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「どういうことですかっ!」
「月音、声大きい!」
廊下で風見が大倉に対し大声を上げている。周囲には少ないながらも人がおり、大きな声をだした風見を何かあったのか、と視線を向けている。
「っ」
自分の行動により周囲から視線を向けられていることに風見が気づく。
「話の出来る場所に行きましょう」
そう言って風見が先導する。
「ああもう……待ちなさいよー」
珍しい風見の様子に少し困りながらも、大倉はついていった。
二人は人がいないことを確認し、図書室で話を始める。
「それで、どういうことなんですか?」
「あー……うん、どういえばいいかなー?」
「…………何故静城さんが査問で呼ばれている事態になっているんですか? 理由を教えてください」
風見が普段見せないような行動を見せた理由、それは静城が査問で本部に呼ばれたことを大倉から聞いたためだ。本部に査問で呼ばれるということはよほどの大ごとになるだろう。しかし、静城は基本的に目立った成果はないが、問題行動みたいなものを起こしたことはない。だからこそ、査問で呼ばれるという事態は謎な状況だ。
「……職務怠慢、放棄。そしてそれが今回の……前の被害につながった、って話になってる」
「…………それはどういうことですか?」
風見の目が、視線が凶悪なものになっている。風見は静城が前回の戦いに出れなかった理由を知っている。自分が修復のために提出したスーツが基地長の命令で修復されなかったことが原因だ。断じて静城側に原因がある事態ではない。
「静城さんのスーツが修復されなかったから出れなかったのに、それを理由に査問するのは問題でしょう」
「それがねー……スーツは修復されてることになってる。書類も確認したよ」
「…………本当ですか」
大倉の目の前に風見が迫る。嘘をついたら承知しない、という目で睨んでいる。大倉は今にも自分を殺しそうな目で迫ってくる風見に少し口の中で悲鳴を上げながらも、なんとか話を続ける。
「う、うん。とりあえずその書類も査問に持ってかれてるし、スーツの現物もあった。証拠はちゃんと存在してる」
「……そうですか」
風見の声が冷たい。大倉は風見の様子を見て、通常じゃ考えられないほど怒っているのを理解する。もともと風見はかなり真面目な性格な上に、今回は自分の関わっている相手、自分の関わっている職務などが関係している都合上、余計に不正な事態が起きていることが許せなくなっているのだろう。
「…………佐遊」
「はい!」
凍えるような風見の言葉におもわず姿勢をぴん、と姿勢を正し大蔵が返事をする。
「静城さんの、今回の関連の書類を集められますか? 私が関与している仕事でずるなんて絶対に認めません。叩き潰します」
「えー……でも、今回の絶対基地長がらみでしょ、風見が愚痴ってたの聞いてた限り。私だけじゃ無理だよ」
大倉は情報関連の職務の担当だ。しかし、そこまで上位者ではないため、触れる情報の量や質に限りがある。
「……確かに佐遊の力じゃつらいかもしれませんね」
「そうそう。できるだけ集めるのはいいけど、それだけじゃあ勝負には出れないと思うよ」
友人のためにできるだけの手助けはしていいと大倉は考えているが、相手の立場が立場だ。絶対に彼女では届かない場所に必要な情報があるだろう。
「………………」
どうすれば情報を集められるのか、風見と大倉は無言になり考えるが、言いアイデアは思いつかない。二人が悩んでいるところに図書室に人が来た。
「おーう……あれ、あいつ居ねぇな」
二人が声の下図書室の入り口の方に目を向ける。そこにいたのはガラの悪い大男だ。
「すまねぇが、そこの二人。ここに静城ってやつが来てねえか?」
正義の味方の施設では普通見ることのないような、珍しいというよりは奇異な印象を受ける相手に声をかけられ、戸惑う。
「え、えっと……」
「…………すみませんが、どちら様ですか?」
動揺しながらも風見が相手の素性を尋ねる。
「ああ。俺は穂村ってぇんだ。あー……諜報部の人間だ、ここのな」
「諜報部……」
「ああ、それでそんな見た目なんだ」
相手の見た目の印象、その理由が分かり大倉が納得する。
「……元からこんな見た目だっつーの」
「え!? ……ごめんなさい」
「ああ、別に謝んなよ。普段からそういうのは慣れてる。それで、静城ってやつは知らねぇか? いつもだいたいここにいるんだが」
穂村が静城の所在を再度尋ねる。二人は話していいかどうか少し迷ったが、相手が諜報部であればすぐに情報は手に入るだろう、と考え現在の静城の状態を伝える。
「はあぁっ!? 本部に査問で呼ばれてるだとぉっ!? どういうことだよっ!」
「落ち着いてー!!」
大声で風見に問い詰めながら迫る穂村。それを横から大倉が諫めようとする。
「ああ…………悪いな。なんで本部に呼ばれることになったんだ?」
「別に事情を話してもいいですけど…………あなたは静城さんとはどういう関係なんですか?」
目の前の諜報部の見た目不良か悪人に見える巨漢の人物と風見の接点が思いつかない。
「友人だ。昔の学校の先輩でな」
「…………ええっ!?」
「…………本当ですか?」
「……静城は見た目小せぇからなぁ」
静城は見た目だけならば下手すれば中学生に見られる危険がある位、低身長で童顔だ。少なくとも成年には見られないレベルだ。それゆえに、穂村が静城を先輩と呼称することには違和感を禁じ得ない。それはともかく、穂村と静城の関係性が分かったので今回の大体の事情を説明した。
「……面倒なことに巻き込まれてるな」
穂村が腕を組む。顔は下を向き、何かを考えているようだ。
「……なあ、あんたら。あんたらだけで情報はどの程度集まる?」
「……全然かなー」
「あまり集まらないと思います。私も関係しているのでその辺は何とかなりそうですけど」
「よしっ、俺も手伝おう! 友人のためだ。全力でやってやるぜ!」
穂村が二人に自分も情報集めに参加することを表明する。
「……それはありがたい話ですけど、いいんですか?」
「なーに。これでも諜報部のエリートだ。どうにでもなるさ」
「それじゃ頑張ってねー!」
「……佐遊、あなたもしっかり集めてきてくださいね」
「う、うん。わかったから、わかったから!」




