6
村に調査人員が来るまでアジクは滞在し、到着後王種の遺体を渡し、討伐終了の証明の印を貰い村を発った。道中、残っていた王種数匹を探し、討伐して街に戻り、王種の住む建物に帰ってきた。
「おかえりなさい、アジク。色々と討伐してきて大変だったでしょう」
「ただいま、ケティ」
「ケティ、少しいいか……アジク、帰ってきたのか。おかえり」
「ゴウト。ただいま」
帰ってきたところにケティにあいさつし、そこにゴウトが訪れる。
「ゴウト、何の用かしら?」
「ああ……明日は時間は空いてるか?」
「夜? 午前中は特に用事はないけれど、夜は無理よ」
「そうか……いつ空いてる?」
「明々後日以降は今のところは空いてるわ。明々後日でいいかしら?」
「それでいい。アジク、武器を出せ」
ケティとゴウトの会話が終わり、ゴウトはアジクに手を差し出す。アジクは持っている剣を体から外しゴウトに渡す。
「ケティ、王種退治の状況は?」
「纏めてやってもらったからしばらくは大丈夫でしょう。今は外に出向く用事はないのね?」
「でかいのとやったから少し休む」
「なら武器はすぐに調整しなくてもいいな?」
「いえ、ゴウト。もしかしたら急に依頼があるかもしれないからできるうちにやっておいてちょうだい」
「……それもそうか。ならすぐにやっておくぞ」
そう言ってゴウトは工房のほうに向かう。
「ケティ。怪我はないかしら?」
「ないよ」
「……上級相手だったのでしょう? 流石に無事というわけにはいかないと思うのだけど」
「問題ない。見ればわかると思うけど?」
「……そうね。流石王級と褒めるべきかしら?」
「別にいいよ。それじゃあ、部屋に戻ってるから」
会話をバッサリと終え、アジクは自分の部屋に戻る。
「上級相手に無傷……本当に王級はすごいわね」
去っていくアジクの姿を見ながら、ぽつり、とケティがその場で呟いた
王種は下級、中級、上級の三つに区分されている。そしてその強さと規模により割り当てられているが、世の中にはその区分に当てはまらない存在も存在する。
大昔、ある王種が生まれた。その王種は山と見紛う程に巨大で、各地の村や町を襲い、壊滅させ、国が存続を危ぶまれるほどに被害を与えたのだという。その王種の討伐のために人の王種でも上級とされた王種を十名ほど集め、応戦させたが、王種を倒すことはできず、こちらの送り出した王種が半分も死んでしまったらしい。どうやってそんな王種を倒したのかというと、その王種を倒したのは一人の人の王種なのだという。その王種は見た目は平凡な人の姿であったが、巨大な山のような王種に手をかざしたかと思うと、その王種の体を地に這わせたという。王種を押しつぶし、地に沈め、そこにできた穴にさらに周辺一体を巻き込み沈み込み、王種を地の底に封じ込めた。
その王種のその後は知れないが、その力を欲した国に取り込まれたか、それとも危険視され人々に殺されたか、あまりよい未来ではなかっただろう。今でも王種の立場は保護こそされているが、いいものとは言えない。当時であればひどいものであった可能性も高い。王種のその後はともかく、その巨大な王種とその王種を地に沈めた王種が最初に確認された王級だ。つまり、上級王種が束になってもかなわないような相手に与えられる区分である。アジクはその王種王級に区分されている。
この王級への区分はかなり現在では緩くなっており、上級王種の単独討伐、およびその戦闘に苦戦しない程度の戦闘力を持つ、この二つの条件がそろえば王級に認定される。この苦戦しない、というのは中級以上の王種の回復能力で回復しきれない怪我を負わない、という判別の仕方であるらしい。アジクはこの判別方法は相当がばがばだと思っている。
「王級ねえ……」
ケティに王級と言われたことを思い出し、自分のことについてアジクは考える。確かに時間の加速能力は優秀だが、それでも勝てない、苦戦するような相手は多くいる。少なくとも真正面から戦うようなことがあれば苦戦する王種は今までも多くいた。負荷のこともあり、アジクは自分の能力の強さを過信しない。
「……もうちょっと何かできないか考えるべきか」
今回の戦闘でも、相手の反応の良さがあり、面倒なことをして隙を作る形にした。最も、炎の王種は防御に能力を使用していなかったこともあり、実際はそこまでややこしい行動をしなくても能力を全力で使えば倒すことはできただろう。問題は、防御を展開していた場合無理に戦えば手痛い反撃を食らうかもしれず、その対処法を持っていない点だ。
「遠距離攻撃は難しいんだよなぁ」
今回も石の投擲などしていた。アジクの能力は時間の加速だ。アジクが所有してる物品はもちろんその影響を受け、実際にアジクが能力を使用している間はその時間の加速に合わせた速度の攻撃になっている。しかし、アジクの時間加速中にアジクから離れた物品は現実の時間の状態に戻る。初速は通常よりも速くなるが、通常の時間軸に戻ると加速がある程度落ちるらしく、普通よりは速度が出ているがそれだけの攻撃になってしまう。
「……槍とか棒術とか? 今から武器を変えるのもなあ」
剣を使い始めたのは何年も前からで、もうすでにかなり使い慣れている状況だ。その状況で武器を変えると戦闘能力が格段に落ちる。流石にそれはいろいろと影響がでかい。練習をするのは構わないがすぐに別の武器を使えるようにはできないだろう。
「……練習はしてみるか。後で使える人がいるか探すか」
王種のつながりは王種だけだ。アジクの住んでいる場所には多くの王種がいるものの、戦闘ができるほどの王種は少ない。その中で特殊能力に頼り切らず、武器を使い戦う者はさらに少ない。身体能力タイプの王種は数も少なく、ここにはいない。
「…………前途多難。まあ、今まで放置してきたせいか」
それはこれまで対策をとってこなかったツケだろう。そうアジクは考えた。
「ま、今は休むか……今回は大変だったし」
そう呟き、アジクはベッドの上で眠りについた。