第二十話 グリーンベアを狩って仕事を終えた
その後僕らは、とくに問題なく狩りを続けていった。まだまだ慣れられそうもないけれど、それでも初っぱなよりはマシだと思う。
そんな中、視界に現れたある獲物に、僕は思わず驚きの声を上げてしまった。
「うわ、熊ですよっ」
「ん? ああ、よくアタシらより先に見つけたな」
「グリーンベアですか。ジョージさん、お手柄ですね」
僕の反応と違い、アンナさんは気づいてもとくに気にしていない様子であり、エマさんも余裕なのか僕を甘やかしてくれる。おかしいな。昨日はかなり切羽詰まった、それこそ決死の覚悟で挑む相手ぐらいの雰囲気ではなかったかしらん?
「……ん? グリーン、ベア……?」
よく見るとその熊は、緑色ではないがどちらかと言えば黄色っぽい毛をしており、あの昨日僕らを襲った赤毛の熊とは素人目にも違うように見える。
「ああ、ありゃあグリーンベアっていう、昨日とは別の魔物だ。危険度で言やあ、あの憎
にっく
きクマ公よりはるかに下だぜ」
「それでも、先ほどのバーストドーアやウィードボアを捕食できるほど強く、人や家畜を襲うことも多いです。幸い一頭しかいないようですし、気をつけながら討伐しましょう」
そう言うと二人は、これまでの二種を狩ったときとさほど変わらない様子で駆除の準備をはじめた。正直、熊が出たにも関わらず危機感を抱かないというのもどうかと思うのだけれど……まあ、この二人の反応を見るに、グリーンベアというのは脅威度がその程度の魔物なのだろう。
二人をもう一度確認し、収納魔法から石を取り出した僕はそれをグリーンベアへ向け投石するーーそのとき、体に違和感が走った。例えるならそう、子供がいる同僚の学童野球の練習に付き合った際、打撃投手として投げ過ぎたときに似ていた。スムーズに重心の移動で投げていたのが、上半身と下半身が連動しなくなり、腕の振りがぎこちなく、前に小さくなってしまうあの感覚。石はグリーンベアの頭を掠め、後ろの木に穴を開けた。
次の瞬間、怒りの咆哮を上げながら僕らの位置を確認したグリーンベアは、微かに血を滴らせながらもこちらへ四肢を力強く使いながら突撃してきた。まずいと思いながら二つ目を投げるが、斜面を下る背中に当たり体内へ沈み込んだものの、スピードは緩まない。
「落ち着けジョージ、三つ目投げたら後ろに下がれ!」
「必ずお守りします! さあ、ジョージさん!」
焦燥の中、詰まりつつあった距離で投じた石はグリーンベアの下顎を吹き飛ばし、体内へ刺さる。さすがにその場で倒れたグリーンベアであったが、それでも吠えながら激しく暴れはじめた。
その相手へ、エマさんが杖を翳す。すると光が一条伸びて行き、グリーンベアが悲鳴のような絶叫を上げる。距離を詰めたアンナさんが止めを刺し、狩りは終わった。
なんとなく、魔力が切れたか、それを扱う力が疲弊したのであろうことは昨日からの感覚的にわかる。それでも、一度で仕止められなかったことや、魔物とは言え相手を無駄に苦しめてしまったこと。二人に余計な仕事を増やしたことに対し、不甲斐なさを感じずにはいられない。
「ジョージさん、大丈夫ですか」
「少し怠くなってきたか」
「すいません。慣れてきたはずなんですけど、なんだか……」
「魔力自体もそうなのでしょうけれど、回路が疲弊してしまったのでしょうね。今日はここまでといたしましょう」
投げるだけなら、まだいくらかはできないこともないだろう。だが、あの精度では、二人が期待してくれる働きはできそうもない。
「そのうち加減ができるようになって、ちょうどいい塩梅の魔力を込められるようになるさ。そしたら、もっと多くの今日より強い魔物を狩れるようにもなるだろ」
「いざ魔物を相手にすると、力んじゃうんですよね。アンナさんが前に立ってくれて、エマさんが後ろに控えてくれてるのに」
慰めてくれる二人へ思わず溢すと、エマさんはそっと手を握ってくれた。
「最初は私たちもそうでした。少しずつ慣れてゆきますから、ご安心下さい」
「まっ、アタシは初っぱなから大立ち回り演じてたがな」
「もう、アンナったら」
なんとか二人へ笑ったけれど、内心では二人の気遣いが心苦しかった。
「さて、帰るか。いいか、肝心なのは帰りだからな? 駄目な冒険者はここで油断して、死んだり利益が吹っ飛ぶレベルの損をする」
「気をつけます。グリーンベア、回収してきますね」
早く強くなって、もっとこの二人の役に立たなければ。
「私たちが周囲を警戒いたしますので、ご安心下さいね」
「はい。ありがとうございます」
返しながら、死んだグリーンベアの無惨な亡骸に近寄る。たぶん買い取ってもらうとき、これでは安くされてしまうだろうな。そう思いながら近寄ると、そこには苦しんで死んだ魔物の顔があった。
上手く仕止められなくて申し訳ない。欺瞞と思いながらも心の中で謝りながら、手を翳して収納魔法に収める。そして僕らはこの日の狩りを終え、討伐報酬と素材を売るためギルドへ向け歩き出したのであった。




