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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
14/27

情報収集

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・李徳深(リー トクシン

シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。



・周玲奈(シュウ レイナ

中華街大通りに店を構える、周ペットクリニックの受付嬢。

院長、周博然の娘であるが、血は繋がっていない。

髪型は、黒髪ミディアムヘアをうなじの辺りでお団子にしている。

右目の目尻にある泣きぼくろが特徴。28歳。

14


 峯楼館ほうろうかんでの食事会が幕を開けた。

 自宅ではないものの、よく来る場所だからか、友香たちはリラックスしていた。

 一方、玲奈れいなはチラチラと辺りを見回したりと忙しない様子だった。

 家主であるシンは、友香の目の前でワインの栓を抜いていた。



「青山は……車か」

「はい、またの機会にお願いします」

「ああ。神津先生と玲奈は飲むか?」



 コルクの香りを嗅ぎつつ、2人に尋ねるシン。



「ありがとう、いただくわ」

「い、いいんですか!?ありがとうございます!」



 グラスに赤い液体が注がれる。

 シンが香りを確かめ、他の2つにも注ぐ。



「友香、オレンジジュースでいいですか?」

「ありがとう、お願いするわ」



 年少組ーー最も清花は成人だがーーはソフトドリンクである。

 清花が、2つのコップに紙パックに入ったオレンジジュースを注ぐ。



「それじゃあ、食べるとするか」



 それぞれ飲み物が行き渡ったことを確認し、シンが音頭をとった。



「いただきます」

「「「「いただきます」」」」



 全員が手を合わせ、こうべを垂れる。

 それから、各々料理に手をつけ始めた。


 友香は、手始めにビシソワーズスープを口に運んだ。

 どろっとした液体は、ひんやりとしていて、口当たりが涼しげで気持ちよかった。塩加減もちょうどいい。


 大人組は、ワインの香りと味わいを確かめるようにグラスに口をつけていた。

 ただ、玲奈だけは、手にしたグラスの中で光沢を放つ、ルビー色の液体を無邪気な瞳で見つめていた。



「私も早く、お酒が飲めるようになりたいわ」



 そんな彼女たちを見て、友香が呟いた。



「そんなのすぐですよ」

「青山の言う通りだ。お前と酒が飲める日を楽しみにしている」



 清花が微笑み、シンもそれに同調した。



「最も、俺は酒を飲んでいるわけではないがな。五感へと訴えかける、芸術作品とも言える情熱と気高さを鑑賞しているんだ」

「そう……」



 そう付け加え、彼はグラスを傾けて色を見つめていた。

 そんな彼を見て、少し考えた後、友香は言った。



「なら、今の私でも飲めるわね?」



 シンが再び友香の双眸を捉え、少しの間を置いた後、



「……俺が飲んでいるのは酒だ」

「あら、残念」



 ため息混じりに負けを認めた。

 一方で、満足そうにいたずらっぽい笑みを浮かべる友香。



「だがより一層、お前と飲む日が来ることが楽しみになった」

「私もよ」



 シンは、表情には出さなかったが、少し照れくさそうにそう言った。

 友香は、彼を見つめ笑みを浮かべた。



「その時は私も一緒よ?あなたが飲みすぎないように、ちゃんと見張っておいてあげるわ」



 ワイングラスを片手に、柳が友香に微笑みかける。



「いや、敢えて潰れるまで飲ませた方がいい。己の限界を知るためにな」

「それも一理あるわね」

「前にそうやって私のこと、父と二人掛かりで潰して笑っていたじゃないですか!ヒドイですよ!」

「それは災難でしたね……ところで、玲奈さんが泥酔するとどうなるんですか?」

「ああ、それはだな」

「ちょ、ちょっと!それは言わない約束じゃないですか!!」



 歓談しつつしばらく料理を楽しんだ後、友香が話を切り出した。



「そういえば清花、今どんな事件を追ってるの?シンを取り調べたって聞いたけど、一体、どんな事件なのかしら?」



 清花の手が一瞬止まる。

 それと同時に、その場にいた全員が彼女に注目した。

 彼女は箸を置くと、事件の内容を探偵少女に語り出した。



14-2


「昨夜の10時頃、大通りにあるペットクリニックの店主が何者かに襲われました。被害者の名前は周博然しゅうはくぜん、63歳。彼は、鈍器のような物で後頭部を殴られ、現在意識不明の重体。店内は荒らされており、ペット問診用のカルテが数枚盗まれていました。おそらく、犯人が足がつかないよう隠蔽を図ったのでしょう。警察は物盗り、怨恨、その両方を視野に入れ捜査中です」


「そしてその周博然こそ、ここにいる周玲奈の父親だ」



 清花が事件のあらましを一息に述べた。

 それに、シンが付け加える。


 名前を出された玲奈は、友香が横目で見ると、事件の話とあってか先程とは打って変わって険しい表情をしていた。



「容疑者の目星はついてるの?」

「はい。玲奈さんの協力により、3人の人物が捜査線上に浮上しました」



 友香の質問タイムだ。

 それに清花は、できる限り多くの情報を提示する。



「その名前と素性は?」

「一人は、劉未来りゅうみらい。中華街に住む、プードル犬を飼っている老婆です。身寄りもなく、年金暮らしだそうです。それから盧秀明ろ しゅうめい。ゴールデンレトリバーの飼い主で、中華街で書店を営む初老の男性です。最後に、ルイス・ローラン。中華街から1キロほど離れた所にあるマンション在住、ロシアンブルーを飼っているフランス人です。容疑者はこの3人です。それとアリバイが証明された李さんですね」



 これもまた一息に答える清花。

 何も見ずに情報を提示できるのは、しっかりと事件の内容が頭に入っているからだろう。

 彼女は優秀な警察官であるとつくづく思う。



「ふーん……ちなみにその選別の基準は?」

「先程、店からカルテが盗まれていると言いましたが、その中から直近でトラブルがあった人物や店を訪れていた人物に条件を絞りました」

「なるほど……私も同意見よ。おそらく、その3人の中に犯人がいるわね」



 腕を組み、真剣な表情をする友香。

 彼女に同意見と言われ、清花は自分の推測が認められたようで少し嬉しかった。



「あと、こちらもアリバイが証明されてしまいましたが、吴浩三ウーコウゾウという人物が、周博然と金銭トラブルを起こしていました」

「金銭トラブル?」



 できる限り、余すことなく情報を伝えるため、解決済みではあったが清花はきちんと伝えた。

 案の定、友香が目をピクリと動かし、食いついた。



「はい。吴浩三は数ヶ月前、周博然に5万円程貸したそうでその返済を巡って口論になっていたようです。付近の住民がその現場を目撃しています」

「嘘です!!」



 今まで黙って聞いていた玲奈が、机をバン!と勢いよく叩き、立ち上がった。

 その思いがけないことに、友香と清花がピクリと肩を震わせた。



「父が、誰かにお金を借りるはずがありません!!父は言っていました。金の切れ目が縁の切れ目。無用なトラブルは避けろと。そんな父が、誰かからお金を借りるなんてありえません!何かの間違いです!!」



 玲奈が悲痛に訴えた。

 育てのとはいえ、父があらぬ不名誉を着せられそうになっているのだ。彼女が必死で父親の人間性を説く。

 そして、それに呼応したかのように、それに同意する声が聞こえた。



「俺も似たような印象だ」



 シンである。彼は、いつにも増して鋭い目つきをしていた。



「李さん…!」



 玲奈は、彼の言葉に瞳を潤ませた。

 その彼女の表情は、まるで曇り空に光が差し込んだようなものだった。

 シンが言葉を続ける。



「あの博然さんが、人から金を借り、踏み倒すような真似をするとは思えない。貸して踏み倒されるようなことはあってもな。それは、その吴浩三の証言か?」



 シンが清花に問いかける。



「はい、彼の証言です。住民もどちらが借りたかまではわかっておらず、ただ2人が大声で口論をしていたとだけ……」

「人が口を利けないことをいいことに、好き勝手言いやがって」



 表情にこそ出さないが、彼の言葉からは怒りがひしひしと伝わってきた。

 そのことに、友香の琴線が触れた。



「随分とその人のこと信頼しているのね。せっかくだから、その周博然の人柄やエピソードを聞かせてもらえないかしら?」

「ああ、構わない」



 シンは頷くと、語り出した。



「俺がまだ20代の頃、香港からここに移り住んで間もない俺を助けてくれたのが博然さんだった」



 彼は、その時代を懐かしむように、遠くを見つめる。



「右も左もわからない余所者の俺を、博然さんは快く受け入れてくれて、この街のことや経営者としてのノウハウをも教えてくれた。この店も、彼の助言あってのものだ。あの人がいなかったら今の俺はない。そして、阿友香アーユたちと出会うこともなかっただろう」


「そうね、わからないことがあったら博然に訊け。私が中華街に来たとき、みんな口を揃えて言っていたことよ。事実、博然さんは中華街の自警団を率いていたし、私も公私ともに何度もお世話になっているわ」



 相槌を打ち、自らの体験談を語る柳。



「わからないことがあったら博然に訊け、か。フッ、言い得て妙だな。あの人に関しては悪い噂を聞いたことがないからな。中華街においては、最も信頼の置ける人物だ」



 彼が頷く。

 2人の証言を聞いていた清花は、眉をひそめた。



「取調室で吴浩三から聞いた証言とは印象が180度違いますね」

「シンも柳も玲奈さんも、周博然をよく知っている。その3人が好印象を抱いているにもかかわらず、吴浩三は、それとは全く逆の印象を受ける証言をした。彼、嘘をついてるわね」



 友香は、そう結論付けた。

 初対面の玲奈はともかく、シンや柳が有する人を見る目は、疑いもなく一流であると友香は確信していた。加えて、シンは長年この中華街に住んでいる。そんな中、悪い話を一切聞かないとなると、相当高潔な人物であることが伺える。



「明日、また取り調べしてみます」



 義理堅い清花が、3人の証言に動かされたのか再調査を約束してくれた。

 友香が清花を見て、真剣に頷く。



「ええ、頼んだわ」

「あ、あの……」


 

 そんな彼女たちの様子に、控えめながら申し出する声があった。



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