11
部隊が全滅し、その報告をした結果休暇を貰い暇になった。特に何もすることがなく、娯楽も少ない施設の都合、同じく部隊解散の結果毎日暇を持て余す、昔なじみのアーシェと食堂でだらだらすることになった。
初日は普通に昔の話をしていたのだが、次の日、その次の日、とずっと話していると、話す内容がなくなってしまう。まあ、こういったふうにアーシェと話すのは昔から互いが暇になったときに時々やっているので、どうしてもこれ以上話すことがない、というぐらいになったことは一度や二度ではない。そのため、大体は途中から適当な遊びで暇をつぶすこととしている。多くの場合は二人でやる卓上遊戯、囲碁や将棋、チェスみたいなものだ。
ちなみに、いわゆるテレビゲームの類は今はあまり発展性が低い。たまに秘宝のゲームとかもあるのだが、そういうのはやると現実に影響が出たり、逆に入りこんだりが多くて色々危険だ。そもそも、そういうのは専門チームがプレイするので俺たちのように暇つぶしにやるなんてことはない。昔のゲームなんかは時々引っ張り出してやるのだが、もうやりつくした感があるのであまりやる気にはならない。
「最近はこればっかりだな」
今週のはじめからは毎日囲碁をやっている。今は昔とは違い、こういった遊戯の大会などは頻度も少なく、プロ制度なんかも存在しない。人間の文化圏が狭くなり、たびたび秘法を得た生物が襲ってくる現状、あまり娯楽に力を割けないからだ。
「暇だからしかたないでしょ」
ぱち、と打たれる。長い間互いにやっているが、同じ相手としかやらないせいで自分がどの程度の腕前なのかわからない。まあ、所詮暇つぶしに過ぎないからどうでもいいことなのだが。
「でも、もう少し何かないものかな」
盤面を見て、どこに打つか思考しながら、他の娯楽がないかを言ってみる。
「せめて都市部に行ければね」
「俺らは基本的に施設待機だからな、休暇扱いだけど」
重要な戦力であったり、貴重な秘法を持っていたりする場合、どうしても緊急の要請などあったりする。その都合、どうしても他の街なんかに移動するにはかなり面倒な許可申請が必要だ。そして、休暇中はそういうのは殆ど通らない。大体は仕事の帰りの時に行く場合などで申請が通る。
「休暇なんだからもうすこし融通がきけばな」
ぱち、と一手打つ。わざわざ休暇になっているというのに、そういう所はもう少し何とかしてほしいところだ。変なところで頭が固い。
「まあ、昔から変わらないからね。実際あまり困っていないから、変える必要もないし」
アーシェの言う通り、現状で困ることは少ない。暇つぶしができない、と文句を言うのは困るといっても別の話だ。
「だいたい、ツキヤは回収部隊なんだから、隊員ならなれるんじゃない?」
「なれるんだろうけど、今回はダメだった。何か理由があるんだろうけど」
本来ならば、どこかの回収部隊に配属されるはずだと思ったのだが、何故か配属されなかった。別に隊長だったからと言っても絶対に再び隊長職になるわけではない。大体は他の部隊の隊員に配属されることがほとんどだ。そもそもここでは隊長なんてわざわざやりたがる方が少ないのだが。
「ふーん」
特に気にかかるようなことでもない、と適当な返事とともにぱち、と打たれる。
そうやって色々と会話をしながら遊んでいると、突然の乱入者が現れる。
「アシエー!」
「ひゃっ!?」
アーシェがいきなり後ろからぎゅっと抱きしめられ、かつん、と持っていた碁石を落とす。
「……ドリー。久しぶりだな」
「ツキヤ、久しぶリー。アシエも久しブりだねー」
ドリー・モーデック。俺とアーシェの古い知り合いである。
「ドリー!? いきなり後ろから抱き着いてくるのはやめてくれない!?」
「エー? いいじゃナい。サプライズだヨ、サプライズー」
アーシェがドリーに対して怒るが、ドリーはまったく気にした様子はない。
「それと、アシエじゃなくてアーシェだから」
「そうダっけ? 昔はアシエダったよネ?」
「……今はアーシェだから」
「んー、マ、いっか。デも、アーシェ前会ッた時よりちっチゃいねー」
「能力の代償。ドリーも知ってるでしょ」
「そもそもドリーよ、お前が全く年を取ってないことが不思議なんだが」
こいつと以前会ったのは数年以上前だが、全く見た目が変わっていない。そもそも、何十年前からの知り合いだという点にいろいろ驚きだ。
「ツキヤも見タ目変ワらないデしょー?」
「秘法関連だから説明がつくけどお前のは全く説明つかないだろ……」
「こんなところでもその籠背負ってるの? 迷惑にならない?」
ドリーはその背中に籠を背負っている。こいつの秘法の能力関連の代物がその中身何だが、それを食堂に持ってくるなと言いたい。
「大丈夫だヨー。人に当たラないヨうに軽量のモのにしテるかラ」
「いや、そういうことを言いたいわけはないぞ、絶対に」
問題は中の物だ。
「そういえば、何でドリーはここにきたんだ?」
「んー、各地ヲ転々としテ色々仕事中ー。で、今ハここノ近くに用ガあったからツいでに寄ッた」
「仕事? でも、この辺で最近何かあったかしら?」
そもそも近場に何かあればすぐに対応しているはずだ。ドリーがわざわざするような仕事があっただろうか。
「人探しダよー。スぐそこ」
「……人探し?」
頼む相手を間違っていると思わざるを得ない。だが、ドリーの能力の都合上、生死問わずなのだろう。
「場所ハわかっテるから、行っテ交渉してくるダけだよー」
「ちなみにどんな相手なの? ドリーが行くほどの相手?」
アーシェがその相手について尋ねる。ドリーが行くとなると、相当の相手だと思われるが。
「こコで事件が起キた、原因の動画ニ映っテいた、アイドルの女ノ子だよ」
「!」
「!」
ドリーの言った内容、その思いがけない相手に俺とアーシェが反応してしまう。ここ、食堂で起きた精神汚染の事件。あの時の動画に映っていた、銀髪の少女。アーシェの秘法の能力ですら、その現在位置しか不明だった相手だ。
「……大丈夫?」
流石に相手が強力な秘法か秘宝を持っている可能性の相手ということで、アーシェもドリーを心配する。俺としても、ドリーの強さは知っているが、どれほどの強さの相手かわからない以上、心配なところはある。
「問題ナいよー。イつもどおり、しッかりヤるだけだからラねー」
ドリーは変わらない。気負いなんてまるでないような振る舞いだ。確実に相手のことについては聞いているはずだと思うのだが。
「何かあったら言えよ。休暇中だが手伝いくらいはできるかもしれないからな」
「そうね。私も何かあったら手伝うわ」
「ありガとー。ソんな場面になったら頼ムよー」
その後、呼ばれてたの思い出したからそろそろ行くねー、とか言い出してドリーが去っていった。流石にそのまま食堂で遊ぶのを続ける気にはなれなかったので、遊具を片付けて俺たちはそれぞれの部屋に戻ることとなった。
小学校の跡地、指示書に書かれた相手がいる目的地だ。そこにドリーが訪れる。結構な場所が崩れており、目的の相手がいる場所までは一直線だった。
「あー、アんたが『クロ』?」
昼間であるのに、薄暗い建物の中、その暗い中でも闇に映えるような輝きを持つ銀の髪を持ち、闇に溶けるような黒い服を着た少女が自分を呼ぶ声にドリーの方を向く。
「あなた……中々いい闇ね」
「?」
ドリーはその言葉の意味を理解できず、に首をかしげる。
「ああ、答えにはなってないわね。あなたの尋ねた通り、私が『クロ』よ」
クロと呼ばれた少女はにこり、と可愛い笑顔を浮かべ、ドリーの質問に対して答えた。
「そウなんだ。エーっと、とリあえず、アたしにツいてきテくれる?」
ドリーは明らかに言葉が足りていない要請をクロにする。それはドリーにとってはある程度意図的なもので、あいてに拒否をさせることがその狙いにある。単純に彼女は戦闘で相手を殺した方が手っ取り早く楽だと思っているからだ。
「ええ、いいわ。秘宝や秘法を扱う組織なのでしょう?」
クロはあっさりと許諾する。彼女は組織についてはすでに知っていたようだ。
「エ? あー、来ルの? まあイいけど」
ドリーは自分についてくる様子のクロに戸惑いつつも、彼女を連れて最寄りの施設まで連れていくことになった。




