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プロローグ-2「不良少年、BLに目覚める!?」

「マジかおい……」


 真夏日、最高気温39度、そんな中で何時間も待たされたと思ったら早歩きでオタクたちと会場入り。会場に入ったらまた行列。順路かなんかかなと思ったら大手サークルとかいうところのエロ本の行列だった。


「つーかあれSMもんだったよな?なんで女まで買ってるんだ?」


 以前買ったAVですら純愛ものだった哲也にとっては刺激が強すぎたのか、挙動不審になったのち「やっぱいいです!」と離れてしまった。


 その後何とか休憩スペースを見つけて倒れこむように座る。


「つーかのど渇いた……自販機自販機っと……」


 だが、どこ探してもない。


 見つけたと思ったら「萌え水」とかいう女の子のキャラが書かれた痛ペットボトルだった。


「嘘だろ……」


 自動販売機にはそれしかなかった。しかも高い。


 もう少し離れた場所には他のスポーツドリンクもあったかもしれないが、仕方なくそれを選びのどを潤す。


(ってヌルっ!!!)


 半分くらいお湯化してるその水を、ともかく飲み込むと長いため息をついた。


「しょーじきオタクなめてたわ。ある意味ですげぇわ」


 もうプライドも何もかも捨て、ここから逃げ出したい。だが、仕方なくあたりを見渡す。


「確かコスプレイヤーだったよな?えっと~……」


 その時、奇跡が起きた。


「あ、あーーーーーーっ!!!!」


 昨日のアサリアさんと言う人と同じ顔をした少女を見つけた。


 思ったより身長が低かったがあの瞳と顔立ちは間違いない。もしかしたら別人かもしれないが、もうこの際どうでもいい。


「あのー!すみまわぷすっ!!!!」


 人波に飲み込まれて流されていく。


「なんだお前ら!!どけぅぐあ!!!」


「お主こそなんでござるか!!道を逆に進むとはなんと非礼な!!」


「なんでオタクってのは武士的な言葉好きなんだよ!!いいから通してくれーーーーー!!!!」




 何とかおそらくアサリアと思わしき少女を見つけ、遠くから追いかける。ウィッグで見れなかった髪はピンク色で少しウェーブの入った感じの腰までのロングヘアだった。右横だけリボンで結び合わせたアクセントがキュートな魅力を引き立たせていた。


 袖のカフスボタンが気になるのか、少しいじっている。


「…ちょっとまて、なんて話かけんだ?」


 よくわからん。


 と思ったらあるブースで立ち止まる。


「あ、あの漫画!!」


 小学生の頃見たことあるテニス漫画だった。中学に入学したころには卒業したから最近の話はわからないが、それでも会話のタネくらいにはなるだろう。




『へぇ、君もこの漫画好きだったんだ?(キリっ)』


『あ、はい(なに、この人イケメン!)』


『あはは!僕もこの漫画買いに来たんだけどね。ちょっと人込みに酔っちゃって…。ちょっと向こうでお茶でもしようか?』


『はい……(きゅん)』


 以上、哲也のパーフェクトプランが完成した。




 そのパーフェクトプランを実行しようとした瞬間いきなり躓く。


「新書三種類全部三冊ずつ。あ、既刊も一部ずつ」


「は?」


 哲也には意味がわからなかった。え、なに?三冊ずつ?しかも既刊ってよーするに前に発売された本ってことだよな?なんでそれ全部買っていくの?とオロオロしているだけだ。


「はーい。13冊で10400円になります」


 ん?あの薄い本高くね?普通単行本って500円か600円くらいだから13冊で……7800円じゃね?などと計算してると。


「あ、新刊も既刊の値段で計算しちゃってますよ?新刊は1000円だから……」


「あ、本当だ。ありがとうございますぅ~」


 あの本1000円もするの?ってかさらに高くなるの!?!?どんどん混乱していく哲也の頭でさっきのパーフェクトプランがどんどん崩壊していく。


「じゃあ、12200円になります。…はい800円のお返しですね。ありがとうございます!!」


 ああ、13000円払ったのか。っと、そんなどうでもいい事を呆けた頭で考えてしまう。そのブースを去っているピンク髪を見てようやく現実に戻ってくる。


「い、いかん俺も買わなきゃ!!」


 このままじゃ会話のタネがなくなってしまう!急いで買おうとして同人誌を手に取ったが凍り付く。


『俺のア〇ルに酔いな~侵入してくる王子様~』


 文字通り固まった哲也に、サークルの売り子の少女がきゅんとして次回のネタになるのは、また別の話なので省略することにしよう。




 その後もストーカーギリギリの哲也の努力は続いた。


 だが、彼女は頑なとして男同士の同性愛本(通称BL)以外は買おうとはしない。


 今度こそ!!と思って手に取ったらまたBL。


 もうどうしたらいいのかわからない哲也はふと彼女が立ち止まったブースの先を見る。


「お……おおおお!!!」


 今度は女の子が描かれている!これはもらった!!!


「これなら男が買うのは問題ない!なんの作品かは知らないが、後でスマホでどんな作品なのか調べれば話のタネくらいなんとでも……ん」


 その女の子の下腹部を見てみる。


 棒が生えていた。


「あれ……あれぇ?」


 棒の横には丸い玉が入っているであろう袋が二つある。どうもこの形は見たことがある。


 そうだ、トイレでしょんべんするときに毎回みてるぞ。


 ––––––ショックで倒れそうになった。




 その後も何度か女の子が書かれている作品を手にしたが、どれも地雷にしか見えなかった。


 例えば「狼に襲われた乙女」「戦国刀絵巻~俺だけを見てな~」「電車の中の悲劇~それでも恋に落ちる乙女~」「俺のものにしてやるよ~危険な男の火遊び~」などなど……。


「淫乱痴女かぁーーーーー!!!!」と叫びそうになるが何とか口元で抑え込む。


 本当になんなんだこの女。本当に痴女なのか?マジで痴女なんじゃないのか?


 古今、同人誌とはエロ本なのではないかと思ったが、そうではないという事は周りを見ればわかる。


 ギャグマンガ的なテイストな作品から普通に書店で売ってそうなもの。ゴッツイ拳法家のキャラがコスプレしているカオスなやつ。


 当然女性向けでもそんなのがあることだけは周りを見ればわかる。


 だがこのアサリアとかいう子は、それをむしろ避け、エロいのかエグイのだけ買っていく。


 男の裸体が縛られている本を買ってるときは、ものすごく嬉しそうにニヤけていた。


 しかも、さっきから引っ張ってたキャスターケースはすでに満タンになっている様子で少し重そうにしている。


「ちょっと買いすぎたかなぁ……明日からまたバイト頑張らないと」


 と、彼女がため息をついてると。


「あぅっ!」


「おぐっ!!」


 彼女は目の前にいた小太りの男とぶつかった。


「す、すみません!」


 とすぐに謝るアサリアだったが、小太りの男は顔を真っ赤にして怒り出す。


「痛いなぁ!!そんなでかいカバンを持っているのなら気をつけろよ!!」


「ごめんなさい……!!」


「足が痛いよ!!どうしてくれんの!?僕の服が汚れたぞ!?クリーニング代払ってくれるだろうね?」


「おいおい……」


 いくら何でも理不尽だった。小太りにもそれ相応の責任があるだろうに、なぜ彼女だけここまで言われなければならないのだろうか?


「この腐女子が!!どうしてくれんの!?」


「うぅ……」


 言い返せずにバツが悪そうにするアサリア。周りもなんだなんだと集まりだす。


「勘弁してくれ」


(もういいや。帰ろう。やっぱお前らキモオタだよ。この女もそうだ、エロ本ばっか買いやがってめんどくせぇんだよ。 オタクはオタク同士言い合ってくれ。そのほうが俺も煽りがいあるからよ)


「な、なにすんだよ!」


「あ、あれ?」


 哲也はいつの間にか小太りの腕をつかんでいた。


(い、いや柄じゃねーし。こんなキモオタの腕なんかつかみたくもねーし。別にこの女も好きじゃねーし。顔可愛いと思っただけで中身が腐ってるってよーくわかったし、こんな奴、守りたいなんて思うわけもねーんだよ)


「いた!いたたたたたぁ!!!!」


 そんな言葉とは対象的に力が入りだす。どうにでもなれと思った哲也は男の腕をひねり上げる。


「クセェ息吐き散らしてんじゃねーよ。絞め殺されてーのか?」(この前使った煽り文)


「ひっ」


 鋭利な刃物のような視線を(目を合わせられないから)相手の喉元に突き付け、(緊張で)腕にさらに力を籠める。


 だが、これではただの脅しだ。なんとか正論で返さないと…あれこれ考えを巡らせる。


「キャーーーー15話の健吾様のセリフよーーーー!!!」


「へ?」


「ドSクールキャラ素敵ーーー!!!しかもなかなかのイケボ!!!」


「………どうやら覚悟だけは決めたよーだな!心臓止まらねぇように気をつけな!!!」


 哲也は乗っかった。


 さらに黄色い感性が上がる。だが、小太りもさすがに腐女子趣味にはついて行けなかったようで、なんで哲也に黄色い歓声が上がってるのかよくわからずオドオドするだけだ。


「さぁ……公開処刑だ!!臓物まき散らして死んじまいなぁ!!!」


「ひぃーーーーーーー!!おかあちゃーーーん!!!」


 哲也の腕を振り払い、涙をまき散らしながら走り去る小太り。


「ふぅ……」


 あー緊張した。と安心していると。


 いつの間にか周りから拍手が上がる。


「いいぞーー!!!」


「きゃーーーー!!耳が幸せぇーーーーー!!!」


 哲也からしてみれば、ただオタクをさんざん煽りまくった言葉の羅列を並べただけだったが、なんかめちゃくちゃ称賛されていたというだけだ。


(……なんか悪くないな)


 称賛している言葉も、している人間も今まで毛嫌いしていた奴らばかりだ。だけど、その歓声は決して居心地悪いものではなく、うれしいと思えた。


「あの……」


 いつの間にかアサリアが後ろにいた。


「ありがとうございます……なんとお礼したらいいか……」


 そのアサリアの言葉に哲也はふっと笑い。




「ケッケッケッケッ!!キモオタざまぁ見ろ!!!」


 まんまとツーショット写真を手に入れた。「あなたのファンなのでツーショット写真を一枚もらえますか?」と言ったら快く引き受けてくれたのだ。


「ねぇ、今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」


 さっそくトゥイーターに写真を上げる。武士道君ねぇどんな気持ち?ねぇ今どんな気持ちぃ?と煽るようにブツブツとつぶやく。


「それにしても……かわいかったな」


 まぁもう会うこともないだろうと思いながら、哲也が駅に戻っていくと。


「ん?」


 ポケットに何か入っていた。


「これは……ボタン?」


 天使の羽があしらわれていた服のボタンが、なぜかポケットに入っていた。


 なんのボタンかと頭を巡らせるとふと思い出す。


「あ!アサリアさんの服のカフスボタンだ!」


 たぶんツーショット写真を撮った時にちょっと密着した感じで撮ったんでその時にポケットに入り込んだんだろう。


 哲也は再びアサリアを探す。


「さすがにもういないかな?」


 と言うより、この人数ではさすがに探し当てれないのでは?


「あ!いた!!」


 路地裏に入っていくアサリアを見つけて、哲也は追いかける。


「おーい!!アサリ―――」




 お前ら、確か「アサリアたんマジ天使」とか言ってもてはやしてたよな?




 ガチで天使でした………。

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