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第六十八話 指名依頼を出された

2019年5/8

最後のほうに、主人公の魔力回路が治ったとの記述を追加しました。

 あのあと、オリヴィアさんと二人大いに驚いたのを愉快そうに笑った領主シャロリア様は、中に通してくれてからもニヤニヤした目で僕らをからかった。


「ハハハ、領主がこんな小娘で驚いたかな」


「いっ、いえその、すいません。気づかなくて……」


 とんだ失態を犯してしまったうえ、オリヴィアさんにまで恥をかかせてしまった。慚愧に堪えぬ思いである。あとで何か奢ってあげよう。


 それにしても、こうして鷹揚な態度を取ってくれてはいるとは言え、果たして内心では僕らをどう思っていることやら。


 報復を受けて、みんなに迷惑をかけることになったらどうしよう……。そう気を揉んでいると、シャロリア様は気さくに、僕へ向け手のひらを靡かせるようにした。


「いい、二人ともこの(ノース)マディソンの外から来たばかりなのだから気にするな。それに、今の私が領主なのも、不測の事態というやつだ」


 どうやら、僕らが地元の人間でないことも伝わっているようだ。おそらくギルドからだろう。


 それにしても、不測の事態ってなんだろう。歴史に疎い僕でも、女性の領主が少ないのはわかるけど……。


「だいたい私こそ、君たちに謝らなければならない。冒険者試験中の君たちを危険に晒してしまい、申し訳なかった」


「あ、いえ、そんな……」


 あれは完全に予想外の事態とは言え、それでもギルド側の失態のはずだ。なのにそのことで領主から頭を下げられ、一介の冒険者である僕らは慌てふためいた。


 ケイトと呼ばれた侍女さんも、やや呆気に取られた反応を見せているあたり、これは普通のことではないのだろう。


「今回のレッドベア大量発生では、多くの人命が失われた。城門から程近くにいた者、迅速な移動が可能だった者こそ、難を逃れたが……開拓中だった村は、三割が全滅した。残りも、半分以上は似たようなものだ」


 顔を上げ、僕らに伝えるシャロリア様の表情は、余裕こそ失ったわけではないにしても、微かながら硬さを感じるものとなっていた。


 それにしても、あの猛獣相手では当然のことなのだろうが、全滅三割とは……村の規模も区々(まちまち)なのだろうけれど、それでも単位としては最低でも数十からだろう。


 途方もない数の人命が奪われた事実への衝撃に、半ば放心している僕の頭を彼女の言葉が揺り起こす。


「報告によると、君は驚くほど大きな収納魔法を持っているらしいな。また、投石の威力もレッドベアを屠るほどで、アダマンタイトすらやすやすと切り裂くレベルの魔力撃も放ったとか。これは本当か」


「その……」


 半信半疑、と言った様子で問われ、なんと答えたものか口ごもる僕のかわりに、ジェイコブ支部長がシャロリア様へ答えた。


「はい、たしかにギャヴィンから試験中に確認したと報告が」


「事実です。こいつがいなかったなら、俺たちも皆、一人残らずレッドベアの腹に収まっていたことでしょう」


「二人はこのように言っているが」


 ギルド側の二人からも証言された以上、仕方がない。僕は観念して、自分の言葉で言うことにした。


「事実ではありますが……俺は魔力の扱いがまだまだ未熟で、投石は吟遊詩人の補助がなければ僅か五つ程度で精度が落ちはじめます。魔力撃に関しては、たったの一度で失神するはめに陥りました」


 言葉だけを聞けばハイスペックなのかも知れないが、その実状は酷く使い勝手の悪いものだ。精々野球で言う、回跨ぎと連投のできない一イニング限定のリリーフ投手とでも言えばいいのだろうか。


 過大な期待を抱かれ、適正でない運用をされた場合、双方にとって不幸なことになる。そう思い、不遜ながら釘を刺させてもらったのだが、それを聞いたシャロリア様は何故か怪訝そうな顔で言った。


「五体ものレッドベアを投石で仕留められるほどの力が、僅か……?」


「シャロリア様、ジョージはどうも常識というものが欠けているようでして……」


「……なるほど。規格外というわけか」


 何がなるほどなのだろう。と言うかジェイコブ支部長も、まるでやらかした構成員の不始末をよその組へ出向いて詫びる若頭か何かのような口ぶりだ。僕はそんなに悪いことをしたのだろうか。そして、規定外の不良品なのだろうか。


「で、肝心の収納魔法のほうは? 魔法薬や食料だけでなく、大量の水まで持ち歩いていたと報告を受けているが」


「そちらも事実です。おかげで俺や受験者たちは、蔵の中で籠城して体を休めることができました」


 再び、ギャヴィン試験官が僕より先に答えた。そうか、わかったと返したシャロリア様は、僕のほうへ向き直る。


「ジョージ、君の魔力回路の回復具合は?」


 館へ来る前の診察で、既に医者からは完治の御墨付きをもらっていた。


「もう大丈夫です。問題ありません」


 僕の返答を聞いたシャロリア様は頷き、そしてこんな話を持ちかけてきた。


「ではジョージ、君には一つ、私から指名の依頼を受けてもらいたいのだが」

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