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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
guardian
61/485

8

 再び図書室に三人が集う。


「集めたは集めたが、今回の件に関しては無理だった」

「あんまり重要なのは無理だったー」

「…………」


 机の上にはいくつかの資料がある。それらの資料は基地長の不正を示すことのできる書類ではあるが、静城の行いを否定するものではない。


「いえ、十分です。穂村さんの資料は基地長を攻める材料になりますし、佐遊の資料も、私の見つけたものと合わせれば今回の査問をひっくり返せます」

「え……? そういえば月音は何の資料を見つけたの?」


 机の上には風見の持ってきた資料は見当たらない。


「これです」


 風見は自分の服のポケットから一枚のカードを出す。


「……これは」

「証明札か。だけど、これが証拠になるのか?」

「ええ。証明札は預かり内容、終了予定日、受け渡しの確認、最終的に物品管理の部署に回収されるものです」


 物品管理の部署で物を預けると、その預かりのと仕事内容の証明として、証明札に諸々の必要事項が記載され、それを預けた人物に渡すことになっている。そして、証明札を出し、仕事の終了を証明した上で預かったものを返す。ここに証明札があるということはこの証明札の物品はまだ仕事が完了していないということだ。


「それは知ってるが……」

「あ、もしかして!」


 大倉がその証明札の仕事内容に思い当たる。風見が物品管理の部署に自分のものを預けたことはない。事務系の仕事であるため、必要になることがないからだ。しかし、風見の仕事上、預けることになる事柄が一つだけある。


「これは私が静城さんスーツを預かり、修復依頼をしたときの証明札です」

「……それは覆せない証拠だな」


 風見が部署で預けたスーツは修復されずに返された。そのため、仕事自体がなかったことになっている。そのため部署側のデータに修復依頼のデータは存在しない。しかし、返された風見の側では正しく履行されなかったせいで終了確認がなされず、証明札が残ることになってしまっていた。証明札には仕事内容や日付が記載されている。このデータを確認すれば、それはスーツの修復がなされなかった動かぬ証拠になる。それはスーツの修復がなされたという、捏造された証拠と矛盾し、調査が必要なことになるはずだ。そして、基地長の不正資料と合わせれば、今回基地長が提出した数々の証拠が改竄、捏造されたものであるという可能性に行きつける。


「……だが、これだけを提出したところで難しいぞ」


 これらの証拠をただ提出しても状況は厳しい。これらの証拠が途中で握りつぶされる可能性もある。


「大丈夫です」


 風見が穂村の呟きに言葉を返す。


「私が告発します」


 静かに、強く風見が言った。








 査問の場、数多くの本部に努める人員がいる。そこで行われているのは今回の事件における静城の行動の内容、正当性などの検証だ。もちろん、静城にも当時何をしていたのかなどは聞かれる。静城は特別なことは何もなく、自分のしていたことを述べるだけだった。

 この査問において、静城の発言は正当性が証明できないものとされた。基地長の持ち込んだ記録、書類、それらが静城の発言を否定するものだったからだ。静城は今回の件において、スーツの修復がなされていないから出動できないものと述べたが、提出された資料にはスーツの修復はきちんとなされたとされている。そして、その修復されているスーツもこの場に持ち込まれている。事実としてスーツが修復されている、という事実が存在している。そのため、静城の言葉は真実であると認められていない。静城はそれらの証拠を提出された時点で必要以上の口述をやめている。風見という証人がいるが、その証言が証拠以上の力を持つとは考えられたなかったからだ。証拠を覆す手立てがない以上、静城にはどうしようもなかった。査問は静城に不利な形で進行していた。

 しかし、途中で入ってきたある人員が査問の中心、本部の最上位の立場にある局長に耳打ちしてから状況が変わった。その日はそこで査問が打ち切られた。

 そして翌日、その日の査問はそれまでとは違い、基地長の持ち込んだ書類、証拠の信憑性が弱いものとされ、静城の発言内容を聞き入れられる形になった。完全に静城の発言を受け入れられたわけではなく、あくまで真実かもしれない、というものだったが。これに驚き、戸惑い、どういうことだと基地長が発言した。彼の証拠が信憑性のないものと見られることとなってしまうと、静城に責任を押し付けることは出来ない。彼にとってそれは困ることだったからだ。そこではじめて基地長に告げられる。今回の事件の静城の責任とされる要因を覆す証拠が持ち込まれたこと、そして基地長が不正を行っていることが告発されたと。




「くそっ! 何故だ!」


 基地長が自分の滞在する部屋で頭を抱えている。今回の事件の責任を静城に押し付け、自分になにも非はなかったとし、今の立場を維持するつもりだった。しかし、それを途中で阻止され、自分が不正をしたと証拠を提出され告発された。彼は基地長であり、上の立場にある。それゆえに彼の提出する証拠は相応の信頼ある証拠とみられる。しかし、それが覆されるということは、それだけはっきりと信憑性が薄いとされるだけの証拠が持ち込まれているということだ。


「このままでは私の立場が……くそっ!」


 査問の流れは変わり、静城の職務放棄から基地長の不正、そしてこのままいけば今回の基地長の問題行為、責任追及となるだろう。


「どうすればいい…………どうすれば」


 基地長が頭を抱え唸っていると、電話が鳴る。基地長は電話が鳴っても出る様子がなかったが、向こうも切らず、鳴り続ける。流石にうるさく思ったのか、基地長が電話に出た。


「なんだ! うるさいぞ! …………おまえか。いったい何の用だ?」


 電話をかけていたのは基地長のある知り合いからのようだ。


「お前のような奴に言われたくない! なんだと!」


 電話をかけてきた相手に基地長が強い口調で言葉をぶつける。しかし、徐々に基地長は落ち着いた様子になった。


「それは本当か? …………いや、信用してやろう」


 基地長がにやり、と口角をあげる。


「査問の再開は明後日だ。その時にしよう……ああ、そうだ……明日か。わかった、準備をしておく」


 がちゃん、と受話器を置き、電話を終えた。基地長は悪い笑顔を浮かべている。


「く、くくくくくっ! この私を追いやろうと考えている奴らに目に物を見せてくれるわ……!」


 基地長が部屋の中で一人、静かに狂気を孕んだ笑い声をあげていた。


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