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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
16/27

祭りの余韻

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・李徳深(リー トクシン

シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。



・周玲奈(シュウ レイナ

中華街大通りに店を構える、周ペットクリニックの受付嬢。

院長、周博然の娘であるが、血は繋がっていない。

髪型は、黒髪ミディアムヘアをうなじの辺りでお団子にしている。

右目の目尻にある泣きぼくろが特徴。28歳。

16-1


 峯楼館での食事会も解散となった後、友香は清花を見送るために、看板がネオンの輝きを見せる夜の街へと出ていた。

 夜10時。この時間帯になると大通りは、顔を赤くしたサラリーマンや帰路へと着く観光客で、ある種の賑わいを見せていた。


 友香と清花は、豪華絢爛な装飾が施された青龍門をくぐり、道路を渡った左手側にあるコインパーキングにいた。


 ロック板が下がり、清花がナナマルのエンジンをかける。

 リトラクタブルのヘッドライトが開き、目の前のアスファルトを照らし出した。

 彼女は車を駐車枠から発進させると、友香の横で止め、窓を開けた。



「それでは、失礼します」

「ええ、気をつけて帰るのよ」

「はい、友香も気をつけて。おやすみなさい」

「おやすみなさい」



 挨拶を終えた清花は窓を閉めると、再びクラッチを繋ぎ、全く人気のない道路へと車を進めた。

 それを追って、歩道へと向かう友香。

 パン!と音を立て、ナナマルは走り去っていった。



(また変な改造したわね)



 友香は、彼女のこだわりに心の中で苦笑しつつ、見えなくなるまでその後ろ姿を見送った。



「さて、私も戻ろうかしら」



 少女が中華街に顔を向けたとき、一陣の風が吹いた。思わず右手で顔を覆う。

 その優しい夜風は、慈しむように友香の髪を撫でた。






16-2


 一方その頃、シンは、玲奈のアパートを訪れていた。

 夜中に女性一人を出歩かせるのが憚れ、また彼女が慣れない酒で酔っ払ってしまったため、シンが見送りを申し出たのだ。

 柳は何かを察したのか、店先で別れていた。



「今日はすまなかったな。博然さんのことで大変だろうに誘ってしまって」

「そ、そんな謝らないでください……いい気分転換になりましたから。それに家まで送ってくださって……」



 ほんのりと紅潮した顔、とろんとした瞳で微笑む玲奈。



「気にするな。それならまた、近いうちに招待させてもらおう。それじゃーー」



 シンが別れを告げたときだった。

 彼は、自分の背中に何かがしなだれかかってきたのを感じた。

 玲奈だった。



「行かないでください……」



 玲奈がシンの背中に顔を埋め、声を絞り出す。



「ひとりは、嫌です」



 涙をこらえているのか、その声は震えていた。

 今にでも消えてしまいそうな、そんな儚さを感じた。



「夢を見るんです。夢の中での私は子供の体で、どこかの路地裏でひとりぼっち、空を見上げるんです。空は雲ひとつなく青が広がっていて、暖かい太陽が私を照らしているんですけど、なぜかすごく寒いんです……寒くて死んじゃうんじゃないかってくらい。それが怖いんです。明るくて真っ暗……私もこのまま目を覚まさないまま、凍え死んじゃうじゃないかって……」



 シンが振り返る。

 自らの震える身体を抱き、うつむく彼女の目尻には涙が溢れていた。

 彼女は彼を見上げ、思いの丈を吐き出す。



「こんなのずるいってわかっています。でも、ひとりぼっちになるのはもう嫌なんです。私、お父さんがいなくなったら、本当にひとりぼっちになっちゃう……」



 彼女は、ついに感極まったのか、顔を手で覆ってしまった。

 シンが彼女の肩に触れる。


 人は生きている限りひとりではない。とは、ついさっきシンが言ったことだ。これは、シンが信奉しているところである。

 しかし、彼女の心が勝手に感じる孤独感だけは、彼女ではない彼にはどうしようもないのである。

 彼女の瞳がシンの双眸を捉える。



「今夜だけでいいんです。一緒にいてください……お願い……します」



 最後は消え入りそうな声で、うつむき、黙り込んでしまった。

 シンはわかっていた。彼女が酔っていないことを。酔っ払ったフリをしていたことも。彼はわかっていた。

 彼は全てを知った上で、彼女を受け入れた。



「今夜だけだ」



 彼の答えに、目を開き、パッと顔を上げる玲奈。



「ありがとう……ございます……」



 震える声で彼女は礼を述べ、頭を下げた。

 シンは彼女を促し、部屋の扉を開けさせる。

 そして2人は、古アパートの一室へと姿を消していった。


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