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第五十四話 エピローグ後編 二人の後ろを、彼女と並んで

 その後、騒ぎに駆けつけた看護師さんから叱られ追い出された僕らは、揃ってしょんぼりしながら往来を歩き出した。


「酷い目にあった……」


 まだひりつく頬を、オリヴィアさんが痛ましそうに見つめる。


「あ、痕が残ってますね……手の型が、今もくっきりと……」


「だ、だから、悪かったって言ってるでしょ!」


 そうクレアさんは謝ってくれるのだけど、別に怒っているわけではないのだ。ただ、泣き喚く彼女を宥めるのにだいぶ疲弊してしまったと言うか……一応、僕もまだ本調子ではないのだし。


 憎いわけでもないのに対応する気力が沸かず、育児疲れってこんな感じなのかしらん、と草臥(くたび)れている僕へ、アリアさんが気遣うような愛想笑いを向けてきた。


「あ、あはは。さ、災難だったわね」


「でも、本当にビックリしたよ。二人とも仲が良さそうだったから……て、てっきりボク、まさかって……」


 あらまあ、二枚目然とした美形の割に、おぼこい娘である。もっとも、僕も所詮は童貞なので同レベルでしかないんだけど。むしろこの子達より一回り近く上のくせして魔法使いまっしぐらなことを考えると、将来性も考慮すればこっちが雑魚まであるけど。


「まさかも何もないって。なあ」


「は、はいっ、な、ないです……っ」


 オリヴィアさんも、なんだか力が入って妙な感じだ。でも、中学の頃にクラスで「あいつらヤったらしい」とかいう噂を耳にしたときは、僕もこんなふうになっていた気がする。そう思った途端、妙に切なくも懐かしい感覚に陥ったのたが我ながら不思議だった。


「と、ところで、皆さんはこれから、どうなさるんですか?」


 訊ねたオリヴィアさんに、みんなが各々の進路を語りはじめた。


「私たちは、このパーティーで依頼をこなしていくつもりよ」


「俺らは勧誘されててさ、待遇も悪い感じじゃないし、どこに行くか迷ってるよ」


「凄いな」


 全体を見ながら指示を出せるうえ、しっかり者で人柄も誠実に感じるアリアさんがリーダーを務めるグループも良い選択肢だ。けど、本当に言葉通りの好条件を得られるのかはさておき、既存のパーティーから声がかかるのもたいしたものだと思う。


「今回の件で泊がついたからな、おかげで良い装備も買えたし、レッドベア様々だぜ」


「不謹慎だから、大声で言っては駄目よ」


 誇らしげな子をアリアさんが嗜める中、ボーイッシュな子が申し訳なさそうな顔で確認してきた。


「ところでジョージ、本当に山分けでよかったの? そりゃボクらとしては、凄く助かってるんだけど……」


「みんなで力を合わせて生き延びたんだ。当然だよ」


「……そっか。そう言ってくれると、気が楽になるよ。ありがとう」


 ボーイッシュな子が、屈託なく白い歯を見せてくれた。もちろん、分配が偏って妙な因縁が生まれるのを嫌ったというのも理由の一つだ。


 けど、アンナさんやエマさんと組ませてもらっている僕とは違って、みんなは恐らく、そこまで強い地盤を持っていない。


 であれば、可能な限り万全な状態でスタートを切ってもらうほうが、彼らのキャリアのためにもなるだろう。そしてそれは、(ノース)マディソンの街が以前の姿を取り戻す助けにもなるはずだ。


「魔法薬もたくさん提供してもらったし……少しずつでも、構わないかしら?」


「別に、返さなくていいよ。それより、利用して欲しいお店があるんだ。お婆さんがやってて、ちょっと怖い人なんだけど……」


 余計なお世話かも知れないけど、人が来たほうがあのお婆さんも喜ぶだろう。覚えている限り商品とその値段を答えた際のみんなの反応は、効果の割に良心的な値段、とのことであった。


「でも、この辺はまだそのレッドベアが残ってるからな。薬草採取とかに出にくい以上、俺ら向けの依頼となると、荷運びとか工事の手元とかが中心だし」


「そうだね……あまり長くこの状況が続くようなら、ボクらも他の街へ行くことになるかも知れない」


「そ、そうなんですか……?」


 残念そうなオリヴィアさんへ、アリアさんが声を潜める。


「大きな声では言えないけど、この街って少し寂れつつあると言うか、あまり冒険者向けの街ではないのよ。駆け出し冒険者にはちょうどよかったんだけど、今回の騒動で……」


「そうなったら、寂しくなるな……」


 思わず、俯くオリヴィアさんに同調してしまう。極短期間かつ、年代がだいぶ下の子たちとは言え、それでもみんなと一緒にいるのはそれなりに楽しかったのだ。


 隠居したお爺さんが定時制高校に通いはじめたと、以前仕事場へ差し入れを持って顔を出してくれたときに綻んだ顔で語るのを不思議に思っていたものだ。けど、あのときのお爺さんの気持ちが、今の僕には理解できる。この寂寥感は、きっとその代償なのだろう。


「そう暗い顔することないよ。ボクらみんな、あの窮地を一緒に切り抜けた仲間なんだから。冒険者をやっていればあちこち行くことになるんだし、嫌でも会う機会は出てくるよ」


「そうね……こんな縁ができたんだものね」


 明るく言う彼女の言葉が、爽やかなぬくもりを伴って僕たちの胸へと伝播していくように感じる。


「ま、まあ、アンタがそんなに寂しいって言うんなら、私は残ってあげてもいいわよ? あとあのレッドベアにも一太刀入れてやりたいし」


 締めのクレアさんの言葉に、ドっと笑いが巻き起こる。「な、なによ!」と憤慨する彼女ではあるが、さすがにこの流れで耐え続けるのは無理があった。それでもなんとか平静を装い、彼女にお礼を伝えた。


「あ、ありがとうクレアさん」


「ふんっ、感謝して欲しいわね。魔法薬について教えてあげる約束もしちゃったし。これから冒険者生活がはじまるって言うのに、やれやれーー」


 その言葉が、最後まで語られることはなかった。


「おいジョージ遅ぇよ。いつまで油売ってやがんだ」


「ジョージさん、お迎えに参りましたよ」


「あ、す、すいません。話してたら、つい」


 少し苛ついたアンナさんと、僕らを見て嬉しそうに微笑んでくれるエマさん。二人の登場に、場の空気が変わるのを肌で感じる。


「……やっぱお前なんか仲間じゃねぇわ」


「ふんっ、寂しくなさそうでよかったわね!」


「なんで!?」


 再び笑いが起こる中、笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭いながら、アリアさんは僕らに気を遣ってこう言った。


「ふふ、じゃあ、今日はそろそろお開きにしましょうか」


 蔑まれたり、睨まれたり、笑われたり。踏んだり蹴ったりだけど、オリヴィアさんも笑ってくれてるみたいだし、まあ、いいや。





 みんなと別れたあと、僕らは来てくれた二人と合流し、後ろをついて歩いた。


「で、そいつが話してたガキか?」


 振り返りながら訊ねるアンナさんへ頷くと、オリヴィアさんは緊張した様子で頭を下げて見せた。


「え、ええと、は、初めましてっ。お、オリヴィアと申します」


「おう。アタシはアンナで、こっちエマ」


「よろしくお願いしますね。オリヴィアさん」


 ぶっきらぼうながらも親しみを感じるアンナさんと、人当たりのよいエマさんの対応。それをオリヴィアさんも感じ取ってくれたようで、少しは緊張感も薄れたようだ。


「は、はいっ。これから、お世話になります!」


 彼女に続いて、僕も頭を下げる。


「ありがとうございます」


「ん。まあ、この前の騒ぎがそれなりの額になったし、お前らが領主から送られた褒賞金もあったからな」


 オリヴィアさんのぶんのお金は、入院費や宿の宿泊代、そしてパーティーとして使うお金としていくらかを抜いて、申し訳ないが手をつけさせてもらっていた。このことを彼女に話したところ、機嫌を損ねられるどころか受け取りの返上まで言い出しこっちが困ったものだ。


「私とアンナでレッドベアの討伐にも参加していましたし、気になさらないで下さい」


 とは言え、パーティーに加えて貰いながら、アテにされていた投石や収納魔法を使えない僕も、引け目はたしかにあった。


 やることがなかった間、薬屋の手伝いや内職をしていたのだが、僕の手先が不器用ということを差し引いても、魔物を狩るのに比べたら全然お金にならなかったのだ。褒賞金のおかげで、二人からお金を借りる、なんてことにはならなかった。とは言え、それでも収支でプラスを生めないというのは、精神衛生上よろしくない。


「あの、もうすぐ俺も治るそうなので、そしたら参加して……」


「いけません。ジョージさんはきちんと治してからです」


「い、いや、治ったらですよ?」


 皆まで言う前に、エマさんから撥ね付けられてしまう。実はオリヴィアさんの受験費用を稼ぐため、単独で狩りをしたことが、カミラさんやあのおじさんからバレてしまっていたのである。それでこってり絞られて以来、ちょっと過剰になってしまったのだ。


「ジョージは加わってもランクが上がらないのが痛ぇよな。参加資格のランク未満だから仕方ねぇんだろうが、他の実績になる依頼を受けててもいいんだぜ」


「でも素材は売れますし、ちょっとでも元の状態に戻る手伝いができるなら」


 思案顔だったアンナさんは、僕の言葉に口の端を歪めた。


「そうか。まあ、そのためにもきっちり治せや。今日はジョージの合格祝いに、オリヴィアの歓迎会だからよ」


「そ、そんな……私まだ、なんの役にも立ってないのに」


「あのなあ、ひよっこに即戦力なんて期待してねぇんだから、余計な心配すんなって」


「今は、街にお金を落とすことも大事なことですからね。これも、冒険者の役割のうちの一つです」


 それでも遠慮する目で僕に問う彼女へ、安心して貰えるよう微笑みを作る。


「俺も拾って貰って、まだ一月程度だしさ。新入り同士、ご馳走になろうよ」


「……そ、そういうことでしたら、その、是非お願いします」


 オリヴィアさんは少し口を閉じたあとではあったが、顔を上げるとそう言ってくれた。


「じゃあ、行こうか」


「は、はい」


 そうして二人で、アンナさんとエマさんのあとに続く。彼女に目をやると、期待と不安が入り交じった目で、噛み締めるようにしてくれている横顔が印象に残った。

これにて第一章、冒険者試験編は完です。

だいたい三ヶ月前から連載をはじめたのですが、ここまで付き合って下さりありがとうございました。時間を使って下さっただけの価値が、皆様の中に少しでもあるようでしたら嬉しいです。たかが十五万文字程度ですが、みなさんが読んで下さったおかげで、素人でもここまでは書けました。嬉しい…嬉しい…(ニコニコ


次はなぜレッドベアが現れたのか、その原因の解決に主人公たちが挑みます。今回はレッドベアという、コミュニケーションを取れない相手が敵でしたが、次の相手は言葉を理解する存在です。そういう部分でも、今回との違いを出せたらとは思っています。まあ、書くのも最初に比べれば慣れつつあるし、相対的にはマシになるんじゃないかな…なるといいな。

そのためのプロットなどを作成するため、ちょっと間が空くかも知れません。今回も一応大まかな流れは作って開始したのですが、ナメた素人に待っていたのは大誤算の連続でした。とくに中盤以降はほぼ毎回修正が必要で、そのたび前話を読み直させてしまったこと、深くお詫び申し上げます。お手数おかけしました。反省を踏まえ、第二章はそうならないよう務めさせていただきます。

あまりに間が空きそう(とりあえず、これまで通り最低でも週二回は更新する予定ですが)なときは、幕間と言うか、普段の日常的な話を、おまけとして投稿するかもです(面白いとは言ってない)。

以上であとがきは終わりです。最後にもう一度。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!

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