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以前の戦いから一ヶ月。しっかりと相手と連絡を取り、再戦の日取りを決めた。
前回負けたのは私の得意とする戦い方ではないからだ。だから今度は私の本分であるダブルスで戦わせてもらう。
そもそも戦わせた亀型は支援要素の強い耐久型のドールだ。本来は直接戦闘するような戦い方をするものじゃない。
相手はダブルスをしたことがない、とのことで私が負けることは恐らくない。こちらのほうが経験は上だ。
最も、それでも私が負ける可能性がないわけではない。もし負ければ本当の強者として相手を認めるほかない。
「準備はできたわね」
すでに戦闘エリアには2体のドールが控えている。1体は以前戦った亀型のドール、もう1体は豹型のドールだ。
亀型をだすのは一種のハンデだ。相手のドールは1体は以前戦った人型のドールだと思う。
その手の内は全部ではないとはいえ判明しているのだからこちらも同条件で挑むべきだ。
こちらの有利な条件で思いっきり戦わせてもらうのだからそれくらいはしておかないと。
「……来た」
メッセージが返ってきたときは実は嬉しかった。いつも負けた場合メッセージを送るのだけど、返してくれる例はほとんどない。
返してきてもほぼお断りのメッセージだ。今回のように受けてくれたことは1回しかなかった。
だから向こうの買ったドールの代金はこちらが払う、というのはきちんとする。
「以前戦った人型と……蛇型かしら」
1体は以前亀型のドールと戦った人型のドール、もう1体は細い蛇型のドールだ。
「太さがない…蛇型は大蛇系が一般的だけど」
蛇型はそこそこの長さを持っているが、太さが全然ないタイプだ。蛇型は太さがその攻防力に影響する。
太くないということは防御方面は回避するタイプかもしれない。直接攻撃するタイプとは考えづらいから攻撃は魔法型かも?
「考えても仕方ないわね。フォートは蛇型の相手を、ネイルは人型の相手をしなさい」
先に戦う相手を命令する。獣型は人型とは違い自分で決断や判断を下すことは少ない。
本能に従った動きはしてくれるけど、基本的に命令がなければ不利な相手、有利な相手を知性的に判断しない。
だからこうして明確に戦う相手を指定しておく。大雑把になるけど、その都度必要なことはこちらが命令する。
「人型は自分で判断してくれるらしいけど、使い勝手はどうなのかしら?」
この戦いが終わればメッセージを送って聞いてみるのもありかもしれない。
ダブルスでも人型はあまり見ない。使い勝手がよくないと悪い噂が広まったせいで使い手が少ないらしい。
実際はそこまで面倒ではないらしいけど、悪い噂はよく広まる。そういった印象を多くのプレイヤーが持ったから仕方ない。
ただ以前人型2体でダブルスをしてきた相手はいた。コンビネーションでうまく戦ってきてかなり苦戦した覚えがある。
一応勝ったけれど、獣型と人型の素の能力差があったからこそのギリギリの戦いだった。
あの時から人型が弱いなんてかけらも思ったことはない。育てるのが面倒なのは事実だろうけど。
「そろそろ合図ね……」
今日は勝つ。得意な戦い方であるダブルスで負けてたまるもんですか。
戦闘開始の合図が鳴る。同時にこちらのドールがそれぞれ指示した相手に向かう。
まず機動力を持つ豹型のドールが向こうの人型に迫る。そのまま攻撃を仕掛けようとするが、しっかりと防がれる。
亀型は動作が遅い。蛇型のドールに向かっているが、相手のほうが行動が早い。
蛇型のドールは人型のドールの支援に向かおうとしているらしい。
「フォートは蛇型に魔法を打って足止めして! ネイル、蛇型が近くによって来るかもしれないから来たら一旦退きなさい!」
流石に同時に2体を相手にするのは無理だ。上手く誘って1対1の場面を作り出さないといけない。
亀型の攻撃は蛇型に当たらない。回避されるのは仕方がない。蛇型はそこそこの機動力はあるみたい。
蛇型が人型のドールの近くまでくる。それを視界にとらえたのか、命令通りに豹型が後ろに退く。
「ネイルを追ってこない?」
蛇型も人型も退いた豹型に攻撃を仕掛けてこない。蛇型の狙いは豹型だと思ったが、特に追ってくる様子は見せない。
そのまま蛇型は人型に跳びかかった。
「なっ!?」
流石にその光景に驚いた。ドールが自分の味方のドールに襲い掛かるなんて話は今まで聞いたことがない。
そのまま蛇型は人型のドールに巻き付いた。巻き付いただけだった。
攻撃ではない。ただ巻き付いただけ。
「巻き付いただけ? 何を……」
意味が分からない。味方のドールに蛇型のドールが巻き付くのはどういう意味があるのか。
その意味はすぐに分かった。人型がそのまま豹型に攻撃を仕掛けてきたのだ。
その体に巻き付いた蛇型のドールを伴って。
「!? 巻き付いたまま……! そういうこと!」
つまり蛇型はこちらの支援型の亀型と似たような役割ということだ。違いはよりもう一方に密接かどうか。
「フォート! ネイルと一緒に人型と戦いなさい! 急いで!」
豹型が人型と戦い始める。体に巻き付いた蛇型も人型の攻撃に合わせ魔法攻撃をしたりしっぽの先や頭での攻撃を仕掛けている。
残念ながら豹型の機動力は相手が攻撃タイミングをうまく合わせているせいでうまく機能しない。
現状2対1の状況だ。確実にこちらの豹型の戦闘状況は不利だ。
亀型の支援攻撃は一方を抑えた上で豹型の戦いを有利にさせるためのもので、高い攻撃能力があるわけじゃない。
「命令が遅れたからね」
先ほど豹型に人型が蛇型を伴って攻撃してくる時、豹型を亀型の近くまで退かせることができれば2対2の状況にはできただろう。
自分の味方のドールに攻撃を仕掛けたように見えた、今までなかった特殊な行動のせいで驚いたことが命令の遅れにつながってしまった。
そのせいで豹型は不利に陥ってしまった。亀型に向かわせているがそれまでに倒されなくてもダメージは馬鹿にならない。
「2体で1つか……考えてみるべきね」
これからのダブルスの戦い方の一つとして頭の隅に置く。今はこの戦いに集中するべきだ。
結局亀型が参入して2対2の形にはなったが、それまでに豹型にダメージが蓄積し、倒れてしまった。
そのため2対1の形になってしまい、そもそも支援型であり以前人型のほうにやられてしまった亀型ではどうしようもなかった。
メッセージで人型の使い勝手、ドールの購入資金の支払いなど諸々を話し合うために連絡先を聞いた。
かなり渋々だったが教えてもらった。これからもいろいろとつきあってもらおう。