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王種そのものはあっさりと見つかった。ただ、一度見つかったときの状況からある程度以上に近寄ることはできない。どこに行くか方向だけを確認しその場から離れる。そのうえでどうやって王種を倒すかをアジクは考える。
「まず防御があるかどうかを確認しないといけないが……近づけないからなぁ」
近づいて攻撃できれば炎による防御があるかどうかは確認できるが、そのあと逃げ切れるかどうか、追撃で攻撃を仕掛けられるかどうか、そもそも近づくまで気づかれないか、攻撃するまで気づかれないかなどの問題がある。少々どころではない慎重姿勢だが、それがアジクの方針だ。特に今回は上級であることが見込まれる王種だ。慎重で万全を期するべきだろう。しかし、どうすればいいか。アジクが考えていると前にも聞いた鳥の羽ばたく音が聞こえる。
「連絡か」
メティエの作り出した鳥から羊皮紙を受け取り、中身を確認する。内容はアジクの記した場所の村の状態を遠視により確認し、正確な状況調査の人員の派遣の決定、その惨状を起こした王種は現在上級認定されるかどうかの検討中であるとのこと。おそらく上級に認定される可能性は高いとも書かれている。
「とりあえず、状況は伝わったみたいだな」
鳥はそのまま放置し、時間の経過で勝手に創造者の下に帰還した。
「……そういえば」
先ほど鳥が来た時に受け取っていた羊皮紙の存在を思い出す。その内容を再度確認し、思案し始める。
「……利用してみるか」
どうやら頼まれた討伐対象の鳥の王種を誘導し、炎の王種にぶつけることを思いついたようだ。善は急げとすぐに鳥の王種をの捜索に向かう。
「いたな……」
鳥の王種は捜索してすぐ見つかった。およそ体調二メートルほどの大きさの怪鳥だ。ただ大きいだけでなく、腹にもう一つ頭を持ち、足に普通とは大きく違う大きく鋭い刃物のような爪を持っている。通常鳥は木の枝に巣を作るが、それができる大きさではないため、木の根元に巣を作っているようだ。辺りには結構な骨が存在し、一般的な野生動物だけではなく人の頭骨も見える。この辺りに村はなく、かなり遠い範囲まで移動し獲物を探しに行っていることが分かる。
「中級……単独だし結構厄介な相手か」
王種の認定の仕方は単独の時と群れである時で違う。鳥の王種は単独で中級に認定されているということは相応に強力であるということだ。
「ま、俺が戦うわけではないし」
そう言って近くで拾った石を鳥の王種に投擲する。当ててもいいが、優先事項は相手をおびき出す事なので無理に狙うことはしなかった。もう一つ石を確保しているが、こちらは炎の王種の防御を確認するためのものだ。投げられた石は鳥の王種にはかすめる程度で当たらなかった。しかし、投擲に気づいた王種は投げてきたアジクを確認し、大きく鳴き声上げた。そして腹のほうにある顔が口から何かを撃ち出してきた。
「危なっ!!」
能力を使い、撃ちだしてきた攻撃を回避する。飛んできたものを直接確認することはできなかったが、撃ちだされた先を見るとどうやら骨が飛んできたようだ。恐らく、王種が中級認定された理由の一つだろう。特殊能力ほど面倒なものではないが、遠距離攻撃は厄介だ。特に相手は鳥型の王種で飛行しながら攻撃してくる。どうやらあの腹にある頭は胃か何か体内の袋に通じており、それに骨が確保されているのだろう。
「ちょっと誘導面倒だな……」
確実に姿を見せている間に追ってくる王種からの攻撃が来るだろう。回避は楽にできるが、それに気を遣わなければならないのは大変だ。
「あの王種の行き先は……ちょっと遠いな」
面倒だ、とつぶやきながら鳥の王種を誘導し、炎の王種の行き先へと向かう。
「見えた」
鳥の王種からの攻撃を回避しつつ移動し、炎の王種の姿を確認した。その時点でアジクは鳥の王種の動きを直線に誘導し、能力を使い一気にその場から離れた。鳥の王種はアジクの姿を見失い、移動方向はそのままに捜索している。そして移動先にいた炎の王種の姿を確認し、もともと自分が追っていたアジクの代わりにそちらのほうに標的を移した。
鳥の王種は羽ばたき音とともに移動する。その音を炎の王種が確認し、そちらを見上げる。互いに相手の姿を確認した時点で鳥の王種から骨が炎の王種に打ち出された。炎の王種は自分に向かってくる骨を見て燃やす。圧倒的な炎の勢いと熱量により燃え、ばらばらになる。燃えきらなかった骨も炎の勢いにより速度が軽減され落ちていく。鳥の王種は攻撃が届かなかったことに大きな鳴き声を上げる。炎の王種は何も気にした様子はなく、鳥の王種に目を向ける。途端に鳥の王種が燃え上がった。鳥の王種は燃えながら森の中に落ちて行った。
その炎の王種の攻撃と同時に、炎の王種に石が投げられる。ある程度の威力と確実な命中を目的に投げられた石は炎の王種の肩に命中する。炎の王種は石を自動で防御することはなかった。投げられた石はもちろんアジクの投擲したものだ。王種が石が飛んできた方向に目を向ける。しかし、そこには何もない。投擲した時点でアジクはその場所から移動していた。王種が振り向くことを予測し、振り向いた後後方になる場所まで一気に移動し、炎の王種が降り向いた時点で速度を負荷のない十倍以下からその時点で出してもよいだろう限界まで出し、相手が気づく前に近づいた。森の中を移動する以上、どうしても音が出てしまう。相手に気づかれる前に確実に決定打を与えるためだった。炎の王種は行動の間を作られ、そのタイミングで高速で近づいてきたアジクに反応することはできなかった。アジクの剣による斬撃が炎の王種の首を斬りおとし、その命を絶った。
「はあ…………はあ…………」
アジクは体にかかった負荷により立ったまま休んでいる。傍らには炎の王種の死体がある。森に墜落した鳥の王種はまだ確認していないが、暴れる様子を見せていないため、死んでいるかそうでなくとも動けない程度には重症であると考えられる。後で確認する必要はあるが、今はまだいいと考え、アジクは休むことを選択している。
「なんとかなったかな」
今回はいろいろと悪くない条件が重なっていたからこそ王種討伐が成功したとアジクは考えている。だが、そうそう良条件で討伐ができるわけではない。今回のように運よく対処できるわけではない。アジクにとっては課題の一つだろう。
アジクはしばらくその場で休み、ある程度回復した時点で鳥の王種の様子を確認しに行った。状態としては腹にある頭は動きがなく、死んでいるように見られるが、通常の頭部は弱々しくだが呼吸しており、まだ生きているようだ。抵抗できない鳥の王種にとどめを刺し、その腹の頭部を切り出し、討伐証明として回収した。炎の王種の首も回収し、調査のための人員を送り出してくるだろう焼けた村に向かい、そこで暫く滞在した。