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三日ほどかかり、アジクは教えられた村にたどり着いた。とりあえず、村人に聞き込みを始めた。
話を聞いて回り内容をまとめると、王種のことを教えられてこの村に来た人物は三人ほどの男たちで、王種のいる家について聞いて回ったらしい。そしてその家がわかり、その家を尋ね、王種の子供を自分たちが預かりたいと申し出たらしい。しかし、そもそも王種だが自分の子供である。愛情をもって育てていた家族はその子供を預けるつもりはなかったので、もちろん断られる。しかし、その集団はまた来ると言って村を去ったらしい。
「どうするかな……」
今の所、王種を討伐したであろうその集団の最大の情報はそれだけだ。その集団は王種を探し、集めていると考えられる。最後に残した発言からまたこの村に来る可能性は高いが、いつ来るのか、本当に来るのかもわからない。人を送ってもらえればいいのだが、それまでに来れば意味がない。
「暫く村に残って、その間に連絡を取ってもらうか」
アジクが選んだ方針は、ひとまずこの村に監視のための人員を送ってほしいこと、まだ国の管理に入っていない王種が存在すること、おそらくではあるが王種の討伐をしていた人物たちが王種を集めていることなど、頼み事や分かったこと、推測などを紙に書き、街の王種の住む建物まで送ってもらうことにした。そして、自分の代わりに監視できる人員が来るまではアジクが村に残った。もちろん、王種を泊めるような家はないので、住む場所ではないが雨が入ってきたり、風が吹き込んだりなど寝るのには困らない場所で休むことにした。
しばらくアジクは村に滞在していたが、そんなある日虫の王種が近くに出た、という話が村にでた。国の所属である王種のアジクにその王種の討伐が頼まれる。
「どうか森に出た王種を退治してくださらんか?」
討伐は普段から行っている仕事なのでもちろん受ける。
「討伐の依頼の紙に内容を書いて下さい。証明も終わったら貰います。現場での討伐依頼なので、後で確認の人が来るので討伐した王種の死体は残してください」
王種の討伐は本来、そういう依頼が届いてから行うものだが、たまに出先の村で王種が現れ討伐を頼まれることもある。しかし、その討伐依頼が王種が村人を脅し作りあげる例も過去には存在していた。そういったこともあり、討伐した王種の死体を残すことで討伐の証明を行うことになっている。ただ、次はその王種の死体を村側が捨て、王種側のでっちあげだ、という言い分も出始めた。そのため、遺体の討伐の証明になるような部位の幾つかを回収し王種側も持っていくこととなっている。
「わかった。そのとおりにしよう」
「王種の出た場所は? 王種の元の虫の種類は?」
出た王種について尋ね、ある程度情報を得て森に向かった。
「ギイィィィィ!!」
森に虫の鳴き声が響く。それは明らかに大きい、普通ではない虫の鳴き声だ。その鳴き声がしたのをアジクは耳にする。
「既に何かと戦っているのか?」
虫の鳴き声だけではなく、木の枝を折るような音、草をかき分けるような音、金属が固いものにぶつかったような音、色々な音がする。それは鳴き声を上げた虫が現在戦闘中であることが推測できる。
アジクはその鳴き声の下に能力を使い加速しながら向かう。遅くなった音が上方からしたのを聞き、上の方を見上げる。先ほどから戦闘音が少なくなり、木の枝や葉っぱをかき分けるような音だけだった。いくらか傷を負っている大きなカミキリムシが木々の枝を渡っていた。
「上か!」
アジクはカミキリムシの王種に最も近い樹まで近づき、その木の幹を蹴り飛び上がる。樹々の下は枝により見えにくく、逃げに徹していたためかカミキリムシの王種は飛び上がってくるまでアジクに気づくことはなく、能力による加速もありアジクの攻撃にカミキリムシの王種はまったく対処できなかった。しかし、虫の体表は堅い。僅かに傷を負わせることはできたが、それだけだった。
「これだから虫は嫌いなんだ!」
アジクの能力により加速された攻撃でも堅い相手にはなかなか通じない。そのまま落下したアジクはカミキリムシの本体を狙うのではなく、一度地上に落としてから戦うことにした。負荷がかからない程度に時間を加速させ、今度はつかまっている木の枝を飛び上がり切り落とす。
「ギィイイィイイ!!」
木の枝のつながりが立たれ、重力に従い落下しカミキリムシの王種は鳴き声をあげる。そこまでの高さではなかったため、ひっくり返ることはなかった。アジクは落下したカミキリムシの背後にまわり、足の関節部分を狙う。虫の王種は身体能力の強化により堅くなるが、その関節部分は比較的脆い。アジクの加速した斬撃ならば切り落とすことは難しくない。元々が虫であるためか、王種となっても思考するような精神性はもたないため、裏側をとりつつ関節部分を斬り、足を失わせていく。足さえなくなれば虫の王種は脅威ではない。程なくして六本の足全てを切り落とされたカミキリムシの王種はほとんど動くことができなくなった。
「さて……」
本来であれば、あとはこの王種にとどめを刺すだけだ。だが、今回は少々事情が違う。
「隠れてないで出てこい」
がさり、と音を立て二人の男が森の陰から姿を見せた。
「……国の所属の王種か」
「あんたらは何者だ? 多分最近そこかしこの村で王種について聞きまわってるやつらだとは思うけど」
「…………」
アジクの言葉に沈黙する男二人。男二人はお互いに顔を見合わせ、どうするか迷っているようだ。
「もう一人はどこだ?」
「……何の話だ?」
「聞き込みで三人だって話は知ってるし、一人は武器なし、一人は弓系。剣の傷があったんだからもう一人いるのは当たり前だろ」
カミキリムシの王種にはすでに斬り傷があった。なのでその攻撃手段を持つもう一人が存在することは簡単に推測できることだ。アジクの言葉にカミキリムシの王種の側の森の陰から一人の男が現れる。
「よくわかったな」
剣を持った男はカミキリムシの方に近づく。
「先にこいつを殺しておくが、かまわないか?」
「……討伐の証明がいるから、頭を残す形にできるならご自由に」
「おう。了解」
そう言って男がカミキリムシの王種に剣を振るう。見えている剣、その先に白い別の剣先が見える。その剣先はあっさりとカミキリムシの体を切り裂き、その首を落とす。その斬った痕を見て、アジクは男の能力について火もしくは光系統の特殊能力タイプであると推測する。白い剣先で斬られた痕は熱により焼き切った形だった。首を落とした後も完全に動かなくなるまで何度か体を切り裂き、ばらばらにした。そして首を持ち、アジクの側まで来る。
「ほれ。首だ」
「ありがとう。それで、話を聞きたいんだが」
「俺たちについてだろ。わかってる」
そう言って男は村のほうに歩きだす。
「ここで話すのも何だし、とりあえず村まで行こうか。それの討伐の報告だってしなきゃならないんだろう?」
「……そうだな」
確かにここで話していて王種の死体を食べる獣か何かが来て話の腰を折られるのもあれだと思い、その言葉に従いアジクは男についていき村に戻ることにした。




