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華ノ探偵少女・反町友香  作者: 空波宥氷
13/27

峯楼館 de ディナー

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・神津柳(カミツ ヤナギ

中華街で探偵事務所を営む女性。

カールしたショートボブと眼鏡が特徴。

友香の叔母にあたる、母親的存在。32歳。



・李徳深(リー トクシン

シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。



・黒珠珠(ヘェジュウジュウ

シンが拾ってきた黒猫。

人懐っこく、好奇心も旺盛。

清花のことがあまり好きではない様子。

13


 夜7時。

 すっかり日も長くなった8月だったが、すでに日は落ち、街灯がアスファルトを照らしていた。


 反町友香そりまち ゆうかは一度自宅へ戻り、柳とともに再び峯楼館ほうろうかんを訪ねていた。

 恒例の食事会である。


 ただいつもと違うのは、シンが黒珠珠ヘェジュウジュウの心配をしたため、夜市ナイトマーケットではなく峯楼館での会食になったということだ。

 友香が店奥のキッチンスペースで手伝いをしていると、清花が現れた。



「先程は、大変失礼いたしました」



 彼女の第一声がそれだった。

 仕事とはいえ、日頃世話になっている人に疑いをかけ聴取したのだ。加えて、人一倍義理堅い清花のことである。過去の自分の行いが許せなかったのであろう。

 彼女が頭を深々と下げる。



「謝ることはない。それがお前の仕事だ。むしろ誇りを持て」



 そんな彼女をシンが諭す。



「すみません……ありがとうございます」



 清花が申し訳なさそうに礼を述べる。

 彼女は、自分の仕事を理解されて嬉しかったようで、少し安堵の表情も現れていた。



「にしても意外ね。リーさんが野良猫の心配をして、病院に連れて行くどころか看病のために外食を控えるなんて」



 テーブルに料理が載った皿を並べながら、柳が感心する。



「俺も血の通っているひとりの人間だ。それに、中華街で困っている奴がいたんだ。助けるに決まっているだろう」



 自らの信条を示しつつ、黒珠珠ヘェジュウジュウに餌が入った皿をやるシン。

 彼女は、清花が来た途端、ケージの中に入りこちらに背中を向けてしまった。

 尻尾が不機嫌そうに揺れていた。



「困ってる奴……人だけじゃなかったのね」



 自分が世話になっていた頃をーー今もであるがーー思い出したのだろう。

 友香が鍋の火を見つつ、目を細めた。



「あ、こっちもそろそろ盛り付けする?」

「そうだな」



 振り返り、シンに尋ねる友香。

 彼は鍋を覗き込みながら頷いた。

 さながら親子のようなやり取りだった。



「よいしょっと」



 赤いチェック柄のミトンを手に嵌め、ラタトゥイユが入った鍋をテーブル中央に運ぶ友香。

 シンは玉杓子を使い、もうひとつの鍋で作ったリゾットを取り分けていた。



阿友アーユ、手が空いたら冷蔵庫からサラダとスープ、あと飲み物を出してくれるか?」

「わかったわ」

「私も手伝います」



 作業を続けながら指示を出すシン。

 その横で、柳が取り分けられたリゾットを運んでいた。

 友香が清花とともに、サラダとスープ、飲み物をテーブルに並べる。



「よしっと……これで完了かしら?」

「すごい豪華ですね……これ全部、李さんが?」

「ああ、まぁな」



 テーブルの上は、サラダ、ビシソワーズ、ラタトゥイユ、リゾットと色とりどりの豪華な料理で飾り付けられていた。

 高級な食材を使っているわけではなかったが、決してその費用は安くないだろう。


 だが、そんな値段のことなど彼にとってはどうでもいいことだった。

 シンは、グルメというわけでもなく、見栄を張りたいわけでもない。ただ、友香に良いものを食べさせてあげたいのである。

 このテーブルは、その思いの表れだった。



「はぁ……すごいです」

「さて、先に始めているか。冷めないうちにな」



 壁にかかった時計を見てから、3人を席に促すシン。

 その言い草に、友香は少し引っかかりを覚えたが、みんなが座り出したのでそれに習い席に着く。

 6人がけのテーブルに、年長組2人に向き合って友香たちが座った。

 さぁ、メンツは揃ったと思ったときだった。



「遅れてすみません!」



 店の扉が、カランカランと音を立てて開かれた。

 何事かと、探偵刑事は揃って店舗の方を向く。



「ん、来たか」



 シンが、声の主を出迎えに店舗へ向かった。



「思ったより早かったな。ちょうどこれから食べ始めるところだ」

「はぁ、よかったぁ……あ、お招きありがとうございます!」



 安堵する女性の声が聞こえてきた。

 他に招待客がいたのだと、友香は察した。


 2つの声が近づいてくる。

 シンに連れられ、声の主が部屋へ入ってきた。彼女は顔をこちらに向けて、初めて友香たちの存在に気がついたようだった。

 そして、目を丸くして驚いてた。



「柳さんに……刑事さん!?」

「玲奈さん……先程はありがとうございました」



 招待客は、周玲奈しゅう れいなだった。

 思いがけない再会に、目を丸くする玲奈。

 それとは反対に、清花は少し目を見開いたが、落ち着いた様子で会釈していた。

 玲奈は柳とも面識があるようで、そちらにも驚いていたが、何よりも清花の存在に驚いていた。



「青山はうちの常連でな。贔屓にしてもらっている」



 その様子にシンが説明すると、意味ありげに彼女が頷く。



「そ、そうなんですか……」



 清花をじっと見つめる玲奈。

 彼女は、むぅ……という表情をしていた。


 清花を不満に思うというわけではなく、ライバル視しているような、彼女の整った容姿が羨ましいというようなそんな様子だった。

 少なくとも友香にはそう取れた。



(「こんな綺麗な人が李さんと知り合いだったなんて……」とか思ってそうだけど、大丈夫よ。お互い眼中ないから)



 直接言うのも余計なお世話だろうと思い、心の中でため息を吐きながらひとりごちる友香。



「それじゃあ、座ろうか」

「あ、は、はい」



 シンが、立ち尽くす玲奈を席に促す。

 5人全員が席に着いた。


 そうして、峯楼館での食事会が幕を開けるのだった。



「ミャーオ」


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