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ある豪華で広い部屋でその話し合いは行われていた。
「王種解放戦線が仲間割れか……面白い話もあるものだ」
「住まわせてもらっていた村を追い出された、という話も聞いておりますな」
「詳しくは不明ですが、何者かが彼らを追い出したとか?」
彼らの会話の内容は隣の国で起こった王種解放戦線のことについての話だ。彼らの住む国では、王種解放戦線の影響は少ない。王種解放戦線は隣の国で主に活動している状況だ。しかし、その活動内容や思想などは彼等にとっては危険視するような内容だ。そのため、彼らは王種解放戦線にその情報を得るためにスパイを放っていた。彼らがしている会話はそのスパイからもたらされた情報だ。
「確か……動きの速い少年、だったかな?」
「能力は不明……せっかく送り込んだのに役に立たぬ」
会話の内容は王種解放戦線のごたごたの話から、結果的に彼らを追い出すことになった人物についての話に移っていた。そう、アジクについての話である。彼らの話している内容はあくまで今回の件でアジクが戦っていたというくらいしか情報はない。
「別のところに送っていた者からの話では、国所属の王種、それも上位……最上位付近に位置するのだとか」
「ほう。まさか王級か?」
「彼の国にも王級がいたとは。そのあたりの情報は中々掴めぬのよな」
彼らはアジク、王級の王種という点で話が盛り上がる。王級の王種はその指定基準もあり、かなり珍しい。
「王級がいるとなると、厄介だな」
「もう少し何かわかっていればよかったのですが」
「今回動いたということはわかっているが、能力は不明ですしな」
自分たちの国ではない、別の国が王級の王種を持っているというのはかなり面倒なことだ。王種は場合によっては戦争に出されることもある。そのなかで王級は強さ的に一番問題視すべき相手だ。
「……強さを確認する必要があるな」
「それではあれを送るのですかな?」
「それがいいでしょう。王級には王級を」
「ふむ。最悪殺してしまっても構わぬ、とも言っておくか」
その会話でアジクに対して刺客が送り込まれることが決定した。その後も彼らはしばらく話し続けていた。
「何で減らないんだ」
本来そこまで頻繁に来るはずのない王種討伐の依頼がまた数が溜まってきたため、その依頼がいくつもアジクに回ってきた。
「……むしろ増えてるんだよな、本当に何が理由だ?」
かつて炎の王種が現れた時も依頼が増えていたが、それとはまた別の理由であるはずだ。しかし、いくら考えてもアジクにはその理由がわからない。考えても仕方ないので、いつも通り王種の討伐に向かう。
討伐先の森の中。山に近い場所、そこで討伐を頼まれた王種が死んでいた。
「……誰が?」
以前のように王種解放戦線か、とも思ったが、彼らの場合は村でその情報を得ていてもおかしくない。いや、それ以前に死体をそのままにはしていかなかったはずだ。全員がそうであるかはわからないが、少なくとも情報くらいはあってもいい。
「……切り口は新しい。血は止まってるけど」
それは自分がここに来る少し前に殺されたということだ。
「……とりあえず、探すか」
誰が王種を討伐したかわからない、というのは気持ちが悪い。すぐに探そうとする。
「ふむ? 童か」
アジクがその場から離れようとした矢先に、森の中から人が現れる。現れた人物は和服の様相の男性だった。そして、その手には血のついた抜身の刀を持っている。
「……これはあんたが?」
「その通りよ。儂がそれを討った」
男性があっさりとアジクの質問に答える。どうやらこの王種を討伐したのは彼のようだ。
「ここに来る、ということは、お主が討伐に来た王種か?」
「そうだけど」
「王級の王種。そうであろう?」
「…………」
アジクは無言になる。相手の質問に何の意図があるのかわからなかったからだ。しかし、答えないということはそうであると言っているようなものだった。
「訳有って斬る。童相手は心苦しいが……」
「っ!」
そうアジクに言って男が斬りかかってきた。能力を使い、その攻撃を避ける。流石にいきなり斬りかかられる理由がわからなかったアジクだが、相手がこちらを殺す気で攻撃してきているのはわかった。アジクも剣を抜き、男に斬りかかる。時間の加速、それによりアジクは有利なはずだった。しかし、男が一歩踏み込むと、まるで時間の加速の影響から外れたかのように遅くなっていた速度が元に戻った。
「なっ!?」
驚きで一瞬動きが止まる。相手はその隙を見逃さずに攻撃してくる。
「くっ!」
ギリギリだが、回避した。しかし、相手も回避されることを考慮しており、そのまま次の攻撃が来る。何度かの攻撃で回避できずに幾つかの傷を受けるアジク。しかし、その攻撃の途中で動きが遅くなるタイミングがあり、そのタイミングで一気に男から離れる。
「どういうことだ……?」
アジクの能力が効かない。いや、そもそもアジクの能力は自分に作用する者であり、他者に影響を与えるものではない。つまり、相手は自分と同じ時間の加速を行っているのではないか、ということになる。
「時間の加速……いや、それなら最初から使っていてもおかしくないはず……」
遅くなった男がまた一歩踏み出し、遅くなっていた動きが元に戻る。まるで踏み込んだことで加速状態になるかのように。
「踏み込みで時間の加速に合わせた?」
アジクに相手の刀が迫る。その技量は明らかに相手が上で、今まで時間の加速で相手を倒してきたアジクは防ぐのが精いっぱいだ。今以上の時間加速で挑めば攻撃できる程度には戦えるはずだが、負荷を考えると乱用はできない。アジクはそう考え、もし先ほどと同じように時間の加速が解けるようなことがあれば、そのタイミングで攻撃を行えばいいと考えた。何度か斬られたが、防御に専念すればなんとか対処できた。そして、先ほどと同じように時間の加速が解かれるタイミングが来た。
「今だ!」
そのタイミングでアジクが男に攻撃を仕掛ける。男はその攻撃を見て回避を試みるが、完全にかわすことは出来ず、傷を負う。直ぐに相手が一歩踏み出し、また時間の加速の状態に入った。
何度か同じやり取りを繰り返し、お互いにある程度傷を負った状態になる。その状態になって男がアジクに話しかけてきた。
「なかなかやるではないか、童」
そう言って男が後ろに下がる。攻撃してくる様子はない。
「語らいを使用ではないか。その時間の加速を解くがいい」
「…………」
相手の意図が分からない。簡単にその話を受けてもいいのだろうか。
「儂も後ろに退いた。一歩で踏み込める間合いではあるが、お主にはその能力があろう?」
時間の加速の能力についても相手は理解している。同じようなことができるのだから当たり前だろう。
「一時休戦よ。話をしようではないか、童」
そのまま少しして相手の動きが遅くなる。相手は加速の状態ではなくなった。一歩踏み込む様子はない。アジクはその様子を見て、とりあえず話をしようという言葉を受け入れ、能力を解除する。
「聞き入れてくれたか」
「……話ってなんだよ?」
アジクの言葉に笑みで返す男。
「いろいろだ。お主も聞きたいことくらいあろう?」




