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ガタン、と車が揺れる。もともと整備された道だったが、長い時間使われず、補修もされていない道だ。たびたび段差や壊れた部分に引っかかり、車が揺れていた。この車は一般的な車ではなく、中で色々と準備ができる映画などで見られた特殊部隊の使うような車両だ。その中に、俺を含め七人の人間が中にある椅子に腰かけて、車が到着するのを待っている。
「へ、へへ……」
その中の一人、金髪の男が何かを乗せるように手のひらを上に向け、その手のひらから炎を出したり消したりしている。俺はそんな男の様子を見て注意する。
「ワレンコフ。何をしている? 勝手に力を使うな」
「リーダー」
金髪の男――チェレスト・ワレンコフは注意をしてきたこちらを睨んできた。
「別にいいじゃねえか。俺はワクワクしてるんだ。少しくらい抑えられない気持ちを解放してもいいだろ?」
「……そういえば、お前は今回が初の実戦だったか」
「そうだ。だから少しくらい大目に見ろよ」
そう言ってワレンコフはすでにこちらから視線を外し、また同じようにし始めた。これ以上注意をしても聞かないだろう。
「他の仲間に迷惑をかけるなよ」
返事はなかった。聞こえてはいるはずだが、聞くつもりはないかもしれない。
「リーダー、いいんですか?」
隣にいた赤く見えるような茶髪の女が少し不満な様子を見せて聞いてくる。
「あまり無理に押さえつけて反発されても困る。秘宝の回収をしっかりやれるなら少しは目を瞑る」
「…………だけど」
「ディナエリー。今は我慢してくれ」
本音を言えば、あまり勝手をされるとそれはそれで部隊の調和が乱れるので困る。だが、リーダーである俺が言っても話を聞かないのであれば、この仕事が終わった後で上下関係を叩き込むしかない。そう茶髪の女――ディナエリーに小声で伝える。やはり勝手をする人間を作ることに不満そうな表情ではあるが、一応の納得は見せてくれた。
「…………ついたか」
車が止まり、目的の場所に着いた。俺たちの目的は秘宝の回収、それが不可能な場合は破壊することだ。
かつてこの世界には人類が七十億くらい存在し、人類の支配する世界だった。そんな世界には少し変わったものがあった。それは炎を刃の部分から噴き出す剣であったり、小さな傷を癒す能力を秘めた装飾された宝玉であったり、遠方を映し出すような銅鏡などだ。それらのことを、人は秘宝と呼んでいた。
そんな秘宝は世界中にあり、時々遺跡や古墳のような場所から発掘されることがあった。それらは過去の遺物だったが、時々、特殊な素材を使ったため秘宝のように特殊な力を発揮するような物が作られることもあった。この世界で見られた秘宝はかつてはそんな風に人類にとっては少し変わった力を秘めた珍しいアイテムだった。しかし、ある日を境にその秘宝の内容が一変する。
上を通った人間を巻き込み上空に跳ね上がるマンホールの蓋、切ったものを瞬時に腐らせる包丁、太陽の光を何十倍にして跳ね返す鏡、なぜか爆発を起こす縫いぐるみ。今までのような過去の遺物や、何らかの力を持った素材から作られる秘宝などとは違い、量産品の他と変わらないようなものが突如特殊な力を持った秘宝に変化した。それは今までのようなちょっとした力などではなく、下手をすれば人類にとって大きな危険になりうる力を秘めたものも多く存在した。
そして、その変化、秘宝として生まれるのは今までのように物だけではなかった。生物の秘宝化、極端に言えば化け物になった生物が数多く出現した。かつての怪獣映画のように巨大化したものから、人間に匹敵する、もしくはそれ以上の知能を得た生物、ファンタジーに存在するような炎を纏った生き物、様々だ。それらの出現は人間にとっての脅威だった。それらが世界中のいたるところで出現したのだ。
それらに対して人類は大きく抵抗した。しかし、すべての秘宝生物に人類の力が通用するわけではなかった。銃器、ミサイル、爆弾。様々なものを使い、戦い、国によっては核まで持ち出すこともあった。それらの奮闘の結果、人類は自分たちの生存圏の七割程守ることができた。三割は秘宝生物が支配したり、荒廃して住めるような状況ではなくなった土地だ。一度はそれで落ち着いた。だが、人類は気付くべきだった。生物が秘宝化するということは、その秘宝化が人類にも起こり得るということに。
ある日、特殊な能力を持った人間が現れた。一人二人ではなく、何十人もだ。それらは秘宝化した人間だ。今は秘法を得たと称されているが、そうなった人間に対し、人類のとった対応は国によってさまざまだった。排斥したり、取り込もうとしたり、時には殺してしまったり。そんな中、何人かの秘法を得た人間が自分たちが支配者となるべきだと考え、国々と戦いを始めた。もちろん、数の上で国のほうが優勢だったが、その内輪揉めが原因であることが起きた。しぶとく生きていた、新しく生まれたが隠れていた、人間以上の知能を持つ秘宝生物がその争いの隙をつき、人類に攻撃を仕掛けた。結局それらがきっかけで人類の生存圏はさらに二割を失ったという。今人類の数はかつての十分の一程、生存圏は半分以下だ。
そういった苦い経験を辿り、秘宝に対処するよう、秘法を持つ人間も含め各国で協力し合うことで話が纏まった。どんなことがあったかは知らないが、また同じようなことを繰り返さないよう、どちらも協力的に話が進んだらしい。そして、秘法を持つ人間をまとめ、秘宝に対しての対処を行う組織を作り上げた。今もまだ秘法を得る人間や、新しい秘宝が生まれている。その中には人類にとって多大な危険性を持つものも珍しくない。そういったものを回収したり対処したりするのがその組織の役目だ。
そして、俺が所属している、リーダーをやっているのはその組織の回収・破壊を行う部隊だ。




