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混乱した様子のエリシェは連絡要員のフェリルに任せることになった。流石にこの状態のエリシェを一人にするのはいろいろと危険であったためだ。ディレルとアジクの二人は村に向かう。ディレルたちとアジクの出会った場所は村からそう遠い場所ではなく、一時間ほどで村に到着した。
「おお、お待ちしておりましたぞ」
訪れたアジクとディレルを村長らしき人物が歓迎する。
「ディレル殿ですな?」
「ああ、そうだ」
「お隣におられるのは……」
「アジクだ」
「アジク殿、ですな」
村長の様子は客人を快く迎える家人のような態度だ。それは閉鎖的な村に住む人間とは思えない態度だ。
「ディレル殿、あなた方の住む場所は整えております。今案内するのでついてきてくだされ」
村長がディレルを案内しようとするが、ディレルがそれを止める。
「いや、いい。それよりもマルス……副長がどこにいるか知らないか?」
「マルス殿ですか? 知っておりますが……」
「場所を教えてくれ。すぐに連絡したいことがある」
「ええ、ではマルス殿の下に案内しましょう」
そう言って村長はディレルを案内する。アジクもそれについていく。村長が案内したのは村の一角の一つの家だ。
「ここですじゃ」
「ああ、ありがとう」
ディレルとアジクは案内された家の中に入る。
「ディレルさん……と、アジクくん、でいいですか?」
「ああ、別にいい」
そこにマルスはいた。何やら机の上で色々と何かを書いていた。
「何か用ですか?」
「ああ。実はな」
ディレルがエリシェの様子の異常、アジクの話から聞いた村人の様子の異常。それらから自分たちの中に精神操作の特殊能力を持つものが洗脳を行っているのではないか、ということをマルスに話した。
「なるほど……確かにそういう可能性はありますね。今までの村でも、王種である私たちに対する反応としては珍しいものでしたし」
マルスが過去に訪れた村でもこの村のように歓迎されていたことを思い出し、言った。
「洗脳能力を持つ王種を見つけ、その行為を止めなければならない。マルス、全員の招集はできるか?」
「……それは必要なことですか?」
「何?」
マルスの思わぬ言葉にディレルが驚いたような言葉を出した。
「私たちにっとて得になるのであれば、むしろ止める必要はないでしょう」
「……お前は本気でそれを言ってるのか?」
「はい。私たちは王種なのですよ? 王種は普通の人間に目の敵にされ、攻撃の標的にされています。それを止め、協力的にできるのであれば私たちも行動がしやすい。むしろ積極的に使っていくべきなのでは?」
「……わるいが、そうは思わないな」
「言わせてもらうが、仲間に対しても洗脳している様子だったが? そもそも王種解放戦線に賛同していない可能性のあるエリシェを取り込めたのも洗脳によるものだった可能性がある。それでも積極的に使っていくべきか?」
「…………そうですね」
アジクの指摘に考え始めるマルス。マルスは自分たちに都合がいいのであれば使えばいい、という考え方のようだ。
「しかし……洗脳能力をどうやって止めるつもりですか? 私たち王種の能力を封じる手段は存在しない。止めるには殺す以外の手段はないのでは?」
「む……」
マルスの言葉にディレルが困ったような表情をする。王種の能力は封じる手段がない。その特殊能力への対処手段がないのも王種の脅威の一つだ。
「それを今考える必要はないだろ。見つけてから考えればいい」
アジクはまずその能力を扱うものを見つけることを第一にすべきと発言した。まずその相手を特定しないとどうすることもできない。
「……しかし、どう見つける気です? 判別するために能力を使ってくれというわけにもいかないでしょう」
「……流石に全員の能力を把握しているわけではないしな」
能力を使用させて自分たちが洗脳される危険もある。どうやって判断するべきか、とディレルが悩む。
「エリシェに連絡を取ってくれ」
「……何故だ?」
いきなりエリシェについて言ってくるアジクに理由を聞くディレル。
「あいつの能力の都合上、だれがどんな能力を持っているのかわかるんだよ」
「ああ……そういえば彼女は中級の共有能力者でしたか」
アジクは過去、エリシェに自身が王種であることを暴かれている。それはエリシェの能力ゆえにだ。
「確かに彼女なら誰が認識を入れ替えたのかわかるでしょう」
「そうか。ならフェリルに連絡を取らないとな。マルス、連絡係に指示を頼む」
次の行動が決まり、ディレルがマルスに指示を出す。
「なあ、マルスさん」
「なんですか?」
「洗脳能力者、認識を入れ替える能力者なんだな」
アジクの言葉にマルスの動きが止まる。
「……いえ、そういう能力なのでは、と思っただけですよ」
「普通こういうのは精神操作だろ。認識を入れ替えるなんて変な能力で洗脳したとは思わないと思うが?」
「変な能力とはひどいですね」
「結構便利なんですよ?」
「っ!?」
突如、アジクの視界がひっくり返る。自分が逆さまになったわけではない。視界のみが上下逆転したのだ。
「マルス!!」
ディレルの叫びが聞こえる。そちらの方を向こうとしたが、うまくいかない。何とかディレルの方を向いたが、ディレルはうまく動けていない。なんらかの認識操作の影響を受けているようだ。
「まさかばれてしまうとは思いませんでした。しかし、やはり私よりも上位の王種にはうまく効きませんね」
マルスの声が聞こえる。
「まあ、ばれてしまっては仕方ありません。あなたたちはここで始末させていただきましょう」
ずっと今まで隠していた本性、それをマルスが見せた。




