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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
artifact
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4

 教会を覆っていたすべての黒い何かを消滅させ、杯を回収し、施設に帰還した。チームはそこで解散し、次の指令が来るまでは待機という名の休暇だ。


「あれ? リーダーは行かないんですか?」

「俺は報告があるからな。これも持って行かないといけないし」


 そう言ってディナエリーに今回の回収物である杯を見せる。秘宝、その中でも危険性の高いものはそれがどのような効果を持つ秘宝か早い段階で調査し、破壊するかそのまま保持しておくかを決めなければならない。


「大変ですね」

「仕事だ。代わりにリーダーをやってみるか?」

「それはちょっと……」


 まあ、冗談だが。







「やっと持ってきたか」


 施設内の研究室、ここでは秘宝や秘法の研究を行っている。例えば秘宝の性質を調べ、どのような使い道があるのか、危険性があるのかを判断したり、秘法の特性を見極め、どんな活用法があるのかを導き出したりしている。


「今回の回収物です」

「よこせ」


 杯を差し出すと乱暴に奪われる。この博士の行動ではいつものことだ。


「ふむ…………………………」


 博士――ハロンド・メルカーベル博士は、秘法や秘宝の持つ性質や特性、能力が分かる秘法であるらしい。その能力のおかげで非常に有能なのだが、研究の虫、マッドサイエンティストの気がある。


「闇を生み出す杯、と言ったところか。名づけるのであれば"闇の祝杯"とでもつけるか?」


 秘宝に付ける名前に特に意味はないが、その秘宝の特性が分かりやすいものであればいい。ただ、人の秘法に子供っぽい名前の付け方をして、それを公式に登録するのはやめてほしいところだ。


「詳しい特性を知りたい。何が起こっていたか話せ」


 本来仕事は秘宝を渡した時点で終わりなのだが、この場に留まっているのは博士が回収時に秘宝が起こした事態の全容を知りたがるからだ。秘宝に関することはその全てを調査し、どんな能力を持つのか、どんな作用があるのかを調べつくさないと気が済まない性格だ。研究者としては非常に優秀だが、その性質のせいで休暇中だろうが、恋人とデート中だろうが、家族の葬式の最中であろうが、容赦なく自分の知的欲求を満たすために権力を使って秘宝回収に携わった人員を呼びつけるため、大変迷惑がられているところもある。


「まず、秘宝を最初に見つけた人物の話ですが――」


 今回の秘宝回収における最初の秘宝の発見、通報から、自分たちが回収しに行った時の状況、調査班の状態と生まれた黒い何かの特性、黒い怪物の存在とその特徴、そして最後に回収して杯を立たせ、黒い何かが溢れるのが止まるまでの全容を博士に話した。


「ふむ、ふむ、ふむ………」


 秘宝を見ていたときのように思案顔になる。いつも報告をするとこの表情を浮かべている。報告した情報を纏めているのだろう。


「闇、精神汚染、怪物もまた闇の具現と言ったところか? 光に弱い、闇は光に弱いという信仰、思想が影響、見つかった場所は教会だが宗教は関係ないな。ふむ、黒いものが何かも確かめてみるか」


 そう言って博士はいきなり杯を傾ける。当然、その杯の中から黒い何か――闇が溢れ出す。


「博士!? 何しているですか!?」

「実際に見て体験しなければ特性が分からないだろう? 怪物が出た時は対処しろ」


 この博士の最大の問題は周囲への影響を全く考えず実験に移る危険性があることだ。だから秘宝の提出の際は装備を外さず来ることが推奨されている。下手をすれば巻き込まれて死ぬ危険もある。なぜか博士は毎回実験事故を起こしても生き残るのだが。


「電灯があるから大丈夫だろうけど……」


 黒い何かが溢れ、博士の体を覆う。その様子を見ても博士はまるで不快に思わないようで、眉一つ動かさない。


「ふむ…………精神汚染というよりは人の心の闇を引き出す性質か? 同化か触発されてと言ったところだろうな」


 ざわざわと、上半身を多い、頭、下半身まで闇が覆っていく。生まれた闇は光に弱いが、光で消滅する量よりも出てくる量のほうが多い。


「博士! そろそろ戻してください!」

「待て。怪物がどの程度で出るかを試したい」

「……床を覆いつくすまでです。そこまで何も起きなければ無理やり止めますよ」


 俺の言った言葉に博士は答えない。聞こえているだろうが、無視しているのだろう。まあ、無視されようが安全のために止める。

 結局床を覆いつくすまで闇をあふれさせたが、怪物は出なかった。怪物が出るにはある程度以上の闇が溢れないとだめなのか、それとも溢れた闇が集まり怪物になるのか、そのあたりは不明だ。その解明ができなかったためか、博士もこちらを不満そうに見るが、流石に実験が止められた理由はわかっているのだろう。


「……今度実験を申請して試すか。特性の把握、怪物が生まれる要因の判定のためならば通るだろう。ああ、そうだ。もう帰っていいぞ」

「杯を保管棚にしまうまでは残ります」

「ちっ」


 最後まで見ていないと途中で気が変わって実験をすることも珍しくない。博士が回収した秘宝をしまうまでをきちんと確認し、ようやく研究室から出る。


「飲み物を買っていくか……」


 自動販売機でいつも購入している飲み物を購入し、自室へと戻った。

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