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第七十四話 出発した

 この気を利かせての言葉に、ケイトさんはわかりやすく目を輝かせた。


「そうだ。多少なりとも教養のある奴もいるようだな。貴様は?」


「……トンプソン家、イーサン・トンプソンの長女、アリア」


 言葉短く答えたアリアさんの言葉に思案顔を浮かべたあと、ケイトさんはこう言った。


「……なんだ、あの負けて没落した家か。まだ途絶えていなかったのだな」


 むしろ、十六歳とは言えこんな子が跡取りのテイラー家が僕は心配です。そう呆れかけたとき、胆を冷やす響きの言葉がアリアさんから発せられた。


「……中央で主だった戦果を挙げたこともない、単に勝ち馬に乗っただけの金魚の糞が聞いた口を」


 ほとんどの人間が、その静かながらもありありと感じる怒気に凍りつく。普段滅多に怒らない人ほど、いざそのときが恐ろしい。その言葉の意味を、僕は間近で実感していた。


 森でレッドベアから逃げているときですら、決して冷静さを欠かなかった。そんなアリアさんの変容に、ケイトさんは冷や汗をかきながら虚勢を張る。


「ぼ、冒険者風情が、我が主ノースマディソン家まで愚弄するか!」


 これ以上は、ちょっと本格的にまずそうだ。余計なお世話は承知のうえで、僕は対面する二人の間に割って入った。


「あのさぁ、君は俺の監視に来たの? それとも、むやみに俺たちの反感を煽りに来たの?」


「冒険者ごときが口を挟むな!」


 肩幅ほどの距離で正面から睨み据え、間を置かず続ける。


「君はシャロリア様に仕える者として来てるんでしょう? ならせめて一度ぐらいは、その顔に泥を塗らない態度を取ったらどうなの?」


「貴様……っ」


 わかりやすく睨み合いになった僕とケイトさんの頭に、再びアンナさんの拳骨が見舞われた。直後は目の前が霞む中、その視界の中でケイトさんが床へ突っ伏し直す。


「お前ら、喧嘩なら外でやれ」


「すいません」


 うんと頷いたアンナさんは、多少後味の悪さが尾を引くとは言え、再び上手い具合に白けた場を去っていく。おっかねぇ、誰かの言葉が、出し抜けに漏れ出した。


「じょ、ジョージさん、大丈夫ですか……?」


「うん。アンナさん優しいから」


 こんな訊ね方ではあるが、オリヴィアさんはもうアンナさんの人となりをわかっているようだ。好き嫌いは分かれるのかも知れないけど、優しくていい人だし。


「あ、アンタさっき、凄い音してたわよ……? うわ、瘤にもなってる……」


「ありがとう。でも加減してもらってるから、すぐ治るよ」


 別に、あんなものはただのお約束。心配する必要など、どこにもないのである。


 けど、それとは別の意味で、アリアさんだけはひどくすまなそうな顔をしていた。


「その……ジョージ、ごめんなさい。私のせいで……」


「アリアさんのせいじゃないよ。たぶんだけど、アリアさんお父さんと仲良かった人でしょ?」


 意識して柔らかく微笑むと、彼女は唇を噛みながら頷く。


 あの大人びた人が、まだ耳まで赤いままだ。それぐらい、さっきのケイトさんの言葉は彼女にとっての虎の尾だったのだ。


「ならさ、あんなこと言われたら怒って当たり前だよ。他人の俺でも許しがたかったもの」


 貴族の爵位や騎士についての知識など、無学な僕にはないに等しい。


 それでも、明確な侮蔑を許してはならないことぐらいはわかる。


『愛、家族、アートでも何でも誰にでも信じられる何かがあって、それが傷付けられそうになったら、そのために立ち上がれる人間にならなきゃいけない』


 偉大なミュージシャン、マリリン・マンソンの言葉である。身内のために怒りを表明したアリアさんは、仮に軽率の謗りを受けることこそあっても、決して恥じることなどないのだ。


「ありがとう」


 掠れた声で僕に言ったあと、アリアさんは上を向く。泣くほど思える家族がいたというのが、不謹慎ながら羨ましくも思えた。


「き、貴様が平気な顔をしているのは、あの仲間に手心を加えてもらっただけだ……そ、それに私は、同じところを二回も叩かれてーー」


「おーい、そろそろ討伐隊集まれー。あとジョージってのは、ちょっと蔵までついて来てくれ」


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


「おう、またあとでな」


 床にキスするケイトさんを無視して、みんなぞろぞろと動きはじめる。


「じゃあよろしく。オリヴィアさん、気をつけてね」


「ちょっと、私にも何か言いなさいよ!」


「ごめんごめん。クレアさんも気をつけて」


 鼻を鳴らしそっぽを向かれてしまった。女の子って難しい……。


「じょ、ジョージさんも皆さんも、お気をつけてっ」


「ジョージ、頑張ってね」


 大きな声で言ってくれたオリヴィアさんと、いつもの調子に戻ったアリアさんに手を振る。


 そして、まだうーうー唸っているケイトさんに武士の情けでポーションの瓶を置くと、僕は名前を呼んだ人とともに蔵へ向かった。


 今日が冒険者としての事実上初仕事だ。しっかり一日頑張るぞい!

次回は外伝挟んでお茶を濁すかも……そうならないよう頑張るぞい!

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