イレギュラー
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
・足利孝之(アシカガ タカユキ
ベテラン刑事。清花の教育係。
中年太りの男性警部。
高校生の娘がいる。
18
一方その頃、清花は仕事場である中華加賀町署へ出勤していた。
署内にある駐車場に車を止め、建物内へ入ろうとしたとき首輪が着信を伝えた。画面が照射され、『足利孝之警部』の文字が躍る。
通信をオンにして回線を繋ぐ。
「はい、青山です」
『青山、俺だ』
努めて平静を装っているようだったが、清花には、彼の声が少し焦っているように感じられた。
「おはようございます、足利警部。どうされました?」
その異変を感じ取った彼女が、彼に問いかける。
『ああ、実は娘が熱を出してしまってな。すまないが、今日は俺以外の誰かと組んでくれ』
「それは大変ですね……娘さんは大丈夫なんですか?」
『ああ……本人は、1日寝てれば治るとは言ってはいるんだが心配でな……これから病院なんだ』
彼の声の背景に、呼び出しのアナウンスが聞こえた。
おそらく待合所に入ったのだろう。
「そうですか……お大事になさってください」
『ありがとよ。このことは係長には伝えてあるから、上に指示を仰いでくれ。頼んだ』
「はい、失礼します」
通信を切り、署内へ向かおうとしたときだった。
「青山君」
背後から、清花を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには中華加賀町署署長、物部警視正の姿があった。
「も、物部署長……おはようございます」
意外な人物に出くわし、彼女は少し驚いていた。
そんな彼女とは反対に、自然にフランクに話しかける物部。
「ああ、おはよう。今日は足利は休みだそうだな」
「あ、はい。その件なのですが……」
「刑事係長から聞いた。相方を探しているんだろう?」
「ええ」
世間話をするのも悪くはないが、早く捜査に向かいたい。
清花は、話を切り上げ、指示を仰ぎに向かおうとしたのであるが、
「そのことなら安心しろ。今日は私と組んでもらう」
「は?」
あまりに想定外な発言に、清花は素っ頓狂な声を上げた。
「さぁ、仕事だ。車を出してくれ」
ポカンとする彼女にお構い無しに、車に歩み寄る物部。
ハッとして、慌てて追いかける清花。
「い、いえ、署長……お仕事は……?」
「心配するな。今はこの仕事がなによりも大事なことなんだ」
「は、はぁ……」
彼は、表情ひとつ変えず言ってのけた。
仮にも一警察署のトップである。自由が過ぎると思いつつも、上司であるため清花は何も言えなかった。
しかし、まぁ、わざわざ指示を仰ぐ必要も無くなったため、楽といえば楽なのだが。
「一度、君のスープラに乗ってみたかったんだ。よろしく頼む」
「え、えぇ……わかりました」
清花が困惑気味に了承し、車のキーロックを解除する。
「君たちがどんな捜査をしているのかは、首輪からの情報でおおよその検討はついている。今日はどうするんだ?青山君」
助手席に乗り込み、シートベルトを締めながら物部が問いかけた。
清花が、車のエンジンをかけながら返答する。
「被害者と直近で交流のあった3人を当たります。まずは、街外に住むルイス・ローランから行くつもりです」
「異論はない。了解した」
清花は、前を向いたまま頷いた。
「ありがとうございます。では、今日一日、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
そう言って彼女は、ナナマルのサイドブレーキレバーをゆっくりと下ろした。