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 王種の捜索をしている最中、ばさばさと上空で鳥が飛ぶような音にアジクが気づく。そちらを見ると、透明なガラスでできたような鳥が嘴に折り畳んだ羊皮紙を挟んでいる。その鳥はアジクの傍まで羽ばたきながら降りてくる。


「メティエの鳥か。何かあったのか?」


 その鳥は王種の一人の能力によって作られたものだ。その鳥は創造者が思い描いた相手に持ち物を運び飛んでいく存在で、暫くその相手のそばに滞在し、その後創造者の下に帰るという特性を持つ。その特性ゆえに彼らは必要な時に連絡を取るために使用している。

 アジクは鳥の持っていた羊皮紙を受け取り中身を確認する。


「……ちょっと遠くだが、中級の王種の依頼か」


 その中身は緊急性こそないが、可能であれば退治しておいてほしいと書かれている中級の王種の討伐依頼だ。


「とりあえず今は置いといて……鳥がいるなら終わった依頼と連絡事項を送っとくか」


 そう言ってアジクは終了した以来の羊皮紙に人型の王種、それによる村の壊滅、状況から上級であることなど、今回の調査で判明したことを書く。そしてそれを折り畳み鳥に差し出した。鳥は差し出された羊皮紙を嘴で掴む。暫くはそのまま羽ばたき浮遊したしていたが急に上空に羽ばたき、そのまま彼方へと去っていった。


「討伐対象……鳥? 飛行対象はちょっときついんだけどなぁ…」


 アジクは今回の調査において飛び道具を持ってきていないため、空中の敵に対しての攻撃がやりにくい。投擲などでカバーできるものの、やはり専用の道具があるのとないのでは全然違ってくる。どうせなら討伐対象に有効な武器も一緒に送ってくれればな、と呟く。しかしあの鳥では大きさ的にも無理があるのはアジクもわかっている。


「とりあえず、今回の件を先に片づけるか」


 そう言って思考を切り替え、炎の能力を持つ人の王種の捜索を続ける。







 捜索してしばらく、暗くなる少し前にその対象は見つかった。


 「……………………」


 それはふらふらと歩き、異様な雰囲気を漂わせる少し痩せた感じの男性だ。その風貌だけでは王種かどうかの判別は不可能だが、彼の着ている服は火が燃えたような焦げ跡があった。ただ単に焦げ跡があるという理由だけではなく、その焦げ跡が異様なのが最大の理由だ。その焦げ跡はある程度焼けた以降はまったく焼けてておらず、火が途中で焼失したような焦げ方をしている。水をかけたとかそういう理由での消え方ではないだろうといった感じだ。つまり、それは炎の能力によって服が燃えてしまったが、それに気づいた王種が炎を消したことによってできた焦げ方であるという推測ができる。故に、その焦げ跡がある服を着ているのは今回の件の王種であるという結論になる。


 「どうする……?」


 今はまだアジクは相手に気づかれていない。不意打ちで殺すのが一番手間がかからないが、それをしていい相手かどうかも不明だ。上級王種はその特殊能力が強力な点も問題ではあるが、最大の問題は特殊能力タイプの王種でも相当な身体能力を持つ点だ。王種は身体能力タイプと特殊能力タイプに分かれる。通常王種は片方の性質だけなのだが、上級以上ではもう一方の性質も持つようになる。もちろん、王種として認められるほどの強さにはならないが、普通の生物よりもはるかに優れる能力だ。だからこそ、上級以上の王種は厄介になる。

 もう一つ、アジクが問題としているのは王種の能力による自動防御の危険性だ。アジクの戦法は多くの場合、相手に近づいて剣で切り付けるというものだ。そのため、王種が自分の体に能力による防御を施している場合、その反撃行動にやられてしまう危険性もある。アジクはいつも王種の様子を観察し、相手の能力をできるだけ掴んでから相手に攻撃するようにしている。今回は相手の能力が判明しているが、だからこそ攻めていいものかどうかが分からない。炎の能力による自動防御が展開されていれば、攻撃したら自分が火達磨にされてしまう危険もある。


 「様子見で何かを投げるとかかな……近づけるだけ近づくか」


 アジクが男に近づこうとし、移動する。その途中、がさがさっ、と少し大きめの草をかき分ける音が出てしまう。くるっ、とその音を聞きつけたのか王種がアジクのほうに目を向けた。


 「っ!」


 異様な目をした男に見られ、驚きと恐怖が湧く。それと同時にものすごい悪寒に苛まれる。アジクは咄嗟に自分能力を使い、一気にその場から離脱し、男から離れた。アジクがその場から離脱してすぐ、アジクのいた場所周辺が爆発するかのように燃え上がった。その炎は十数秒ほど続き、鎮火する。アジクがいなくなったからか、特に興味もなさそうに男はもともと向かっていたほうに顔を動かし歩き始める。

 アジクは離れた場所から自分がいた場所を確認する。


「……やばい」


 アジクと男のあいだの距離はだいたい五十メートルほど離れていたはずだ。少し大きな音だったとはいえ、草をかき分ける音が聞こえるとなると相当な身体強化がなされているか、もしくは感覚のみに集中した強化が起きているのだろう。その点も問題だが、あの距離から能力を発動し届くというのもまた厄介な点である。それはつまり、近づくまでに気付かれればこちらを向いて一瞬で燃やされる可能性があるということだ。


「今は少し休まないとだめだな……とっさだったから負荷がやばい」


 そう言って近くの木に背中を預ける。咄嗟に回避するために自身の持つ能力を使用した結果、体に大きな負担がかかったようだ。


「……あの距離で気づかれるとなるとつらいな。もう少し、半分ほどまで気づかれなければ一気に行けるか?」


 自分の持つ能力で相手が反応する前に対応できるかどうかを考える。







 アジクの持つ王種としての能力は色々と大雑把な区分ではあるが時間操作である。具体的には、アジクは自分を時間的に加速した状態に持っていけるのだ。例を挙げれば、普通の人よりも十倍速く動ける、みたいな感じだ。本人には自分が早くなるのではなく、ほかの人が遅くなるという感覚であるらしい。最大で百倍の加速を出せる、とアジクは他の人間に伝えているが実際はもっと出せるだろうとアジクは思っている。ただ、今回のように力を発揮すると体への負担が大きく、十倍から先の速度からは使用時から負荷による影響が出るらしい。百倍というのはぎりぎり本人が負荷に耐えられる最高速ということだ。


「ふう……行くか」


 体が回復したのかアジクが動き始める。しかし、その表情はあまり良くない。


「どうするか……」


 あの男を相手にどうするかいまだ迷っているようだ。全力を出せば確実に倒せるだろうが、負荷の問題もあるし、能力による防御があれば厳しい。流石に相手が防御に能力を使用していないだろうと高を括って攻撃するわけにもいかない。


「とりあえず、相手の向かう先の確認、今の位置を把握しないとな」


 まずは相手を探さないといけない、と相手の向かった先に探しに行く。見つからないよう、気づかれないように注意を払いつつ移動を始めた。


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