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炎の王種の討伐を終え、暫くは他の討伐が増えないだろうと考え休んでいたアジクだが、確かに暫くは討伐依頼は減ったが、すぐに増えてくるようになった。依頼が増えたため、またアジクが討伐に出向くこととなった。
「え? すでに倒された」
「ああ……」
何度か討伐を終え、次の討伐のために村に訪れたアジクだが、村長からすでに王種が討伐されているという話を聞く。
「誰が倒したんだ?」
「……あんたらじゃないのか?」
「依頼完了用の紙は俺が持っているから定かじゃないが……」
連絡を取ろうにも、距離がある以上すぐに連絡を取ることは難しい。アジクはその王種を倒した相手のことについて聞く。
王種を倒したのは人の王種で、数人で村に訪れたのだという。そこで村人に王種がいないか、と聞いて回り、森に存在する馬の王種のことを話したらしい。だが彼らが聞きたいのは人の王種がいないかどうかだったらしい。この村では暫くは王種は生まれていないので、いないと答えたら残念がられたという。
その後、理由は不明だが王種を倒し、その屍を村の前に置いていった、というのが村長の話だった。王種の死体は基本的に利用する人はいないので、森に捨てに行くのだが、王種の屍は普通の動物よりでかいので運ぶのが大変だったと愚痴を言われた。とりあえず討伐の証明の印を貰い、紙に村に訪れた何者かが王種を討伐していった旨を記載し、次の王種討伐に向かった。
アジクは住んでいる建物に帰還し、いつも通り帰還の挨拶をケティと交わす。そして討伐証明の紙を渡した。
「…………あら?」
例の何者かが王種を討伐したことを記載した紙を見てケティが声をあげる。
「アジク、これは?」
「その村は行ったらすでに村を訪れた人達に王種が倒されていた、って言われたよ」
「アジクの行ったところもなのね」
ケティは難しい顔をして紙を見ている。
「他のところでもそういうことがあった?」
「ええ……いくつかの場所でもあったらしいわ。これも要調査かしら」
そう言って机の上に存在するいくらかの紙の上にアジクから受け取った紙を置く。どうやら他の場所での同様の事例の内容の紙のようだ。同じく机の上に広げている地図に小さな木の板を置く。地図を見る限り、いくつかの木の板がおかれている。
「……いくつか纏まってるな」
「そうね。時系列は不明だけど、色々な村に移動しているみたいね」
地図に置かれている木の板はある程度道に沿ったルートをたどっていることが分かる。
「何者なのかしら?」
「王種討伐以外の情報は? 俺が聞いた話だと、村の王種について聞かれたらしいけど」
「……それは初めての話ね。でも、アジクみたいに人付き合いのいい子たちばかりじゃないから、話を聞いていないだけかもしれないわ」
王種は普通の人に恐れ怖がられる。そのため、普通の人は王種と付き合いを持たず、王種もそんな多くの人の反応からあまり普通の人間とかかわろうとはしない。そのため、王種同士以外だと王種はあまりコミュニケーションをとらない。恐らく他の人員は討伐の証明だけもらってきたのだろう。
「アジク、少し頼めるかしら?」
「何を?」
「同じ事があった村から話を聞いてきてほしいの。あなたなら他の村にも早く行けるし、人付き合いは良いほうでしょう?」
「面倒だなぁ……」
アジクは口ではそういうものの、ほかにそういうことに向いている人間はあまり知らず、今ここにいる中では自分がそういう話を持ち込まれるのも仕方ないとも思っている。
「剣を預けたばかりだから、今日は休むよ」
「ええ、わかったわ。明日まで必要なものは纏めておくから、お願いね」
「はいはい」
軽い返事とともに会話を終え、アジクは部屋に戻り休息をとった。
次の日。
「はい。王種の討伐は今回は聞き込みで行く場所が多いから入れていないわ。そのかわり、ちゃんと聞いてきてね」
「わかってるよ」
そう言ってすぐにアジクは同じようなことになった他の村へ聞き込みに向かった。
いくつかの村に聞き込みに回り、同じように村に王種がいないか、と聞かれ現れた王種のことを答えるとが残念そうな表情をされたという。そして討伐された王種が村の前に置かれていたこともアジクが最初に聞いた話と同様だった。だが、ある村で聞き込みをしたとき、少し違う話を聞いた。
「そういえば、他の村にいる王種の話をするとしつこく聞かれたな」
「それはどういう?」
「ああ……実は北の方に四日くらい行った先……北の道沿いに真っすぐ行って三つ目の村だったかな。あそこに国の預かりでない王種がいたんだよ。親が手放したくないらしくてな」
「それは珍しい」
こういった事例は珍しいものの、親というものはいろいろ複雑で、王種でも自分の子供を手放したくない、ということで匿う事例もある。そういった王種は国が無理やり引き取るのではなく、親と話して待遇良く預かることにしたり、親も近くに住まわせ、子供にすぐに会えるようにしたりと気を使っているようだ。これは王種の能力で反抗されたら厄介だからできるだけ王種が自分からそこにいたい、と思えるようにするためであるらしい。無理に引き離したせいで上級の王種がその力を暴走させ、大損害を受けたことも記録には残っている。そういった事例から学んだようだ。
「ああ、珍しいな。今はわからないが、その王種の話をすると場所はどこか、能力は何だ、といろいろ聞いてきてな。まあ結局そっちに向かったみたいだが」
「ふむ……」
話を聞く限り、各所で王種の討伐をした何者かは人の王種を探しているようだ。理由はわからないが憂慮するべきことかもしれない、とアジクは考える。
「教えてくれてありがとう」
「ああ」
特に気のない返事をされたが、普通の人の対応としてはいい方だ。酷い場合は話を聞いてくれないし、扉越しに話しをすることになったこともある。
「まずは王種のいる村とやらに行ってみるか」
とりあえず、何者かが向かったらしい村の情報を得たため、アジクはそこに向かうことに決めた。