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E

「お前に頼まれた通り、あの鱗を送ったぞ」

「ありがとう、ディレル」


 ディレルに運んでもらった巨大王種の鱗は、王種解放戦線の人員と合流した後、アジクの住んでいる場所までアジクの書いた手紙と一緒に送られた。


「しかし、送る必要はあったのか? お前はあれで武器を作ると言っていたが……」


 そもそも、ディレルにはどうやってあの鱗を使い武器を作るかがわからない。数多くの王種の攻撃で碌に傷をつけられない鱗を簡単に加工できるはずもないからだ。


「ああ。そもそも俺が作るわけじゃないし。ディレルもあっていたはずだけど」

「……あの時座っていた男か」


 ゴウトのことである。普段からアジクの使っている、今回の巨大王種相手にも使っていた剣、その武器を作ったのもゴウトだ。


「しかし、あの鱗を加工できるものか?」

「普通にやったら無理だけど、王種だからな」

「…………なるほど」


 ゴウトの能力で加工が難しいものでも加工を可能にすることができる。その能力を用いて武器を作り上げる。


「……しかし、向こうで武器を作ってどうする?」

「……向こうから運んできてもらうしかないなぁ」


 連絡のできる能力を持つ王種はいるが、物を運べるような王種はアジクの記憶にある限りはいない。つまり、武器を作ってもその武器の運搬は人力になる。武器はすぐに作られたが、それが届くまでの運搬のほうに時間がかかることになった。







「…………本当にこれでいいのか?」

「ああ。ちゃんと注文通りだな」


 運搬されてきた、巨大王種の鱗で作られた武器は明らかに巨大な武器だ。それはアジクの背丈よりも大きい。


「…………重い。持てるけど重い」


 もともとの鱗の重量からそこまで大きく減っておらず、持ちやすさもあり持つことは出来るが、まともに振るうことは難しいと考えられるほどの重量だ。


「……それでどうやってあの巨大王種を倒す? まともに振ることもできないだろう」

「別に、これをもって切り付けて倒すなんてわけじゃないよ。いくらなんでも無理があるって」

「ならどうやって倒す?」


 アジクの言葉によりディレルの疑念は高まる。武器を作らせたのにそれを使って倒すわけではない、とアジクは言っているように思えたからだ。


「……実は、ディレルの力も借りたい」

「それは構わないが……何をするつもりだ?」

「まず、俺をあの巨大王種の頭の上まで飛ばす、そのあと、落下し始めるのと同時にあの、空から地面に押し付けるような風を使って落下速度を速めてほしい。あとは俺が何とかする」

「……落下速度を利用した一撃で脳天から一突きにする、ということか」


 アジクの説明を聞き、一応ディレルは理解する。しかし、それならばアジクに剣を持たせて飛ばす必要はない。ディレルだけでも、空に持ち上げ、剣を下に向け、そのまま風の力でたたきつけるのは不可能じゃない。


「別にお前を飛ばす必要はないのではないか?」

「……確実に刺さるとは限らないし、刺さっても致命傷に届かないかもしれない。確実に、この剣を置くまで突き込みたい。それには俺の能力を使った方がいい」

「……お前がそれでいいというのならいいが」

「頼む」


 簡潔だが、意思のこもった返事を聞き、ディレルはアジクの言った方法で巨大王種に攻撃することを引き受けた。








「本当にいいんだな?」

「ああ」


 巨大王種が見える森の中、アジクとディレルが最後の確認をする。


「では……」


 ディレルが巨大王種を押さえるほどの風を先に準備する。風が溜まり、準備ができると次にアジクを飛ばすための風を作る。


「行くぞ!」


 ディレルがアジクに向けて言い、風でアジクを空へと飛ばす。途中で巨大王種に気づかれないよう、巨大王種の目に留まらないようにその頭の直上、相当な高さの位置まで巨大王種の鱗から作った剣を持ったアジクを飛ばした。


「…………怖いなあ」


 高い位置まで飛ばされ、アジクはそう呟く。単純に高いから怖い、というだけではない。これからアジクは風により竜の頭に高速でたたきつけられることになる。例え剣を刺すことである程度緩和されると言っても、あの巨大王種を地面に伏せさせるほどの強さだ。風で押されることでの落下速度はとんでもないだろう。そのうえ、アジクは自身の能力を用いて、相対的に速度が目に見えないほど、超速度にするつもりである。つまり、その状態で地面、竜の頭かもしれないが、物にたたきつけられるということだ。


「……ま、一度死んだことがあるんだしな」


 覚悟をしている様子を見せるアジク。そして、そのアジクを風が地面に向けて吹き、竜の頭にたたきつけようとする。そして、ある程度速度が出たところで時間の加速を行う。アジクの速度そのものが上がるわけではないが、アジクの時間の状態が通常よりも速くなる。周囲の速度は遅くなり、相対的にアジクの速度が上昇した状態となる。その速度であれば、巨大王種自身の鱗から作り出した剣は容易くその頭を貫くだろう。

 自分が、自分の持っている剣が、竜の頭を貫き、根元まで貫通するのを、アジクはその目で見た。これでさすがに竜の脳まで届かない、ということはないだろう。あとはその速度で竜に自分が叩きつけられる、それを待つだけだ。


「はあ、やっぱり無理だよな」


 最後が来るのがわかる。竜の頭にたたきつけられる、その時が来るのがアジクには見える。走馬灯のように、今までの記憶がアジクの頭に思い浮かぶ。自分が死ぬ前の事、こちらに転生してきたときの事、王種として活動をしていたときの事、最近戦った時に思い出した、さらに前の自分のこと。すっ、とその時頭に何かが降りてきたようにアジクは感じた。時間の加速の状態が元に戻る。そのまま竜の頭に体が叩きつけられ、アジクの意識は消失した。








「………………ここは」


 アジクが目覚める。自分は死んだものだ、と考えていたアジクはまた転生でもしたのか、と考えているようだ。しかし、自分はベッドに寝かされているようで、周囲はどこかで見たような場所だ。自分の住んでいる場所、そこにある怪我人を寝かせるための場所だ。あれ、と頭に疑問符が浮かんでいる状態でいるところに、扉が開き人が来る。


「アジク!?」


 声がした方向を向くと、そこにいたのはエリシェだ。アジクが起きていることを見たエリシェは傍まで駆け寄ってくる。


「大丈夫!? 何か意識が変とか、体がうまく動かせないとか異常はない!?」

「……ああ、ないよ。ところで、何で俺はここに?」


 あの時自分は死んだものだと、アジクは思っていた。だが、自分の様子を見るに理由は不明だがまだ生きているようだ。


「ディレルが運んできたのよ。あ、ケティを呼ばないと!」


 そのままどたどたと走って部屋を出ていく。扉も開けたままで慌ただしい。


「……なんで無事だったんだろう。いや、怪我はしていたのかな」


 自室のベッドではなく、怪我人を寝かせる部屋にいたということは何らかの異常があったのは確かだろう、とアジクは考える。そして、なぜ自分が無事だったのか、あの時竜の頭に剣を刺した後のことをアジクは思い出す。その時、自分に少し変なことが起きたように感じたことを思い出す。


「時間の加速が解けた、でもあれでも加速時の影響は残るはず……」


 加速状態で投げた武器が時間の加速から外れ、ある程度速度は元に戻るものの、加速状態の影響による速度の増加の影響はゼロになるわけではない。


「やっぱり、あの時のあれかなあ」


 何かが降りてきたような感覚。あの時、思い出していたのはあの天剣の回避をした時の事。その時、自分の前世、その前の前々世を思い出したこと。その時だった。以前アジクのしていた推論、前世の記憶、それらが王種の持つ能力に影響を与えるということ。もしかしたら、それがあの時に何らかの影響をアジクに与えたのかもしれない。


「……ま、推測は推測だけどな」


 今は生き残ることができたこと、それを喜ぼう、とアジクは思う。ただ、この後巨大王種のことでいろいろと大変なことに巻き込まれることになるとを今のアジクは知らなかったが。


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