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第3話




「──ちょっと、待っててね!お茶出すから!」


「あ、お構い無く!!」



憧れ続けた古宮さんの家。

俺は歓喜に満ち溢れていた。


古宮さんは、お茶を用意しようと台所へ行ってしまった。


俺は立ち上がると、古宮さんの部屋を観察する。


白を基調とした、シンプルな部屋だ。


こういうところも彼女らしいなと感心する。



あれをつけるのは、あの辺りが良いか……。


そんな事を考えながら、俺は窓の外を眺めた。



目の前にある公園。

その向こうにある俺の家。


もちろん自分の部屋が確認できる。


暗くなり、窓に写る自分を見ながら笑みを浮かべた。





「城戸くん?どうしたの?」


その声にハッとして、俺は我に返る。



「へ?ああ、いや、近くに公園があるんだなって思って見てた!」



「あ、そうなの。近所の子供たちがよく遊んでるよ。」




「そうなんだー!」


適当に相づちを打ちながら、俺はベストなタイミングを今か今かと待ち続けた。






それから、机に向い合わせで座った俺たち。


俺は、改まった表情でストーカーの事について尋ねた。




「それで……?具体的には何をされてるの……?」



「……うん。実は、メールがたくさん届くんだ。」



「メール……?」


良かった。

きちんと届いてるみたいだ。


古宮さんは、下を向いたまま話を続ける。




「いつも私を監視してるようなメールなの。

"さっき○○してたね"とか、"今日は髪の毛結んでるんだね"とか、"今日も変わらず可愛いね"とか。

あとは、今日みたいに後をつけられてることもある。」









そうだよ……。


それは全て俺が送っているメール。


いつも君を見てるよっていう合図の為だよ。



ちゃんと読んでくれてるんだね。


嬉しいよ……。









「最初はね?誰かの嫌がらせだと思ったんだ。

でも、これって……」




「──ストーカー。」




俺は、その言葉をハッキリと伝えた。


ここで、ハッキリとさせておかないと。


君は、俺にストーカーをされてるんだよ?


分かってる?




「それって完全なるストーカーだよね。」


俺が再び繰り返すと、古宮さんの表情はみるみるうちに暗くなる。



「……やっぱり、そうなんだ……。」



彼女は、はぁとため息をつく。


その、落ち込んでいる姿でさえ美しいと思う。


彼女を悩ましているのが、俺だと思うと、ゾクゾクしてくるよ……。


もっと、俺の事だけを考えて?


俺だけを見て?


そうすれば、俺は満足だから。




そんな事を考えながら、必死で笑いをこらえていると











「……警察に相談した方が良いのかな……?」












その言葉に、俺はピクリと反応する。


警察に、相談する……?



そんなの許さない。


俺の楽しみを奪おうとすることは、たとえ古宮さんだとしても許さないから。







俺は、悩んでいるふりをしながら答える。



「警察は……どうだろう……。それで、ストーカーが逆上して、古宮さんに危害を加えるようになっても困るしね……。」



「……そんなこともあるんだ……。」



彼女は、再びため息をついた。


よし。これでひとまずは大丈夫だろう。



あとは、次の作戦を決行するまでだ。






そして、俺は立ち上がると、彼女の目を見つめた。


彼女の頬が赤く染まる。







「でも、安心して?その代わり、俺が古宮さんを守るから。いざという時は、頼りにしてよ。」







「城戸くんっ……!」


彼女は、俺の言葉に感動している様子だ。


よし、古宮さんが考え事をしている今しかない!!




そのまま、俺は窓の外をじーっと見つめた。


彼女が、俺の異変に気づくまで。




「……城戸く──」



そう呼ばれた瞬間、俺はかぶせ気味で叫ぶ。



「──静かにっ!!」



俺はそう言ってカーテンをシャッと閉めた。


古宮さんは、訳が分からないといった風な顔でこちらを見つめている。




そして、俺はいつもより低めの声で呟いた。






「……今、そこの公園から、こっちを見てる男がいた。」







「……えっ!?」



彼女は、絵に描いたように驚く。






「もしかしたら、そのストーカーかもしれない。」






「ま、待って……私も覗いて──」



覗く?


それは困るんだよね。



「──今は顔を出すべきじゃない。」


俺は、再びかぶせ気味でそう言うと、古宮さんの腕をガシッと掴み、彼女の動きを封じる。


彼女もおとなしく、その場に座ってくれた。




よし、良い子だ……。



ごめんけど、公園には実は誰もいないんだ。


全部、俺の嘘。



でも、これで犯人は確実に俺では無くなる。


これで俺は自由に動けるって訳だ。




そんな事を考えながら、俺は彼女に告げる。



「男と一緒にいるって思われたら、相手も何をしてくるか分からないよ。」



「えっ…!?」




「…だから、今は電気を消して大人しくしておくべきだ。」



そう言うと、俺は部屋の電気を消した。


カーテンを閉めたことで、暗闇に包まれる部屋。



よし、完璧だ。



俺は、自分の鞄から用意した物を取り出すと、行動を開始した。




まずは、カーテンレールの近くに小型のカメラを一台設置……と。


これで、彼女の部屋がバッチリ撮れるはずだ。


ダメだ……。


興奮がおさまらない。






「……城戸………くん……?」




そこへ、彼女の不安そうな声が聞こえてくる。


そんな声で俺の名前を呼ばないでよ……。



彼女の呼び掛けには答えず、また自分の鞄から物を取り出すと今度は彼女の鞄のポケットにそれを入れた。







「……城戸……くんっ……。どこっ……?」





再び聞こえる、彼女の声。



ああ、ダメだ。



いとおしすぎる。



俺は、そのまま近くにいる彼女を引き寄せ抱き締めた。



古宮さんの、華奢な体。


もう少し力をいれれば、折れてしまうんじゃないか…。


そう思ってしまう。




俺は、そっと彼女に呟く。








「………大丈夫。俺はここにいるよ。」





俺が、そう呟くと、古宮さんは遠慮気味に、背中に手をまわしてきた。


ヤバイ……。


本当に可愛すぎる……。



今にも押し倒してしまいそうな衝動に駆られたが、今はまだその時じゃないと必死で自分を抑え込む。


そして、古宮さんを強く抱き締め、また呟く。





「安心して……。俺がいるよ───。」






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