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「王種解放戦線……ですか」


 アジクは王種の住む建物まで戻ってきていた。情報から行きついた村で出会った三人の男性から話を聞き、その内容についてケティとゴウトに話している。


「王種解放戦線……聞いたことがある」

「本当ですか、ゴウト」

「ああ。あんまり詳しいことは知らないがな。アジク、続けてくれ」


 ゴウトがアジクに話の続きを促す。

 今回の各村での依頼された自分たちでない人物による王種退治、それを行ったのは例の三人、および彼らの所属する組織、王種解放戦線であった。少なくとも、彼らの倒した王種に関しては討伐を行った村の場所を聞き、確認をとることができた。

 次に、なぜ彼らが王種を倒したか、ということについてだ。彼らもまた王種であり、自分たちにも害になる存在である動植物の王種は倒すべき相手なのだという。彼らは王種解放戦線という名前の通り、王種の解放を主張する存在だが、あくまでそれは人の王種に関してのようだ。

 そして、なぜ彼らが各村を巡っていたのか。これはアジクが聞き込みで聞いた情報の通り、彼らは人の王種を探している。そして、国に所属していない王種を引き込み、自分たちの戦力を増強しているのだ。無理やりの引き込みはしないが、粘り強く交渉しているらしい。


「なるほどな」

「…………王種の解放、とは?」

「王種は国の所属になって、こういった場所に隔離されているだろ? それはおかしい、っていうのが向こうの主張らしい」

「………………」

「………………」


 アジクの言った王種解放戦線の主張を聞き、二人は黙り込む。確かにその内容に思い当たる部分はある。


「まあ、俺らも勝手に何かやることはできないしな」

「それを束縛、とみることは出来ますね」


 王種は基本的に街の外に自由に行き来することは出来ないし、物の購入も必要なものは申請する形で購入することになる。基本的に理由なしでの無条件の却下などはないが、場合によっては理由を聞かれることもある。王種の退治を行っても別に給料が出るわけでもない。その討伐の成果分の代価は王種たちの使用できる予算として計上されているらしい。


「ですが…………解放というのは難しいでしょう」


 王種は恐れ怖がられる存在であり、下手に街や村にでてもいいことはない。以前の炎の王種のようなひどい事態になりえることだってあり得るのだ。そういったことになるくらいなら、不自由ではあるが、比較的安穏な生活のできるここでの暮らしのほうがいい、という王種も少なくないだろう。


「そうだな。いきなり普通の人間と生活しろってなっても困る」

「王種はコ……人付き合い苦手だからな」


 アジクも自覚はある。ケティ辺りは問題はないだろうが、ゴウトあたりは厳しいところがある。いつも郵便係を担当するメティエなどは完全に引きこもり、人見知り、口下手であったしてどうしようもなかったりもする。王種である自分たちにすらそうであるのに村や街に出るなんてことは死んでも無理だろう。


「…………とりえあず、彼らについては上の方に連絡しておきます」


 現状、自分たちで対処できるような内容でもない。ケティが国側に話し、そちらにどうするかを決めてもらうということを提案する。


「まあ、それしかないな」


 ゴウトが同意する。アジクも別に否定する必要はないので同意した。


「それじゃあ、連絡を……私が直で行ってきます」

「ケティが?」


 アジクが驚きの声を上げる。ケティがここから離れるのは珍しいことだ。


「夜の予定も少し空きがあるので。ついでに向こうといろいろ話すのもいいでしょう」


 基本的にここの顔役はケティだ。王種たちのまとめ役、国側とのやり取りなどは全部彼女の仕事だ。大変だが、むしろ彼女が進んでやっている。

 ケティはすぐに外に出る準備をし、街へと向かった。








 ケティが国側に王種解放戦線のことを伝え、そのことについての話し合いが現在行われているらしい。向こうでいろいろと話をし、その結果わかったことがあり、もともと国側は王種解放戦線のことを知っていたようだ。基本的に彼らの活動はいろんな場所までその範囲を広げており、現在結構な王種が所属している状態らしい。諜報のできる人員を送り込もうとしているようだが、それらは何故かわからないがばれてしまうようで、すぐに対処されている。

 国側の情報はアジクの聞いた話とは若干異なっており、彼らの目的は王種の解放というよりは王種の立場の向上であるという。王種は普通の人間より強く、本来は上位の立場にある存在である。むしろ普通の人々が自分たちに従うべきではないか、と主張していると国は言っていたようだ。


「……悪い噂も聞きました」

「悪い噂?」

「彼らは王種のいる村を襲い、普通の人々を殺しまわり王種を無理やり連れていく、という話です」


 流石にそれは誇張が過ぎるのでは、とアジクは思った。国の言う内容は基本的に相手を悪く言う内容だ。国側としてはそういう言い分になるのは一種仕方がないとも考えられる。自分たちの力として確保するはずの王種を持っていかれるのだ。そのうえ自分たちの確保している王種も解放するべきと主張している。王種は同じ王種と戦うためには必要な存在だ。それを奪われれば人は多くの犠牲を払うか、王種に従い倒してもらうほかない。そういう道になるのであれば、王種解放戦線を悪く言いそちらに行かないようにするのは当たり前だ。

 しかし、それが嘘かどうか実のところ分からない。国の言った通り、彼らが実際に非道を行っている可能性だってないわけではない。アジクの見た限りではそういった事態はなかったが、それがすべてであるとは限らない。少なくとも、どちらの内容も完全に鵜呑みににして考えるべきではない。


 ケティが聞いてきた内容を話し、色々とそのことについて語り合っていると、玄関から音がする。来客のようだ


「…………」

「…………」

「…………」


 三人が沈黙する。本来、ここに来客という存在はほぼありえない。王種の住む建物に客が訪れる、なんてことは基本ない。定期連絡や物の配送は指定された日であるし、文であればわざわざ客としてきたことを伝えることはない。例外があるとすれば国側からの緊急連絡だが、それならわざわざノックするようなこともないはずだ。突然のことで固まった三人だが、とりあえずケティが客の対応をすることにしたようだ。


「はい」


 そこに立っていたのは四人組、男女二人ずつのグループだった。


「国所属の王種の住む場所はここでいいか」

「…………そうですが。あなたたちは誰ですか?」


 ケティの言葉に一番前に立っていた男が答える。


「俺は王種解放戦線の長、ディレルだ。お前たちと話し合いがしたい」

「!!」


 その相手は今自分たちが話していた王種解放戦線、そのリーダーだった。


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