第5話
あれからも俺は、変わらずストーカーとしてメールを送り続け、古宮さんの好きな人として"城戸稜弥"を演じ続けた。
そして、とある作戦を実行した日の夜、彼女に電話をかけた。
もちろん、"城戸稜弥"としてだ。
隠しカメラで、彼女の様子を観察する。
今は、雑誌を読んでいるようだ。
その様子を見ながら俺は電話をかけた。
すぐに音に気づく彼女。
分かりやすく慌てふためく。
そこて、呼吸を整えると、スマホを耳に当てた。
『もしもし?』
彼女の声が聞こえる。
「あ、もしもし?今、大丈夫?」
『うん!暇してた!』
そう言って笑顔をこぼす彼女。
本当に可愛いな……。
「良かった。今日も無事に家に帰ってるんだね。」
『うん。心配かけてごめんね。』
「そんな事ないよ。……あのさ……1つ確認したいことがあって……。」
『……確認したいこと……?』
俺が改まった感じで言葉を発すると、彼女は正座になって俺の話を聞き始めた。
「うん。ここ最近、帰り道につけられてるなって感じたことある?」
『ここ最近っていうか……毎日誰かにつけられてる感じはしてるよ……?』
そりゃ、そうだよね。
最近は、俺だけじゃなくて、周藤も君の後をつけてるんだから。
でも、それは君を守るための尾行だけどね。
「やっぱりそうだよね。」
『どうしたの?』
彼女は緊張しながら尋ねる。
「見てほしい写真があるんだ。」
『写真?』
「うん。もしかしたら、コイツが犯人かもしれない。」
『……えっ……!?』
そう。
俺が犯人に仕立てあげた人物。
お前には悪者になってもらうから。
少しの間だけだけどね。
『分かった。じゃあまた明日ね。』
何かを決意したのか、彼女はそう言って電話を切る。
きっと、明日には全てが分かる。
古宮さん……楽しみにしててね──?
次の日のお昼休み。
俺は古宮さんを呼び出した。
誰もいない講義室。
そこに向かい合って座った。
「──この写真なんだけど……見覚えある?」
俺は、スマホの画面を古宮さんに見せる。
目を思いきり見開く彼女。
今までて一番驚いている顔だ。
まあ、仕方ないよね。
君の仲良しが写ってるんだもん。
「これって古宮さんといつも一緒にいる、周藤陽太だよね。」
俺は、彼女にしっかりと認識させるためにその名前をハッキリと告げる。
「俺も、まさか犯人が周藤くんだとは思わなかったよ。でも、近くにいるからこそ見えない事ってあるよね。」
俺は淡々と語る。
古宮さんは色々な事を思い出している様子だ。
その様子を眺めながら、俺ももう一度写真を見る。
そこには、黒っぽい格好で電柱のかげに隠れている周藤の姿。
これじゃあ、本物のストーカーに見えちゃうよ。
でも、俺としてはラッキーだけどね。
「──古宮さん……?」
俺が、話しかけると彼女の瞳から涙がポロッとこぼれた。
まさかの出来事に俺は驚く。
泣くとは……思ってなかった……。
俺は罪悪感に駆られ、そのまま彼女のの頭を引き寄せ、優しく抱き締めた。
「……ごめんね。泣かせるぐらいなら言わなければ良かった。俺が、話をつけてくれば良かった……。」
「違っ………ごめっ……なさいっ………!!」
「後は俺に任せれば良いから。だから…泣かないで?」
できるだけ優しく話しかけると、古宮さんは声を殺して腕の中で泣き続けた。
さあ、クライマックスだ。
古宮さん──。
昼休み終了、10分前になると、誰もいなかった講義室にも人が増えてきた。
それは、周藤がこの教室に現れることも意味している。
古宮さんは、下を向いて悲しげに座っている。
すると、周藤が講義室に入ってきた。
俺と周藤の目がバチリと合う。
俺は、勝ち誇ったように笑った。
すると、向こうもニヤリと笑みを浮かべたのだ。
……は?
何だよ。その笑顔。
今のお前には、余裕の1つも無い筈だろう?
そのまま、周藤は古宮さんに話しかける。
古宮さんは周藤の言葉には耳を貸していないようだ。
それで良い。
それで良いんだよ。
そいつの事なんて気にしなければ良い。
しかし、次の瞬間、周藤が何を言ったのかは分からないが古宮さんが肩を震わせた。
そして、周藤はその場を立ち去り、講義室も出ていった。
古宮さんは、慌てて後ろを振り返ったが、周藤は既に講義室の外だった。
……何をするつもりだ?
少しの焦りと不安を抱えたまま俺は、教授の声に耳を傾けていた。