探偵少女への依頼
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
・李徳深(リー トクシン
シン。中華街で茶屋を営む情報通の男。
茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。
友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。
何かと友香の面倒を見ている。
・黒珠珠(ヘェジュウジュウ
シンが拾ってきた黒猫。
人懐っこく、好奇心も旺盛。
12
学校終わりの昼下がり。反町友香は帰路へとついていた。
中華街大通りから路地へ入り、再び路地へと入った所でよく見知った顔を発見した。
(清花……?)
いつもなら駆け寄っていたところだが、その様子を不思議に思い、留まった。と同時に違和感を感じた。
刑事であろう男性とともに、清花が峯楼館から出てきたのである。
まさか遊びに来たわけではないだろう。
彼女たちは、友香とは逆方向に消えていった。
その方向を気にしつつ、彼女は店の中へと入った。
「いらっしゃ……今日は知り合いがよく来るな」
グラスを片付けつつ、テーブルを拭いていたシンが友香を迎えた。
「さっき清花が来てたみたいだけど、何かあったの?」
そんな彼に尋ねつつ、少女は席に着くとバッグを床に置いた。
「知り合いが襲われてな。その容疑をかけられていた。事情聴取という奴だ」
「あら、疑われちゃったの?」
何でもないように、さらっと言ってのけるシン。
本人は何とも思ってないのだろうが、友香にとっては寝耳に水もいいところである。
当然、少女が驚きに目を丸くする。
「すぐに疑いは晴れたがな」
「ふーん、大変だったのね」
彼女の発言には、少しからかうようなニュアンスがあった。
その証拠に少し笑みが溢れている。
おそらく、彼が犯罪を犯すわけがないという信頼からくるものなのだろう。
「ミャーオ」
足元を見ると、いつの間にか黒珠珠がこちらを見上げていた。
「あら、さっきぶりね。おいで」
友香が自分の膝をポンポンと両手で叩くと、彼女はお尻をフリフリして飛び乗ってきた。
「あなたも大変だったわねぇ、黒珠珠」
「ミャー」
友香が頭を撫で、黒珠珠もそれに頭を擦り付ける。
しばらくして落ち着いたのか、そこで香箱座りを始めた。
「で、どうやって無実を証明したの?」
友香が猫を撫でながら、シンに顔を向け問いかけた。
「店先にある監視カメラがアリバイを証明してくれた。店から出なければ、犯行は不可能だからな」
「なるほど、確かにそうね。裏口を使ったとしても路地入り口にもカメラはあるしね」
友香が、先程シンが証言したことを補足しつつ同調する。
「ああ。動物病院の前にもあればよかったんだが、生憎なことにダミーだったらしくてな」
ここで言葉を切ると、彼は少し間を開けてから彼女を見つめ、
「抑止力というものは重要視されるべきで、効果も期待できる。だが、明確で強い悪意を持った奴には全く効果がないということだ。お前も気をつけろよ」
「ええ、心に留めておくわ」
その忠告に、友香が頷く。
シンと友香、2人が同時にグラスに口をつけた。
友香はグラスをテーブルに置き、それを見つめた。彼女は、ひとごこちついたあと顔を上げ、
「ところで、動物病院で起きた事件だったのね。あなたの知り合いが襲われたって言ってたけど、どんな事件なのかしら?」
友香が話題を戻した。
やはり、その内容が気になるようだ。
「俺も詳しくは知らない。そこの院長がトラブルに巻き込まれたとだけだ」
「そうなの……」
残念そうな顔をする友香。
それを見たシンが、ひとつの提案をした。
「お前も知りたそうだな。それなら聞いてみるか?青山に」
「教えてくれるかしら?」
純粋に疑念を口にする友香。
その様子にシンは目を伏せ、鼻で笑った。
「何を言っているんだ?教えてくれるに決まっているだろう」
首を傾げる少女を真っ直ぐに見据え、彼が言った。
「こちらには、国選探偵がいるんだからな」