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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
17/27

神津家の朝

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・李徳深(リー トクシン

シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。



・黒珠珠(ヘェジュウジュウ

シンが拾ってきた黒猫。

人懐っこく、好奇心も旺盛。

清花のことがあまり好きではない様子。

17


 峯楼館ほうろうかんでの食事会から一夜が明け、中華街は再び朝日に包まれた。

 シャワーを浴び終わり、居間で髪を乾かしていると柳があくびをしながら起きてきた。



「毎晩お風呂入ってるのに、よく朝早くからシャワー浴びれるわね」



 友香の横で、コップに水を汲みながら関心半分皮肉半分に柳が言った。



「……?学校に行くなんて好きな人に会いに行くのと同じようなものよ?できる限り、綺麗な私を見て欲しいもの」



 そう言って微笑む友香。

 彼女自慢のピンクがかった白髪が、ドライヤーの風を受けて宙になびく。

 あたりにふんわりと、彼女の微かな甘い香りが漂っていた。



(なるほど、お弁当もその一環てわけね。勉強と自分磨きが恋人とか真面目か)



 柳は、そこまでやるかと、可愛く盛り付けられた小さなお弁当箱を見つつ呆れ顔をした。



(うーん、私の恋人のためにももう少し控えて欲しいものね。家計っていう燃えてる恋人の)



 心の中でジョークを飛ばす柳。



「あ、もちろんご飯もできてるわよ。食べる?」

「あ、ありがとう」



 黙り込んでしまった柳に対して、友香が提案する。

 2人は揃ってテーブルに着いた。



「そういえば、昨日は何の仕事をしてたの?」



 友香が茶碗にご飯を盛りつつ、柳に尋ねる。



「あー……窃盗かしらね」

「……何か引っかかる言い方ね。詳しく聞かせて?」



 友香が、ほかほかのご飯が入った茶碗を柳の前に置いた。

 ありがとう。と礼を言いつつ受け取る柳。

 彼女が少女に答える。



「この前、お世話になってる家の奥さんから、物がなくなるからその泥棒を捕まえて欲しいって依頼を受けてたのよ。それで張り込みをしてたの」

「へぇ、それでその犯人は見つかったの?」



 自分の分のご飯をよそいつつ、友香が会話を続ける。



「ええ、まぁ。犯人は中華街に住むサバトラ柄の野良猫だったの」

「猫?ああ、だから」



 友香はさきほどの柳の歯切れの悪さに納得がいった。

 たしかに、猫がやったことを窃盗と言うのは相応しくないような気もする。



「そ、猫。母親猫だったみたいでね、子猫たちに食べ物を与えていたのよ」

「ふーん……」


(どこの世界でも親は大変なのね……)


 いただきます。と柳が朝食を食べ始める。

 それに習い、箸を手に取る友香。



「で、どうなったの?その子たちは」

「それが、横山さん……その奥さんがその子のことを気に入ったらしくてね、子猫もまとめてお世話するって言い出したの。旦那さんも子猫たちにデレデレだそうよ」



 苦笑しながら、少し嬉しそうに柳が語る。



(その猫、ムスッとしてて警戒心も強くて、まるで出会ったばかりの清花みたいだったんだけど……まぁ、わざわざ言う必要もないでしょう)



 猫の顔を思い出した柳が、心の中でひとり、親しい女性の顔を思い浮かべた。



「まさに猫可愛がりなのね。でもよかったわ。その子たちに里親が見つかって」

「ええ、本当、いい人たちで助かったわ」



 柳が胸を撫で下ろし、ため息をついた。

 彼女の話を聞いているうちに、友香はあることを思いついた。



「猫いいわね、猫。あとで黒珠珠へェジュウジュウに会いに行こうかしら?」



 友香は、猫好きである。

 何者にも縛られず、気高いその生き様が好きなのだそうだ。

 特に、よく懐いてくれる黒珠珠が彼女のお気に入りであり、会いに行こうとしたのだが、



「李さんのところ?やめといたら?今日は彼、いないと思うわよ?」

「え?なんで?」



 柳に止められてしまった。

 当然、友香はそれを不可解に思ったようだ。すかさず疑問を投げかける。



「え、なんでって……あっ!」



 不味いことを口走ったと、自分の口をバッ!と覆う柳。

 その様子を友香は訝しげに見ていたが、すぐにピンときたらしく身を乗り出し、興奮気味に声をあげた。



「何何!?シンと玲奈さんに何かあったの!?」



 珍しく無邪気に瞳をキラキラさせ、野次馬根性を発揮する友香。

 国選探偵といえど、友香は春真っ盛りの中学二年生である。恋愛話、いわゆる恋バナには興味深々な年頃なのである。


 だが、事態が事態に少女を抑えようとする柳。

 2人の間に、戦いの火蓋が切って落とされた。



「あなたにはまだ早いわ!この話はもうおしまい!」

「いいじゃない!聞かせなさいよ!シンが玲奈さん送って朝帰りコースなんでしょ!?」

「!?なんでそれを知ってるのよ!!」

「あ!やっぱり!」

「あー!カマかけたわね!!」

「ふーんだ!内緒にするのが悪いのよ!」



 言え言わないの激しい攻防がしばらく続き、その戦いを制したのは友香だった。

 朝から大声を出した上に勝負にも負け、その疲労感と敗北感に襲われる神津柳32歳であった。




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