第七十六話 高位の冒険者たちは強かった
遅れてすいません。
思わず僕が立ち止まってしまう中、ケイトさんはそのままエマさんのほうへ突き進む。
が、途中でレッドベアのほうを気にした僕を睨んだ彼女の後頭部に、不運にもエマさんの肘がヒットしてしまった。
「今日と言う今日はーーって、大丈夫ですか!? もし、もしっ!」
どうやら、エマさんが正気に戻ったようだ。地面に大の字で伸びている彼女には大変申し訳ないが、助かった。あとで何か奢ってあげなくては。
「数は正面からまず七頭! まだ他にも来るぞ!」
「よし来た! 狩りの時間だ!」
街を出てから、僕に話しかけてくれた冒険者たちを中心に、人間側も動き出す。気づけば、あっという間に迎え撃つ陣形が出来上がっていた。
早い。あの試験を受けた夜、即席にも関わらず僕らをまとめ上げたアリアさんにも感心させられたが、こちらはあれ以上だ。
もちろん、まだ若いアリアさんと高位らしきこの人たちを比べるのはアンフェアではある。しかしこちらは、個々人の技量がスムーズに発揮されるよう組織されていた。
まず前に出た前衛職が、果敢な迎撃で敵を食い止める。
その中で中衛も、ともに前へ出て前衛をサポートしたり、間延びし過ぎないよう位置取りをしながら、杖などで支援の動きをしている。
そうして時間を稼ぐ間に、後方から魔術師が遠距離から攻撃を仕掛けていた。ピンポイントでレッドベアを撃つ者から、前衛が巻き込まれないようタイミングを合わせ撃つ者まで、様々だ。
「クソったれっ、アホなエマのせいで出遅れちまったじゃねえか!」
大枠ではそんな役割をそれぞれ担いながら、時折入れ替わりつつレッドベアに攻撃を加えていく。
装備の乱れを直したアンナさんも前線へ加わった。僕も、どこかで仕事をしなければ。
そう思い、まず中衛の位置へ向かおうとした僕の肩を、誰かの手が掴んだ。振り向けば、相手は一緒に同行している冒険者たちだった。
「坊主はここでいい」
「いいんですか……?」
「ああ、お前には荷運びのために来てもらってるからな」
「安心しなよ。坊やのことは、私たちがキッチリ守ってあげるから」
気づけばそばには、伸びたままの体勢で引き摺られてきたらしきケイトさんの姿もある。一応エマさんが回復魔法をかけていたらしく、外傷自体はない。
お守りをしてもらってることに気まずさを感じはしたものの、戦闘自体はとくに危なげなく終了した。
まったく、凄いものである。あの夜は、みんなでボロボロになりながらも、這う這うの体で命辛々逃げ延びたというのに。
人知れず嘆息した僕に、近くにいてくれていた冒険者が終わったぞ、と、人好きする笑みを向けてくれる。
今僕らの前には、あんなに恐ろしかったレッドベアが普通の害獣のように殺され、転がっていた。
「き、貴様……なぜ事前の取り決めを反故にした……」
「ご、ごめんなさい……レッドベアが出たから」
「そんなことは知っている!」
あ、知ってたのか。そう思っている間に、なおも詰め寄られた。
な、なにか気を逸らせないだろうか……そうだ。頭の瘤を心配する素振りを見せればっ。
「ご、ごめん。頭大丈夫?」
「貴様ぁ……私を侮辱しているのか!」
「い、いやそうじゃなくて。さっき凄く痛がってたから」
激昂しかけた彼女に弁明すると、そっぽを向かれた。
「別に、痛がってなどない」
「大丈夫? ハイポーション飲む?」
「くどい! 要らないと言っている! だ、だかしかし、気遣いを無下にするというのも悪いしな。ハイポーションであれば、もらってやらなくもーー」
「後続が来た! 今度は左からもだ!」
ケイトさんの言葉の途中、再び敵の襲来を告げる声が響く。
「ごめんあとでっ、それと、危ないからあまり離れないようにね」
「別に私は貴様なんかと話したい訳ではない! それに、子供扱いするな!」
実質連戦となる中、二面となった前線へ、ケイトさんも飛び出していく。
「あ、おい戻れ!」
「うるさい! 貴様ら冒険者どもとの、格の違いを見せてやる!」
そう吐き捨て躍り出たケイトさんが、一体のレッドベアと対面した。
出遅れてしまい、どうしたものかと見守る僕らをよそに、彼女は敵へ先制の一太刀を見舞う。
怒ったレッドベアが腕を振り下ろす中、それをバックステップでかわしながら、肘の関節を狙い再び斬撃を浴びせた。
思っていたより、ずっと強い。単純に剣の腕だけなら、この前冒険者になった僕らの中で一番だろう。
「意外と、やりますね……」
「ただ、他の前衛と呼吸が合ってない。このままじゃ、動きがかぶって隙になっちまう」
「一応、支援魔法はかけてやったけど……後衛が攻撃を放つタイミングをずらされて流れが崩れたら、お互い力押しになる。そしたら……ッ」
負けはせずとも、損傷が増えるのは避けられないだろう。
以前、瀕死の重傷を負ったオリヴィアさんやクレアさんに魔法薬を飲ませたことがあったが、命は助かれど自力で動けなくなってしまった。
ダメージが深刻な場合、人間は一時的に継戦能力を喪失するなら、ケイトさんの突出は早期撤退の火種となりかねない行為だ。
「おい! 戻ってこいって!」
そう声をかけるも、彼女は意地になったか、なおも前に出る。不測の事態さえなければ、一人で仕留められる自負があるのだろう。
けど、勝負は常に相手あってのもの。二面での戦闘で中衛も多くが前線に顔を出し、なんとか敵の進行を押し留め拮抗を作っている状況。
そこでの先行で味方からの支援を受けづらい中、敵のホームということもあり複数を相手取るはめになったケイトさんが、奮戦の中でついに相手を捌ききれなくなる。
「あ、おい坊主止まれ!」
気づけば、足は前に出ていた。射線に味方が被らない位置へ短く駆け、収納魔法から石を取り出す。
復帰初戦のぶっつけ本番でも、体はあのときの感覚をたしかに覚えていた。狙いは、今反攻の一撃を繰り出そうとしている、ケイトさんの正面からズレた位置のレッドベア。
中継を介さず一人で走者を刺す外野手のように、やや大きなモーションで放った投石は、魔の力による物理法則を無視した軌道と速度で前線へ抜ける。
そして、予想だにしていなかったであろうレッドベアの頭を、首と振り上げていた肩ごと吹き飛ばした。
身をすくませていたケイトさんも、なんとか残った正面のレッドベアの攻撃を受けて耐える。そいつの頭も、二投目の石ころが粉砕する。
「な、なんだ今のは!」
「ぼ、坊や、嘘でしょ……?」
敵味方の動揺をよそに、僕は次に投げるべき前線の局面を目で探っていた。最大でも、あと三発。無駄なく大事に使わなければ。
これからも、少しずつでも続きを書いていこうと思っています。よろしくお願いします。




