4話 予感
『お昼行ってきます!』
円香はオフィスないに響く声で言い、お財布とスマホだけ持ち外出しようとしていた。
『宇佐美。』
ドアをくぐり抜けようとした時、相馬に呼び止められた。
『なんですか?編集長。』
『帰りに、フクロウ屋の焼きドーナツ買ってきてくれるか?』
『浅井先生いらっしゃるんですか?』
『だいぶ、覚えてきたな。』
『お茶出し係のプロになりつつあります笑』
『来月出版する本の打ち合わせなんだよ。』
『わかりました。買って帰ります。』
『頼むよ。』
『はい。行ってきます。』
円香は、お昼をお気に入りの所で食べるのが唯一の楽しみだった。
公園の少し奥まった所に、ポツンと大きなソメイヨシノの木がある。
その横にはベンチがあり、春先には心地いい空間になっている。
初めてみた時には、あまりの美しさに見とれていたものだ。
綺麗な桜なのに、園内にある桜並木で出来た桜のロードに人気をとられ。
人の姿はあまり見受けられない場所だった。
なので、今ではこの場所は円香の憩いの場になっていた。
今日は編集長に頼まれたフクロウ屋で、季節のベーグルとデザートにカボチャドーナツを買ってランチすることにした。
『さくちゃんは、今日も変わらず綺麗だね。』とソメイヨシノの木に名前まで付けて、見ほれていると…。
ふと、木の前に珍しく人影見えた。
珍しいこともあるものだな。と思いながら近づいていくと。
男性が立っていた。
その男性は、190㎝はあるだろうか?というくらいの長身に、
癖っ毛のようにウェーブがかかった栗色の髪に。
芸能人ですか?って言いたくなるような端正な顔立ち。
完璧な格好良さなんだが、どこかふんわりとした可愛らしさがあるような。
言うなれば、私が愛してやまないトイプードルのような人。
それが、第一印象だった。
そんな思考に頭が持っていかれているなか、ふと意識を現実に戻し男性の顔を見ると。
つーっと一筋の涙が流れていたのだ。
私は咄嗟にモカの顔がチラついて気づいたら、ハンカチをその男性に差し出していた。
『…えっ?』
男性が私に気づいき驚いた表情を浮かべている。
『あっ。ごめんなさい!余計なお節介ですよね。
すいません!』 と言ってハンカチを引っ込めようとする。
すると、すんでのところで手を止められる。
『き、気に障ったならごめんなさい!
嫌だったわけじゃないんです。ビックリしてしまっただけで笑』
そう言って笑った顔は、モカとは関係ないのにどこか面影を感じるような感じがしてしまい。
思わず『モカ…』と呟いて涙が流れていた。
『えっ?あっ!ごめんなさい!泣かせるつもりはなかったんですけど…』と男性は慌てていた。
私はサッと涙をぬぐい、違うんです!と言って慌てて説明をした。
2人でベンチに座って、話をした。
『そうだったんですね。』
『はい。モカは私にとって半身みたいなものだったので。
生きてるものならいつか別れが来るのを頭では理解していたんですけどね…』
『わかりますよ。僕にも似たような経験ありますから。
感情って、理屈じゃないですからね…。』
そう言った彼の横顔は、何処か寂しげに見えた。
『ハンカチありがとうございました。洗って返します。』
『勝手にやったことですし、洗ってもらうなんて大丈夫ですから。』
『いえ、絶対に洗って返します!』
『えっ?』
『君とはまた会えそうな気がするので。
そのお守りがわりに預からせてください。』
『はぁ…』
私が戸惑いの言葉を出すと、彼はニッコリと笑い去っていった。




