今年のお年玉
お年玉をもらう側からあげる側になってかなり経つ。
どんなことでもそうだが、その立場になってみないとわからないことは多い。お年玉も、あげる側になってわかったことがいくつもある。
何で年に一度しか会わない、ただ、そこそこ年下というだけの子供にお金をあげなきゃいけないのか。なんてのは前々からわかっていたことだから、それなりに覚悟はしていた。子供の頃ははもらえるのが当たり前だと思っていたから、それを理不尽と怒るのも大人げない。
私が頭を悩ますのは金額である。
相手が小さな子供の場合、それなりの準備が必要だ。
私が小さな子供の頃、幼稚園に通っていた頃は、金額はそれほど重要ではなかった気がする。大事なのはお金をもらったという実感。お金の存在感だ。それを一番感じられたのが重さだった。つまり硬貨である。紙のお金は金額こそ大きいとはわかっていたが、ペラペラでもらってもつまらなかった。
硬貨をいっぱい手の中でじゃらじゃらさせると、手の中での硬貨の動きが、重さが
「お金だぁ」
という実感につながった。それは紙のお金では得られない充実感だった。我ながら嫌な子供だ。
硬貨と言っても十円は駄目だ。あのくすみ汚れた茶色は私を満足させてくれなかった。やはり百円玉が良い。それも出来ればまだ光沢の残る新しいもの。千円で十枚。小さな手なら一杯になる。両手一杯のキラキラしたお金はそれだけで
「俺って金持ち!」
な気分にさせてくれた。大人にとっても安上がりだ。
お年玉を入れるポチ袋も重要だ。小さな子供だからアニメやゲームの絵柄の入ったものというのも一つの選択肢だが、子供は子供扱いされると却ってへそを曲げる。私もそうだった。でも通好みの渋い柄物はやはりつまらない。遊び心があってそれなりに高級感も見せるのがいい。
私がよく選ぶのは、コンビニやスーパーなどで売っている小判型のポチ袋だ。キラキラしていて縁起も良さそうだ。実際、百円玉を満載した小判のお年玉は三、四才の甥や姪に評判が良かった。姪などは中の百円玉よりも袋の方を気に入ってくれてずっとそれを手にしてニコニコしていた。
だが待て、小判を手にして笑い、なかなかそれを手放そうとしない女の子。……なんかいけないことを教えたような気もする。
今年は小判に加え金色の招き猫のポチ袋も用意した。猫に小判ならぬ招き猫に小判だ。小判を招くようで縁起が良さそうだ。
これが小学生ぐらいになってくるとがらりと変わる。ポチ袋や硬貨の質感といった見かけに騙されず、中身で判断するようになってくる。紙幣や硬貨に記されている数字の意味を知るのだ。その金額はまだまだ少額と言えないこともないが、油断はできない。
これは見方を変えれば、見た目にごまかされず、中身を重視する大人になったと言えないこともないが……ふっ、大人って汚いな。君たちには、子供の心を持ち続けて欲しかったよ。大人の事情から。
金額を自分が子供の頃を基準に考えると、まともに不満顔をぶつけてくる。自分の頃よりワンランク上の金額でやっと満足してくれる。本当にかつての自分そのままである。
それでもいくらかの遊び心はいれたいもので、今年のお年玉は二千円札でだした。存在は知っていても、実際に見るのは初めてのようで、いくらかは面白がってくれたようだ。
でも使う時が心配だ。レジが若い人の場合、二千円札を知らない人もいそうだ。偽札と思われて警察に捕まらないことを祈ろう。いや、一番無難なのはこのまま銀行に持っていって預金することか。
はてさて、来年はどうしよう。
はじめに「あげる側になって」と書いたが、実を言うと、私は今でも父からお年玉をもらっている。
父は毎年、子供たちを集めるとアミダくじと人数分のポチ袋を出してくる。アミダくじで決めた順番で封筒をとっていくのだ。
中身は現金ではない。年末ジャンボ宝くじがバラ(未開封)で三十枚ずつ入っている。
ちなみに、私もこの真似をして甥たちのお年玉をくじにしようとしてみた。父の真似をしてジャンボ宝くじにしようか、あるいは本人の誕生日を数字にしたナンバーズ4(十回継続)にしようか。
どちらがいいか聞いてみたら子供達はそろって
「現金が良い」
と答えた。夢がないのか、堅実なのか。でも、自分でもやっぱり現金が良いと答えるだろうな。
さて、この年末ジャンボのお年玉。もらった時点で当選番号はわかっている。中のクジが当たっていても、ハズレでも文句は言わない。
当選金については子供達で暗黙のルールがある。
十万円未満なら本人のもの。
十万円以上なら皆に回転寿司を驕る。
百万円以上なら皆に回転しない寿司を驕る。
一千万以上なら誰にも当たったことを言わずに懐に入れる。
今のところ、十万円未満以外のルールが適用されたことはない。一千万以上当たったが、誰にも言ってないので気づかれていないという可能性はあるが。
さて、運命の時、今年のお年玉は……
わーい、九百円あたった!




