第十三話 盗人が出た?
「ジョージさん、こちらも試していただけませんか?」
振り返ると、エマさんも装備の類いを持ってきてくれたようだ。それも買えば、アンナさんが選んでくれたものとの二つを、交互に補修しながら着用すればいい。ありがたい話である。そう思っていたのだけれど……。
「こ、こんな感じですか?」
身につけたそれは明らかに分厚く、外傷から身を守ってくれそうな安心感こそあるのだが、酷く動きづらい。僕は素人だけども、これを着てずっと行動するのは、さすがに骨なんじゃないかな。
「まあっ、とてもよくお似合いです。これならどのような敵が相手でも安心ですね」
「いや、鈍重過ぎるだろ! とりあえずジョージ、この鎧脱がすぞ」
衛兵のランドンさんやブライソンさんたちが着ていたものより、二回りは立派なそれをアンナさんに脱がせて貰うとだいぶ楽になった。金属の鎧を見たときは少し胸が躍りもしたけどね。実際着てみると難しいものである。
「そ、それを脱がすなんてとんでもない話です!」
「よいしょ、と……。お前ジョージを歩く的にしたいのかよ。内側に着てるこれだけでもまだ過分なぐらいだってのに」
そう言いながら、アンナさんが僕の肩を強めに叩く。たしかにあまり痛くない。けど、売り物なのにいいのだろうか……。
とは言え、アンナさんの言葉にはエマさんも渋い表情ながら頷くしかないようだ。
「わかりました。鎧兜は諦めましょう」
よかった。あれね、実はちょっと高そうだっただけに、内心はらはらしていたのだ。初期投資は重要だしレッドベアを倒したお金はまだ残っているけど、手持ちが大きく減るのは心臓に悪い。
そんな内心をなるべく顔に出さないようにしていた僕に、エマさんはいつもの幼児をあやすテンションで微笑みかけた。
「ではジョージさん、万歳してみましょうか?」
「え、ば、万歳ですか?」
「はい。腕を上に伸ばしても突っ張らないか確かめるんです。私に合わせて、そぉーれ、ばんざーいっ」
「ば、ばんざーい……」
さすがにいいトシした女の人にソロで万歳をさせるわけにもいかないので、渋々合わせる。アンナさんから呆れと憐れみの入り交じった視線を向けられる中、ついさっき僕からお代を受け取ったお店の方が苦笑いを漏らした。
「エマさん、坊っちゃん困ってるよ? 小さな子供じゃないんだから」
「そうなのですか……?」
「ま、まあ……ちょっと恥ずかしいかなって。ちょっとですけど」
元の世界にいた頃も、僕ははっきりモノを言うのが苦手だった。こちらに来る原因となった現場も、そこへ回ることが決まったときに上手く逃れた同僚から「断ればよかったのに。あんな場所行くもんじゃないよ」と怒られたものだ。
「わかりました……これからは、公衆の面前では控えるようにいたします」
まあ、エマさんに悪意や害意がないのはわかってるから、別にいいんだけどね。
「人前とか、そういうことじゃねぇと思うがな……ところでそれ、ちょうど今ぴったりぐらいなんじゃねぇか?」
「うーん、小さくはないようですけれど、もう少し大きめのほうがよいでしょうか」
「そうだな。どうせすぐデカくなるだろうし」
二人は真剣な顔で、僕の装備について話し合っている。子供の頃にお下がりばかり着ており、よその家の子供の両親が服屋でこんな会話をしているのを、僕は昔酷く羨んだものであった。
「でしたら、もうワンサイズ大きいこれなんかどうでしょう? 坊っちゃんもすぐツンツルテンになったら恥ずかしいでしょうし」
「そうだな。すぐ買い替えるのも金がかかるし、それにするか」
「少し大きい程度でしたら、引っ掛かって邪魔になったりしませんものね。ではこちらで」
「毎度あり。坊っちゃん、これで安心して冒険者ができるなっ!」
本当は二十も半ばに差し掛かってるとか、もうこれ以上背は伸びないであろうことなど、言いたいことはたくさんある。なのに僕は、素直に、「ありがとうございます」と答えていた。親が他の兄弟にしていたことや、他の家の子供がそれぞれの親にしてもらっていることを今してもらえたことで、なんだか満たされた気持ちになってしまったのだ。
別にアンナさんやエマさんのことを、自分の親代わりに見立てるつもりはない。けれど世話を焼いてくれたり、自分のことのように喜んでくれるのは望外に嬉しく感じてしまう。
まいったな。既に二十も半ばに差し掛かった大人としての自覚が、僅か一日と少しで目に見えて損なわれてしまった。どうせあの宿で女将さんからチクチクとやられながら暮らすぐらいなら、違う宿でこの二人から少し離れた場所で生活し、最低限自分の甘えを払拭しなければーーそんなとき、通りから悲鳴が聞こえてきた。
「誰か捕まえて! 店の売り上げが!」
次軽いバトルです。
一話のまとまりやテンポが悪くなってきたので意識したい。




