友香
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
15
「あ、あの……」
捜査情報を共有する友香たちの様子に、控えめながら申し出する声があった。
周玲奈である。
「そんなこと教えていいんですか……?捜査情報じゃ……」
少女の様子をチラリと見ながら、玲奈がおずおずと清花に尋ねた。
それは当然の反応である。が、こと友香に至っては例外なのである。
「ああ、言っていませんでしたね。大丈夫ですよ、この子は国選探偵ですから」
「こ、国選探偵……!?こんな小さい子が柳さんと同じ国選探偵なんですか……?」
柳の肩書きは知っていたようだ。
知っているのなら、なおさら驚いたことだろう。
「タイミングを逸していましたが、その子は一体……?」
友香を恐る恐る見つめる玲奈。
「ああ、そういえば紹介していなかったな。こいつは……俺の弟子の反町友香だ」
「で、弟子……!そうだったんですか!」
シンが友香の正体を明かす。
玲奈は、友香の顔を見て、シンの顔を見て再び友香の顔を見た。
「初めまして。国選探偵で、李徳深の弟子の反町友香よ。いつもお世話になってるわ。よろしくお願いするわ」
「よ、よろしく……」
友香が笑みを浮かべ、きちんと玲奈の目を見つめ、自己紹介をした。
一方、玲奈は、少女の笑みから凄みでも感じているようだ。人見知りのような、引き気味な挨拶をしていた。
「まぁ、弟子であり、師でもあるがな」
その様子を尻目に、シンがワイングラスを見つめながら呟いた。
「どういうこと?」
言われたことがわからず、怪訝な表情をする友香。
彼はその疑問には答えず、顔を上げ、逆に彼女に問いかけた。
「アーユ、お前にとって香りとは何だ」
「香り?そうね……」
その問いに、少し考えるポーズをとる友香。
そして彼女は答える。
「それ単体では存在できないもの。何かがあって初めて成り立つもの、それが香りよ」
「その通りだ。そしてそれは、俺達人間も同じだ。人も独りでは生きてはいない。そういうことだ」
彼女は、彼の言いたいことを理解していた。
そしてそれを、母親が残した言葉と重ねていた。
(友達を大切に……か)
人は人と関わることで、様々なことを学び、日々進化を続けているのだ。
目にも見えず、実感も湧かないごく微量な変化ではあるが。それが縁の持つ力であると、シンは言っているのだ。
それはもちろん、友香も信奉しているところである。
「……香りを薫じる華もまた、何かがなければ香りを薫じることはできない」
少女が言葉を生ける。
彼の言葉には、忠告めいたものも含まれていた。
それは、ひとりの人間には限界があるということだ。
「大丈夫よ。私の華は、そう簡単に枯れたりはしないわ」
「……そうか」
友香が不敵な笑みを浮かべた。
彼女は示したのだ。
自分には心強い仲間がいると。その仲間に支えられている自分は、そうヤワではないーーその仲間が困ったとき、手を差し伸べられるほどに自分を熟成させていると。
そう示したのである。
「フッ、そうだったな……」
彼は、子どもの成長を喜ぶ親の気持ちがわかった気がした。
少女の言わんとしていることを理解したシンは、口元に笑みを浮かべ、満足そうにワインを煽った。