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「はあ……はあ……」


 山すら切り裂くとんでもない攻撃を全力の時間加速により、アジクは避けた。しかし、その代償として、体にかかった負荷は大きく、少しの距離の移動であったが樹に寄りかかりまともに立つことができないほどの状態だった。


「むう……雲絶ちを放ったつもりだったのだが……やはり天剣になってしまうな」


 男の独り言が聞こえる。


「……ほう。よくぞ躱したな」


 樹に寄りかかっているアジクの姿を見て男は楽しそうな声で言った。


「しかし、満身創痍か。だが、先に言った通り、天剣がお主に対する最後の攻撃だ。これ以上の追撃はやらぬので安心せよ」


 男はこれ以上攻撃を行うつもりはないようで、刀を鞘にしまう。


「はあ…………はあ…………?」


 まだ少し疲れが残っているアジク。しかし、樹に寄りかかっていたからか、地面からの僅かな振動に気づく。


「……む?」


 男の方も、地面からの振動に気づいたようだ。その振動は徐々に大きくなっていく。


「何だ…………?」


 振動はどんどん大きくなる。いや、大きくなるというよりは、その振動が起きる源、発信源が変わっている。その発信源は離れたところではあるが、どんどん地上に向かっているようにアジクと男は感じていた。


「……いったい何が? 地震…………じゃないよな?」


 ようやくまともにしゃべれるようになったアジクが独り言をつぶやく。その様子を確認した男が寄ってくる。


「この揺れの原因、お主にはわかるか?」

「わかるわけないだろ……でも、すぐそこに…!?」


 振動の発信源、それはすでに地上近くに存在していた。地面が盛り上がる。山の麓、アジクと男からは遠い位置だったが、一目瞭然だ。その盛り上がりが異常だった。範囲の大きさ、揺れの大きさも異常だが、何よりも異常なのは、今間もまだ地面が盛り上がり続けている点だ。盛り上がったった地面、その下に地面でない何かが存在しているのが確認できる。そして、盛り上がった地面から数十メートル程の高さにまで盛り上がり、その下にある存在からずれて地面に落下した。


「…………………」

「…………………」


 男もアジクも無言だった。その地面の盛り上がりを起こした生物は明らかに異常な存在だったからだ。


「ゴオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 びりびり、と空気が震えるほどの巨大な鳴き声が周囲に響く。男とアジクはその鳴き声に耳を塞がざるを得ないほどだ。その鳴き声を合図に、山がざわざわと鳴動し、無数の虫、鳥、動物が周囲から逃げ出す様子が、見えた。


「…………まさか」


 アジクは一つの予想に思い当たった。目の前にいる、巨大な存在。確実に王種だが、それだけではない。あの巨大さは明らかに王級の王種だ。そして、かつて伝説にあった山に見紛うほどの巨体を持つ王種。伝説の王種が目の前にいる存在だと。かつての伝説の王種は山と見紛うほどの大きさだったと言われているが、今目の前にいるのは山と見間違えるほどではない。恐らく誇張ではあるだろうが、それでも目の前にいる王種は全長百数十メートルはあるだろう。高さも十メートルは確実に超えている。見た目だけで言えば、竜にも見えるが、おそらく蜥蜴の王種であるとアジクは推測した。


「とりあえず、退くか。悪いが、運ばせてもらうぞ」

「え、ちょっと待て!?」


 男にアジクが担がれる。アジクの今の状況ではこの場から逃げるのは難しいのは事実だが、頼んでもいないのに勝手に持ち上げて運ばれるのは流石に嫌だったようだ。しかし、逃げるのが難しいのと同様に抵抗も難しく、おとなしく運ばれるしかなかった。







「王級の王種の復活……?」


 あの後、アジクを近くの村まで運び、男は去った。アジクは回復後、村に避難するように言って、自分の住む場所まで帰還した。村に避難するように言ったが、巨大な王級の王種を確認したのはアジクと、その時戦っていた男だけだ。到底信じてもらえるような話ではない。


「……アジク、それは本当なのかしら?」

「わざわざ嘘をつく理由はないだろ」


 ケティがアジクに本当であるかを尋ねる。別にアジクを信用していないわけではないが、ケティとしてもその話をまともに受け止めるには荒唐無稽な内容の話だ。


「……まず、王種の人員を使って遠視で確かめないと。現地への派遣人員も送ってもらうとして、避難誘導も……やることが多いわね」


 最初にアジクの言葉が真実であるかどうか、本当にその王種の存在が確認できるかどうかを調べる必要がある、とケティは動き始める。もし真実であれば、さらにやることが増えるので、色々と急いでやる必要があるため、必至だ。


「メティエを呼んでくる。急ぎだろ」

「お願いね。あの子を部屋から出すのは大変でしょうけど」


 アジクのほうを見ずに返事をするケティ。情報を伝えに来たのは自分であるが、忙しくなりそうだとケティの反応を見て思うアジク。そのままメティエを部屋から連れ出しに向かった。







 その後、遠視能力を持つ王種により、巨大な王種の存在が確認された。そしてその情報が国側に伝わり、各所で阿鼻叫喚な状態になっていた。伝説に伝わる王種の復活、たとえ大きさは伝説ほどのものでなくても、その脅威度合は明らかに伝説に合った通りのものであることは間違いないだろう。そんな王種が存在するとわかれば当然そうなる。その王種の脅威を排除するための人員集め、排除するまでに起こる被害の算出、その地域の国民の避難、その王種の排除後に必要な補填の内容など、必要事項が多すぎる。そして、かつての伝説では上級の王種が十人いても敵わなかった、と言われているほどだ。伝説では王級の王種で倒した、封印した、と言われているが、今この国にいる王級はアジクだけだ。しかもその能力は相手に作用するものではなく、自分の時間の加速だ。王級の基準も当時のものより下がっているため、同じレベルの強さと言えるわけでもないのだ。


「……こりゃやばいなぁ」


 アジクは自身が王級であるため、あの王種に対しての最大の攻撃手段として見られる可能性があるのは想定していた。しかし、アジクの能力は時間の加速で、その能力であの巨大な相手に痛打を与えられるとは思っていなかった。


「……あの男くらいの強さがあればなぁ」


 アジクと戦った、剣技を特殊能力としてもつ王級の王種。あれくらいの強さがあれば、まだ戦えなくもなかっただろう。


「そもそもあの時のあれが原因だったんだろうな」


 あの天剣と言っていたあの剣技、あれで山を切り裂くほどの一撃を放ったことがあの王種を起こす事になった原因ではないか、とアジクは思っている。だが、以前から王種が山から下りてきていたことを考えると、前からあの王種が封印された状態から起きる兆候はあったともアジクは思っていた。


「…………はあ」


 だが、それが分かったところでどうしようもない。どうすればあの王種を倒すことができるのか。今アジクの思考はそれでいっぱいだった。


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