第六十七話 領主は女の子だった
外を見ると、そこには庭と門つきで二階建ての洋館があった。
「立派なお屋敷ですね」
素直に感心しながら言ったつもりが、ギャヴィン試験官とジェイコブ支部長からは馬鹿を見る呆れた目。
それだけならまだしも、執事さんからの「お褒めにあずかり光栄です」と言いながらの、世間知らずを見る嘲りが滲む眼差しは気に食わない。
オリヴィアさんへ目を向けると、気まずそうに僕へ何かを言いたがっている。ギルドのときと同じで、中央とやらに比べたらしょっぱかったりするのだろうか。だとしても、野暮な爺さんだ。
「さあ、着きましたよ。どうぞ」
せっかく初めて馬車の中に乗れてテンションが上がっていたけど、なんだか面倒になっちゃったなあ。早く帰って、内職なりギルドの事務仕事の手伝いなりをしながら、みんなといたかったなあ。
なんて、内心一人ごちながら降りると、そこでは何か荷運びのようなことが行われていた。
「これでよろしいのですね」
「ああ、頼んだぞ」
何やら家財や装飾品などが、立派でこそあるものの動くには邪魔そうな服を着た女の子の指示で運び出されている。と、彼女は僕らに気づいたのか、執事さんへ声をかけた。
「ん? なんだ、戻っていたのか」
「はい。お連れ致しました。申し訳ありません、気づかず通してしまい……」
「いや、別に爺やのせいではない。案内しろ」
おそらく、オリヴィアさんたちと同年代ぐらいだろう。それでもさっきの男たちや執事さんへの、この口ぶりということは、領主の娘さんだろう。
「客人の皆さま方、本日はよくぞ参られた。中へ案内する」
大仰な言葉使いの彼女の後ろにも、一人女の子がこちらを見ていた。姉妹……というより、きっと侍女だろう。娘さんよりやや地味な服を纏い、表情を引き締め主の側にぴたりと寄り添って離れない。
そうして僕ら、というより、なぜか僕へ向け、油断のない険しい眼差しを向けてきているように見える。立ち姿からして運動ができそうだし、きっと護衛も兼ねているのだろう。まだ若そうなのに、大変なお仕事である。
それにしても息が詰まる。執事さんは昔学校で苦手だった嫌味な教頭先生に似ているし、侍女さんも僕へあまりよい感情を持っているように見えない。となるとーー。
「さっき運び出していた箪笥とか、模様が彫られていて綺麗でしたね」
「ん? ああ、あれらは我が家に古くからあったものだ」
娘さんへ世間話を振ると、自然に返事をしてくれる。よかった。この子は言葉使いこそ不思議な感じがするけど、普通の人のようだ。
「そうなんですね。じゃあ、小さな頃から使われていたんですか?」
「そうだな。物心ついた頃には既にあった。君たちを乗せていた馬車も、もう随分前から走っている」
「あ、あの、ジョージさん……」
「物を大切にされているんですね……ん、どうしたの、オリヴィアさん」
よいことだなあと、これもまた素直に感心していると、オリヴィアさんがやや引き吊った面持ちで声をかけてきた。
そして彼女へ振り返る途中、侍女の人の遠慮のなく敵意を剥き出しにした視線に気づく。
思わず呆気に取られていると、娘さんが侍女の人へ鋭く言った。
「こら、ケイト。やめないか」
「ですがこいつーー」
「別にこの少年は悪気があって言っているわけではないだろう……うちの者がすまないね。少し神経質になっているようなんだ」
「い、いえ……こちらこそ」
嗜められたことで鋭い目を向けるのはやめてくれたものの、敵意に関しては一層強まったように感じる。
その、大袈裟に言えば偏執的にすら感じる憎悪は、初対面の相手へ向けるにしてはあまりに異様なものであった。
内心、困ったなあと感じていると、それを見透かしたのか娘さんが苦笑混じりに打ち明けてくれた。
「実を言うと、さっきのは売りに出していたんだ」
「え……」
そうだったのか……てっきり、新しい家具を買うので下取りにでも出しているものとばかり思っていた。
驚いている僕へ、さらに娘さんはやや茶目っ気を交えた笑みで僕らへ頼んできた。
「恥ずかしいところを見られたな。時間をずらして呼んだはずなのに……まあ、向こうが気を回してくれたものを責める気もないが。君たちも、他言はしないでくれるか?」
「は、はい」
吃りも含め、オリヴィアさんと声が重なった。
「お、お父さん、大変そうですね」
娘に家財の売却や応対を任せているあたり、今頃領主は外遊で支援でも取り付けに回っているのだろう。そう思っていたのだが、娘さんは不思議そうな顔をした。
「いや、父は既に世を去っているが」
え、という戸惑いの声が、オリヴィアさんから聞こえてきた。ということは、今領主を務めているのは……。
「何やら、話に行き違いが生じているようだな。こんなところではあるが、自己紹介とさせてもらおう」
やや乾いた笑い声とともに、僕らへ姿勢を正し向き直った彼女は、その地位に違わぬ堂々たる態度で名乗りを上げて見せた。
「私はシャロリア・ノースマディソン、エドモンド・ノースマディソンの長女にして、この北マディソンの領主を務めている者だ」
定番ですよねでもね。




