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第八十三話 ヴィネッサさんはしつこかった

「ジョージくん」


 戦闘はつつがなく終了し、素材の回収や体力や魔力の回復、武装の点検などをする中、ヴィネッサさんが話しかけてきた。


 魔力は、一定の健康状態でさえあれば時間とともに回復する。とは言え、彼女はついさっきまで、呪曲での支援に加え、自ら前線にも立っていたのだ。


 それでは次の会敵まで心許ないということで、魔法薬で魔力をある程度は満たしておきたいのだろう。


「ハイエーテルですか?」


「うん。もう飲んだ? 私が渡したやつ」


「の、飲むわけないじゃないですか!」


 さも当然と言わんばかりの澄まし顔で、なんてことを言うんだこの人は。そう思っていると、今度は肩を落とされた。


「酷いなぁ、ジョージくんはお姉さんなんかとはチューしたくないのか……」


 そもそもキスしたいという感覚がわからないけど、落胆しているように見えても、騙されてはならない。


「そうだよね……こんな下品なエロネタばかり言う女なんか、嫌だよね……ごめん、お姉さんテンパると、すぐこうなっちゃって……」


「……」


「ジョージくんみたいな断れない子に、つい変な甘え方しちゃうんだ。それで相手が怒るまでやめられなくて、いつもこうやって失敗して。馬鹿だよね……」


「い、いや、そういうわけじゃ……ヴィネッサさんはなんだかんだ本当に嫌がるラインは越えないし、気も回してくれるしーー」


 しおらしい反省の弁に、つい感傷を抱いてしまったのが運の尽き。


「なに、やっぱりチューしたい? いいよいいよっ、ばっちこい!」


「しませんっ!」


 まるで水を得た魚のような、食い気味の一転再攻勢。一体なにがばっちこいなのか。


 それにしても、あんなわざとらしくタコみたいな口しても美人という印象が崩れないあたり、やっぱり美形に生まれるというのは得なのだな。羨ましい限りだ……。


「怒らないでよ。ごめんごめん、お姉さんが悪かったから」 


「まったく……俺にちょっかい出して、面白いですか?」


「うん。とっても」


 微塵も悪いなんて思っていない、綺麗に型どられた満面の笑み。何度も繰り返されるこのやり取りに、もういい加減うんざりした思いである。


 例えこの人と違い敵意であろうと、わかりやすく正面からぶつかってくるケイトさんのほうがよほどやりやすかった。


 まさかあのガミガミ娘を恋しく思う日が来ようとは、ついぞ思わなかったなあ。今この瞬間にでも戻ってきて、この人を叱り飛ばしてくれやしないかなあ。


「投石で稼がせてあげてるんだからさー、ちょっとは相手してよ。お願い、先っちょだけ。ね?」


 こういうエロいことも、自分の容姿に自信があるから言えるんだろう……というか、呪曲を当初のものから魔力消費量を減らすものにしてくれてたのは、やはり意図的なものだったのか。


「……こっちが、話題を選んでいいなら」


 さすがに、お金の話を出されると弱い。多数の前衛が余裕を作ってくれる中で、普段の限界である五つを優に超える投石により、僕はさらに多額の金銭を得てしまっているのだ。


「うん、いいよ。どんな話がいいかな」


「そうですね……やっぱりーー」


「やっぱり、おっぱいの大きさ? 見ての通り結構あるよっ、この前測ったときはーー」


 慣れというのは恐ろしい。そもそも僕は、もとの世界で性的な作品を鑑賞する際、開放的なエロスを素直に好んでいたのである。


 なのになんだろう。今美人の腕によって、目の前で寄せた乳房の間に深々と谷間を作って見せられても、さほど嬉しく思わない。


 別に恥じらいが大事、なんて鞍替えしたわけでもないのに……印象というのは、人間にとって思ったより重要な要素なのかも知れない。


「そういうのいいですから。俺は剣の話したいんですよ」


「もう少しで聞けたのに。アンナさんやエマさんとどっちが大きいのかなー、とか、思わないの?」


「別に」


 一瞬、二人を引き合いに出されたことで賢者タイムが終わりかけたのは、絶対にここだけの秘密である。あと、そこにオリヴィアさんを並べちゃったことも。


「ムッツリくんだねぇ……あんまり押さえつけると、厄介なおじさんになっちゃうんだよ?」


「放っておいて下さい。それより、なんでヴィネッサさんの剣は、変なタイミングで敵が深傷を負ったような動きをするんですか? 見た感じ、他の人が倒したのより浅いのに倒れてるんですけど……」


 ヴィネッサさんは、意外にもこの質問に、ふざけず答えてくれた。


「ああ、あれは吟遊詩人としてのスキルの応用だよ。魔力で魔物の内側まで振動を響かせて、威力を上乗せするの」


 そんなこと、できるんだろうか……いや、僕でも百六十キロなんか軽く超えた投石をできるようになる世界だ。きっとできるのだろう。


「それ、難しそうですね……戦鎚とかじゃなく、剣でも響かせられるものなんですか?」


「難易度としてはこっちのほうが高いけど、コツさえ掴んでるなら私は慣れた武器を選ぶかな。ただ、斬った痕以上に肝とか体の内側の素材が悪くなっちゃうから、稼ぎとしては美味しくなかったりするんだよね」


 自分が喰らったわけでなくとも具合が悪くなる話であるが、なるほど、それならあの攻撃が通ることにも納得がいく。


「吟遊詩人って希少価値があるから、基本加入を断られることが少ないんだけどね。一緒に組むメンバーの純粋な戦闘力が心許なかったり、背中を任せていいか不安なときのために、ある程度は戦える必要もあるんだ」


「でも、そんなふうにマルチにこなせるって凄いことですよね。流動性を損ねないぶん、重宝されてきたんじゃないですか?」


 純粋な賞賛のつもりだったのだけれど、それを聞いたヴィネッサさんの表情に、若干渋さが滲んだ。


「あはは、持ち上げてくれるねぇ! でも、本当に高位の中でも一握りの人たちには叶わないんだよ。呪曲だけで居場所を作れるだけの実力や才能があったなら、本来剣の腕なんか要らないの」


「その、どっちも高レベルなら、あとはどう戦術に組み込むかだと思いますけど……さっき本職の前衛にも見劣りしないって言われてましたし」


「呪曲も剣も、全然極められてないよ。この依頼での戦闘だって、集まったメンバー的によほどの下手さえ打たなければ常に優位に戦える。だから全体で立てた作戦から逸れない範囲なら、ある程度呪曲で私に都合よく動いて貰える。単にそれだけ」


 短い付き合いとは言え、初めて見た顔に動揺していると、すぐヴィネッサさんは元の明るい印象を受ける笑顔に戻ってしまった。


「いやあ、やっぱりジョージくんは優しいね! お姉さんが養ってあげるから、結婚して家でも買って、しっぽり楽しく過ごす日々でも送っちゃおうか?」


 僕は、務めて馬鹿みたいに笑いながら、やめて下さいよーと繰り返した。


 それがどれだけ上手くいったかはわからないけど、ヴィネッサさんはその後も何事もなかったかのように、下らないエッチな話を織り混ぜた雑談を僕へ振り続けた。

単純な大きさなら、アンナ>エマ>ヴィネッサ>オリヴィア

カップサイズ順なら、エマ≧ヴィネッサ>アンナ≧オリヴィア

まあ、相対的最下位のオリヴィアさんはまだ十六歳だし、ヴィネッサさんはサブキャラ枠ですが…。

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