9
査問が再開した。今までのやり取りとは打って変わり、静城の発言を受け入れた内容で話が進んでいる。そうなったのは新たに提出された証拠、スーツの修復依頼を行った時の証明札が本物であり、その内容が本物と証明され、そしてそれが未だに完了したものとされていないと確認されたからだ。
そして、それは基地長の持ってきたスーツの修復を行ったとされている書類、証拠とは明らかに矛盾した証拠だ。そもそも、その書類の証明札とこの提出された証明札は別物だ。それゆえに、どうしてこの証明札が存在しているのか、という事態にもなっている。証明札を作れるのは物品管理の部署だ。
その部署の人員にこの件について問い詰めれば答えはすぐに出た。データの削除、捏造、改竄。それらを行ったということ、そして、どうしてそのようなことをしたのかということ。それらの指示を行った人物の存在、すなわち今回の証拠の提出者、基地長の不正行為によるものだと。基地長の不正はこれらだけでなく、証明札と同時に提出されたいくつかの不正の証拠もある。それらにより、査問は静城の職務放棄の問題の追及から、基地長の不正行為の問題の追及へと変わっていた。そもそも、静城の発言が真実であるとなったので、静城に問題はないということになる。そして、告発から静城のスーツの修復を禁じたのは基地長ということもわかっていた。そうであるのならば、静城は無実、すべての責任の所在は基地長に存在するということになる。
「申し開きはあるかね?」
局長が基地長に対して何か発言することがあるかを尋ねる。
「……ない」
基地長が一言だけ告げた。それは基地長が今回の件における不正に関してを認めたということになる。
「……一つ聞きたいのだが、告発を行ったのは誰かな?」
基地長が局長のほうに向けて尋ねる。局長は基地長の言葉に査問を行っている場の一角に目を向ける。そこにいたのは風見だ。
「彼女だよ」
局長の後ろにいた人間がばっ、と局長のほうに目を向けた。
「局長!」
その言葉に込められたのは何を言っているんだ、という思いだろう。通常誰が告発したのかを言うわけがない。告発されたものは告発したものを恨む。誰かわかれば復讐をしかねない。
「…………君か、風見君」
基地長が風見のほうに視線を向ける。その視線には敵意がこもっていた。
「まさか、君が私に歯向かうとはな……」
「不正をしたのはあなたです。今回の事件の責任をすべて他人に押し付けたのもあなたです。責任の所在は正しくあるべきです。本来責任を取るべきでない相手が責任を取らされることを許せるはずがありません」
風見の言葉を聞き、基地長が笑いだす。
「くくくくく、ははははははは!!! まさかそんな理由で蹴落とされるとは思わなかったな!」
基地長が腕を上げる。それは風見のほうに向けられた。
「全ては、君が悪いんだよ」
「!!!」
基地長の腕から闇のエネルギーで作られた球が風見に撃ち出された。
どがっ、と肉を打つ大きな音が査問の場に響く。
「ぐぅっ!?」
「静城さん!?」
エネルギー球は風見には当たらなかった。風見の前に静城が立ちふさがったからだ。
「ははははははは! 攻撃能力のない欠陥ヒーローめ! 貴様にできるのはせいぜい攻撃を防ぐ肉壁程度だろう!!」
基地長が叫び、次々エネルギー球を打ち出す。それらは風見の前に立ちふさがった静城に当たる。
「ぐあっ!!」
静城が攻撃の衝撃、痛みに耐えきれず思わず声を上げる。
「静城さん、ダメです!」
風見が自分の前に立ちふさがる静城の様子に叫ぶ。
ヒーローはスーツがなくても力を発揮できる。静城は特に防御に特化した能力であり、スーツ無しでも相当な防御力を持つ。しかし、スーツ無しでのヒーローの力はスーツのある時の半分もない。それほどにスーツは重要で、防御力は特に影響が大きい。スーツ無しでは多くのヒーローは攻撃を一発耐えるのがせいぜいだ。風見も静城が壁になっていることがよほどの無茶であることを理解していた。
「はははははは! まだまだいっ」
基地長が風見に、静城に向けて攻撃を続けようとしたが、それは飛んできた白い槍に貫かれることで止められる。この査問の場には他にもヒーローがいるのだ。
「ったく!」
それまで誰も動かなかった、動けなかったことに不甲斐ない、と自分自身も含めて思い、その攻撃を行った人物は声を上げる。それは静城を本部へと案内した人物だった。
「静城さん! 静城さん!」
攻撃が止み、気を失ったわけではないが、声を出せないほどに消耗し静城が倒れる。そんな静城の姿を見て風見は気が動転している状態で、静城に声をかけている。
「落ち着け! 治療能力者だろう、自分の力でそいつを治療しろ!」
「っ! は、はい!」
基地長を止めた人物の一喝に静城が少し落ち着き、言われた通り静城の治療を始める。
「はあ……まさかいきなりこんなことをするなんてな」
自分が攻撃した、槍の突き刺さった基地長の姿を見て思わずつぶやく。
「局長。発言が迂闊じゃありませんかね?」
「ぐ……すまない、槌原君」
静城を案内した人物――槌原は風見の存在を基地長に告げた局長に非難の視線を向けた。
「それにしても……おい、お前いつの間に怪人になった?」
先ほど使った闇のエネルギー球、それは多くの怪人が使うものだ。それを使うということはすなわち、基地長が悪の怪人になっているということだ。
「く、くくくくくくく」
槍に貫かれている状態の基地長が笑いだす。槌原の作り出す槍は攻撃力を持つが、本人の意思で殺傷能力を喪失させることができる。基地長に対して撃ちだした槍はあくまで行動を押さえるためのものだった。
「ここの場所はすでに悪の組織の知ることとなっている! はははははは! 私の立場が壊れてしまうのならこんな場所なければいいのだ! ははははは!!」
基地長は言う。この本部の場所を悪の組織に告げたと。それにより自分は悪の組織に所属する怪人として、ふさわしい立場をもらうこととなったのだと。
「ちっ!」
槌原が槍を基地長に対して撃ちだし、それ以上の言葉を止める。
「局長!」
槌原の叫びに局長が動き出す。局長も今の話を聞いていた。これから本部への悪の組織の襲撃があるだろう。
「本部にいるヒーロー全員に出撃の準備をせよと伝達せよ!」
慌ただしく人々が動き出す。これから悪の組織の怪人たちと大きな闘いになることを予感して。




