し、シンは相変わらずの無表情だったがため息を吐いた。



「何もない。寝かしつけて朝飯をご馳走になってきただけだ」



 その発言に、さらに友香が食いつく。



「ふーん、一緒にご飯食べてきたんだ。美味しかった?」

「……ああ、美味かったぞ」

「いいわね、微笑ましいわ」



 先ほどとは変わってニコニコと笑う友香。

 そんな彼女を尻目に、彼は席を立つとキャットフードの袋を手にした。



「昨日は一人にしてすまなかったな、黒珠珠」



 シンが、ケージの中で丸まっていた黒珠珠に話しかけながら、エサ皿にご飯を盛った。



「にしても、狭い部屋で2人っきりでおまけに相手はすごく綺麗な人よ?よく理性もったわね?」



 しゃがみこみ、黒珠珠を撫でる彼の背中に、友香は呆れ半分、感心半分で感想を漏らした。



「彼女は部屋に入って安心したのか、すぐにベッドで寝てしまったからな」

「あら、残念だったわね?」



 彼は、立ち上がると再び席に着いた。

 その後ろで、カリカリと黒珠珠がエサを食べる音が聞こえる。



「据え膳する気はさらさらなかったが、目の前で寝落ちされたらそれはそれで不愉快……そんな心境だ」

「悲しい男のサガね」

「……いや、彼女はとても気持ち良さそうに寝ていた。むしろ光栄に思うべきなのだろう」

「たしかに、そうかもしれないわね」



 手にした茶器を眺めつつ、呟くシン。

 そんな彼を見て、肘をテーブルにつき、くすくすと笑う友香。



「じゃあ本当に何もなかったのね」

「ああ。それに、俺には心に決めた人がいるからな」

「……そう」



 なぜか彼のこの発言を、友香は追求しなかった。

 少女はうつむき、悲しそうな哀れむような複雑そうな表情をしていた。

 そんな彼女を少し見つめ、顔をそらすとシンが呟いた。



「キスは血の味、か」



 バッと顔を上げ、目を丸くして彼を見つめる友香。



「え!何何!?キス!?詳しく教えて!!」



 友香は今朝と同じように、身を乗り出して瞳を輝かせる。

 だが、対照的にシンは冷めたような表情だった。



「10年以上も昔の、懐かしい記憶の話だ」

「ああ、玲奈さんと、ってわけじゃないのね。なーんだ、つまんないの」



 それと同時に友香も興味をなくしたようだった。



「フッ、だから最初に言っただろう。何もなかったと」

「お似合いだと思うんだけどなぁ」


(控えめだけど、表情がコロコロ変わって笑顔が素敵な人だったなぁ)



 わちゃわちゃと両手を動かす、忙しない彼女が脳裏に浮かぶ。

 そして、最後に思い出されるのはやはり笑顔の彼女だった。

 そんな彼女と、一見不愛想だが面倒見のいいシンはお似合いだと友香は思ったのだ。



(シンには幸せになって欲しいしね。上手くいって欲しいわ)



 友香は恩師の幸せを願って、この話題を終了させた。

 ここに来た、本来の目的を達成するためだ。



「あ、そうだ」



 友香が両手を合わせる。



「訊きたいことがあったの。劉未来が、どこに住んでいるか知ってる?」



 ここに来た目的、それは、事情通の彼から事件に関する情報を得ることである。



「ほう、劉未来なのか。3人分調べていたんだが……まぁいい、持っていけ」



 彼女の問いかけに興味を示しつつ、彼はテーブルの上にB5用紙を置いた。



「これは?」

「劉未来の居住区と交友関係に関する情報だ。これといった、気になる点はなかったがな」



 友香がペラペラと紙をめくる。

 2枚の紙はホチキス止めされており、友香が知りたかった情報が見やすいレイアウトに収められていた。



「個人情報のフルコースなのね。助かったわ、ありがとう」

「また何かあったら言ってくれ」

「ええ、そのときは頼らせてもらうわ。それじゃあ、そろそろ行くわ」



 友香は、紙を丁寧に折りたたみ、スカートのポケットに仕舞うと腰を上げた。


 叶うことならば、ずっとさっきのような他愛もない会話を続けていたい。

 だが、これは仕事なのだ。少しでも家計の足しになればと、彼女自ら始めた仕事なのだから。



「気をつけるんだぞ」

「ええ、行ってきます」



 彼に別れを告げた友香は、店の扉を開けた。



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