第七十七話 糾弾があった
その後、戦闘は重傷者を出すこともなく、無事終了した。
投石は五つぶん使いきってしまったが、周囲にレッドベアの気配もないので一先ずは問題ないだろう。現在他の冒険者たちは、各々が回復や装備の点検をしているが、そのときでも順繰りに見張りを立て警戒を続けている。彼らに抜かりは見られない。
それにしても、元通りの感覚で投げられるようになってよかった。投石はその威力も相まって、収納魔法と違いおいそれと試せるものではない。
そんな理由もあって、ぶっつけ本番でどうなることかと心配だったのだ。仮に故障により不具合が出たなら、僕など基本まだまだ荷運びしかできないからな……。
「おい、坊主、さっきのはいったいなんだったんだ!?」
訊ねる声に現実へ引き戻された僕は、街を出たときに声をかけてくれた男へ答えた。
「投石です」
「と、投石……?」
「あれが投石なわけないだろ! 二匹まとめてぶち抜いてったぞ!」
戦闘時とは違う騒々しさが辺りに響く中、不意に誰かに肩を捕まれ、引き寄せられた。
「まあ、なんせこいつは、うちの秘蔵っ子だからなあ。おまけにクマ公どもを皆殺しにしてFランクスタートなんだ。他所の土地の新米と一緒にされちゃあ悲しいぜ」
「ま、マジかよ。噂には聞いてたけど、この坊主が……あの強さにも納得がいく」
だいぶ盛って喧伝したアンナさんが、誇らしげに胸を反らし鼻まで高くする。
「い、いや、逃げるので精一杯で、皆殺しにできてないですし……」
「うるせぇ。細けぇことはいいんだよ!」
そう訂正する僕でも、心なしか耳が熱い。自分がしたことを喜んでもらえるって、ありがたいなあ。
「ジョージさん、お体は大丈夫ですか?」
盛り上がっている雰囲気の中、回復をあらかた終わらせたらしいエマさんが僕の元へ確認を取りに来た。
「はい、ありがとうございます。五つなので、まだ大丈夫です」
「わかりました。次からも、どんな戦況だろうと五つ限りで。それ以上は、私たちにお任せ下さい」
僕の返事にエマさんが頷いたとき、不意に怒鳴り声が響く。そちらへ目を向けると、そこではケイトさんが囲まれていた。
「手前ェ一人で先走りやがって! お前の無茶をカバーするために何人がリスクを負ったと思ってる!」
「無闇に突っ込みやがって! 死にてぇのか!」
「む、無闇にではない! 前線が二面な以上、先に一つの戦闘を終わらせれば、もう一つの戦線に人数を増やして早く戦闘をーー」
ここで言い返せるのはさすがとも言えるが、常に最大限やそれに近い成果を求めるのは危険である。そのことは、他の冒険者たちも同じだったようだ。
「なんだその机上論は、話にならねぇ!」
「机上論ではない! そもそも戦いのはじめからしてーー」
一応、敵や味方を考慮しない空論とは言え、理自体がないわけでもないのだろう。しかしその言葉は、再びにべもなく途中で遮られてしまう。
「言い訳なんかより、まずは手前ェを助けたジョージに礼言うのが先だろうが!」
いきなり自分の名前が呼ばれ、ドキリとする。引き合いに出されたケイトさんの、奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。
「遊びに来たなら帰れ! このクソ餓鬼!」
「そんなに死にたきゃ一人で餌になって来いや!」
罵声のような説教は、なかなかやまない。
みんな命懸けで仕事をしているぶん、仕方がないことではある。手を上げるどころか胸ぐらすら掴まれていないあたり、別に何かの憂さ晴らしといった様子もない。
ただ、とび職の人たちと一緒に仕事をしたときもよく思ったものだけど、こういうのは怒られているのが自分でなくとも、あまり心臓によいものではない。
そんな時間を終わらせたのは、エマさんの一言だった。
「皆さん、今はそれぐらいに。次の行動に移る備えに当てましょう」
声を張り上げたわけでなくとも、その響きは明瞭であった。他の冒険者たちが、不承不承と言った様子で囲いを解いていく。
その中へ躊躇せず入っていったエマさんは、彼女へこう声をかけた。
「ケイトさん、でしたでしょうか?」
「……」
「言い分があるのはわかります。しかし、あなたはこの依頼に随行しているのであり、私たちを指揮する立場にあるわけではありません。今後、身勝手な行動は慎んで下さい」
傷ついた顔に向けての言葉は、別に甘くはない。
しかし、それに伴った響きは、決して杓子定規なものでもなかった。
結局、ケイトさんはエマさんと目を合わせないまま、対面する相手から歩み去ることを選んだ。
呆然と眺めるだけだった僕の肩に、今度は優しくアンナさんが手を置く。
「気にすんな。それより、次は素材の回収だ。行くぞ」
「……はい」
アンナさんの後ろに続く前に、もう一度振り返ってケイトさんの様子を見る。
先ほどレッドベア相手に躍り出で、奮闘していたときの血気盛んさはまるで見られない。
一人で装備に損傷がないか確かめる孤立した背中からは、端から見れば気の毒になるような自分自身への失望が見て取れた。
次で、ちょっとデレます。




