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「やっぱり上級でもダメか」
巨大王種に対して何度か上級王種の攻撃が行われたが、巨大王種に対してはまるで通用しなかった。
まず最初に攻撃を仕掛けたのは振動の能力を持つ上級の王種だ。物を振動させることのできる能力者で、主に地面を揺らし相手を行動不能にし、そこを攻撃する能力者だ。しかし、相手のサイズがサイズである。少し地面を揺らした程度では動きの阻害すら碌にできていない。直接触れて振動させもしたが、大した意味がない。それどころか、巨大王種が揺れたせいで周囲に被害が出た。
次に、水を作り、撃ちだせる能力を持つ王種が攻撃をした。結構な勢いのある鉄砲水を撃ちだしたが、少し押した程度でダメージはない。真正面からもやってみたが、一時的に目に水が入ったことで視界をふさいだ程度で、ある程度の時間で回復されてしまった。むしろ目が痛いと暴れたことで周囲に出た被害が大きいくらいだ。
他にも何人かの王種が攻撃を仕掛けたが、結局ある程度の行動阻害になっても、多少傷をつけられる程度で大きなダメージにはなっていない。実際に巨大王種を相手に戦ってみてなぜ過去に上級十人で挑んでも勝てなかったことがはっきりわかる結果だった。その理由は単純明快だ。相手が大きすぎる、その一点に尽きる。
上級王種でも、その能力による攻撃は基本的に人サイズが基準だ。通常の王種はどれだけ大きくても十メートルくらいがせいぜいだ。そのサイズであれば通る攻撃でも、その十倍以上の相手にはそうそう通らない状況になる。
アジクも攻撃してみたが、鱗に傷をつける程度のレベルだった。目辺りであれば傷つけられるだろうが、それはアジクでなくても可能なレベルではあるだろう。そもそも、アジクが頭まで上るほうが難しいのだが。
しかし、相手にダメージを与えるのは無理だったが、それぞれの王種の攻撃は相手を引き付ける程度には影響を与えられていた。そのため、王種の移動方向の誘導のために各王種が能力を使うことが決まった。アジクはそれぞれの行動の把握や巨大王種の監視などを行うよう言われた。
「埒が明かないよなあ……」
仕事内容自体には文句はないが、結局のところ巨大王種に対しての対応策がない。その状態でずっと活動し続けるのは精神的にもつらい。本日も能力での誘導が行われ、その監視、追跡を行っている。
「そもそも、いつまで続けられるか……」
巨大王種は時々地面ごと周囲にあるものを丸ごと食べるという豪快な食事を行っている。周囲の被害が甚大ではあるが、最大の問題はそこではない。巨大王種の餌となるものが周囲になくなる、ということが問題だ。このままいけば、誘導先に餌がなくなるため、食事を目的とする移動が行われ、誘導できなくなるのは目に見えている。
その日も追跡するだけになるとアジクは考えていたが、そうはならなかった。
「能力による攻撃!?」
多くの王種による巨大王種への攻撃が始まった。少なくともアジクの聞いている限りでは王種の攻撃が行われることは伝えられていない。
炎でできた鳥、氷の槍、半透明な狼、以前の攻撃では見られなかったものばかりだ。
「……国の集めた王種じゃないのか?」
明らかに国側が行っている攻撃とは様子が違う。アジクはその理由、対象を考え、飛ばされて巨大王種に襲い掛かる幾らかの獣の姿を見てその相手を思い出す。
「……王種解放戦線」
風の能力を持つディレル、空を飛んでいる獣はディレルの持つ風の能力により飛ばされているのではないかと推測を立てた。そして、見たことのない能力を持つ王種が集まっているのも、今攻撃を仕掛けているのが王種解放戦線の人員だから、とアジクは考えた。
「ひとまず会ってみるか」
あの攻撃を行われている場所に王種解放戦線の人員、そして長であるディレルがいるだろう。効果のない攻撃を止めさせるためにも、一度合流するためアジクはその場所に向かった。
「アジク」
「……やっぱりあんた等か」
向かった先にはディレルがいた。
「ディレル、攻撃をやめさせろ」
「……攻撃が効かないからか?」
「そうだ。無駄に王種の能力を使っても意味はないだろ」
ディレルも現状攻撃が通用していないことは理解しているようだ。しかし、攻撃をやめる様子は見られない。
「……無意味だが、だからといってこのままにしておくわけにはな」
「……確かに討伐しないと問題だってのはわかるんだけどな」
王種解放戦線もこの巨大な王種を倒さなければ自分たちにも被害が来る。そのため、討伐するのは必要事項だ。しかし、現状ではどうしようもない状態だ。
「あんたの能力なら……いや、どれくらいかはわからないけど無理か」
「……上級の能力でも通用しないのか?」
「あんたがどれくらいの強さの攻撃ができるかはわからないけど、他の上級でも多少傷つける程度、だ」
「……そこまで強いのか。しかし、一度試してみよう」
アジクの話を聞き、ディレルはどの程度自分の能力が通用するかを試してみることにするようだ。その場にいるほかの王種解放戦線の人員に連絡し、攻撃をやめさせる。
「行くぞ!」
木をへし折るような暴風が巨大王種に対して放たれる。しかし、特に変化はなく、まるでダメージがあるようには見えない。
「やっぱりだめだな」
「まだだ! これが通じるか試してみよう!」
そうして溜めを作るディレル。しかし、周囲に風が集まる様子が見えない。何をしているのかアジクが尋ねようとしたが、その前に異変に気付く。吸い上げられるように風が上空に向かっていく。
「うわ……」
アジクが上空を見ると、そこに渦巻く風が存在しているのが分かる。本来目に見えないはずの風だが、それが目に見えるくらいの異常な状態になっている。そして、ディレルが溜めたものを放つように、腕を下に振り下ろす。ごうっ、と上空に溜められていた風が巨大王種を地面に押し付ける。それはまるで過去にあった地に伏せさせたことの再現のように見えた。しかし、ある程度で止まってしまう。溜めていた風が尽きたためだ。
「くっ……だめか」
ディレルは脂汗を書くほど力を行使したようだ。少し息が荒い。
「凄い風だったけど……やはりだめか」
「そうみたいだな……」
アジクはディレルと話しているが、巨大王種の異変に気付く。動きが止まり、周囲を顔を動かして確認している。何か探しているようだ。
「…………ディレル、全員避難させろ」
「何?」
「気づかれるぞ!」
巨大王種と目が合う。恐らくだが、相手はこちらのことを認識した。あの風を起こしたかどうかはわからないだろうが、その可能性のある相手ではあることを認識しているはずだ。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
空気が振動するように、巨大王種が吠えた。
「早くしろ!」
「わかった!」
ディレルが風を用いて他の人員に対して避難を連絡する。こちらはその行き先と被らないよう、巨大王種を誘導するように逃走を開始した。




