第2話
全ては僕が知っている②
今日も1日が始まる。
最近の俺の日課は、早めに大学に来て、全体が見渡せる後ろの席を陣取ることだ。
まぁ、真面目な古宮さんは前の方に座ってるから、基本的に見えるんだけどね。
「城戸くんおはよー!!」
「隆弥くん!おはよう!」
色んな人の挨拶に爽やかに返事をしながら、今か今かと彼女が現れるのを待つ。
来た。
思わず高鳴る心臓。
いつものように冴えない彼女の表情。
君は今、きっとメールのことで頭がいっぱいなんだろうね?
そう、俺のメールに悩まされている。
今日は、どんなメールが送られてくるのか。
何が起こるのか。
不安で不安で仕方がないんだね?
今日もその期待に答えて俺はメールを送るよ。
素直な気持ちをメールにして。
1日の講義が終わると、皆それぞれ準備をして帰る。
古宮さんもボーッとしながら一人で帰る支度をしている。
俺は、今まで弄っていたスマホを鞄にしまうと、ポケットからもう一台のスマホを取り出した。
そして、素早くメールを打って送る。
『授業を受けてる姿も素敵だね。古宮安奈さん。』
すると、古宮さんの動きが止まる。
俺は、古宮さんの元へと近づく。
すると
「あ、マナーモードにするの忘れてた…。」
と彼女は呟いた。
俺は、ごく自然にそれに答える。
「まじ!?講義中に鳴らなくて良かったね?」
俺に気づいた古宮さんは、ニコッと笑いながら答える。
「本当だよ(笑)」
その笑顔に思わず見とれていた。
すると、古宮さんが再び口を開いた。
「城戸くん帰るの?」
まさか、そんな事を聞かれるとは思っていなかったので、俺は驚くがニコッと笑って答える。
「うん!帰ろうかな!古宮さんは?」
俺も尋ね返す。
すると、古宮さんはスマホを手にした。
先程のメールを確認するのだろう。
「私は~…。」
すると次の瞬間、彼女は目を見開いた。
上がりそうになる口角を必死で抑え、俺はわざと尋ねた。
「──古宮さん?」
その言葉にハッとした彼女は、焦って答える。
「へ?あ、ごめん。私も、帰ろうと思ってたところ!」
そう言って、わざとらしい笑みを浮かべた。
「そっか!気を付けて帰ってね!」
「ありがとう!城戸くんもね!」
そう言うと、俺の横を通り抜けて急ぎ足で講義室を後にする古宮さん。
その背中を見送りながら俺は思わず笑みを溢す。
そして、自分の家に帰ると向かいにある古宮さんの家を確認する。
カーテンは閉まり、洗濯物は干したままである。
何だ。帰るなんて嘘じゃんか。
それにしても、カーテンが閉まってたら彼女の事が見れないのが残念だよな……。
何か良い方法は無いかな……?
そんな事を考えていると、良いことを思い付き、鞄に荷物を詰め込むと外に出た。
暇潰しに読んでいた小説をパタンと閉じると、顔をあげる。
すると、荷物を片手に嬉しそうに歩いている古宮さんの姿が見えた。
タイミング最高だよ。
俺は、フードを目深に被ると彼女の後をついていった。
しばらくついていくと、閑静な住宅街に入る。
すると、彼女の様子にも少し変化が見られた。
少しずつ歩くスピードが早くなっているのだ。
これは、気づかれたか……。
俺も、彼女のペースに合わせてスピードを上げる。
歩くスピードはどんどん上がり、彼女はとうとう走り出してしまった。
よし、作戦決行だ。
俺は猛スピードで走り出すと、古宮さんの肩をグイッと引っ張った。
「───いやっ!!!離してっ!!!!」
古宮さんは、こちらを見ることもなく腕を大きく振り抵抗してきた。
何だこれ。
ゾクゾクするよ。
俺はそんな自分の感情を無理矢理抑え込み、何も知らないふりをして彼女に話しかけた。
「ちょ、古宮さん!?落ち着いて!?」
その声に驚いて彼女は顔を上げる。
そこには、俺の姿を確認して驚く。
「……え?待っ………何で……?」
驚きを隠せない様子の彼女に、俺は状況を説明するように話を始めた。
「帰ってたら、ちょうど古宮さんがいたから、声かけようと思ったのに、すごい勢いで走っていくんだもん。思わず、追いかけてたよ。」
彼女も、その言葉で今の状況が理解できたようだ。
呼吸も少し落ち着いている。
「……そう……だったんだ。あ、ごめんね!?別に城戸くんから逃げてた訳じゃなかったの!!」
彼女は必死で弁解する。
いや、完全に逃げてたじゃんね……?
俺が何も言わないままでいると彼女が口を開いた。
「……ごめん。怒ったよね……?」
「怒ってるんじゃないよ。心配してるんだ。」
「……え?」
ここで優しい言葉をかけておく。
「帰るときの様子がおかしかったから、実は密かに心配してたんだよ。
それで、さっきの逃げ方を見て、確信した。
誰かに何かされてるんじゃない?」
「──!?」
誰かに何かされてるんじゃない?
ていうか、ストーカーされてるって事に君は気づいてる?
すると、彼女は俺の言葉に素直に頷いた。
俺は、そこでまた彼女に言葉をかける。
「やっぱりか……。俺でよければ協力させて?古宮さんの力になりたいんだ──。」
さあ、ここからが面白くなる筈だ。
もっと楽しませてくれよ?
古宮さん──。