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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
guardian
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1

「おらっ! おらっ! どうしたよヒーローさんよぉ! 何か抵抗して見せろぉっ!」


 蹴打音が響く。その音が発生しているのはボロボロになっているヒーロー、そしてそれを蹴りつける悪の組織の怪人からだ。


「さっきから何もしなくてよぉ! ただそこにいるクソ人間共を守ってるだけで何もしやがんねぇ! おらっ! もっと何かやって見せろやぁっ!!」


 ヒーローの後方、そこには何人かの市民が存在する。逃げるでもなく、怯え、震え、そこにいる。彼らはヒーローが何もできないまま一方的にやられている様を見ているだけだ。そこには微かに失望、絶望の感情が見えた。

 悪の怪人はしばらく一方的にヒーローを嬲っていたが、それだけでは面白くないようでその攻撃をやめ、そこにいるだけの市民のほうを見る。


「つまんねぇなぁ。もう少し何かしてくるもんかとおもったけど何もやんねぇ」


 悪の怪人は手をあげ黒いエネルギー球を生み出す。


「つまんねぇから……鳴いてみせろやぁっ!!」


 黒いエネルギー球がヒーローの後方にいる市民に対して撃ちだされた。市民たちは撃ち出されたそれを見てひっ、と恐怖の声を上げる。しかし、市民たちにそのエネルギー球が届くことはなかった。


「ぐっ!」


 撃ちだされたエネルギー球の前にボロボロにされていたヒーローが立ちふさがり市民を守る。まともに攻撃を食らい、ヒーローはさらにボロボロになる。


「あああああああ!! お前は何なんだよさっきから! おらっ! おらっ! おらぁっ!!」


 自分が望んだようにならないことに怪人は苛立ちを募らせ、さらにヒーローに攻撃をする。殴打、蹴打、時にはエネルギー球を作り出しひたすらに嬲り続ける。しかし、途中でそれらの行為は打ち切られた。怪人が後方から攻撃されたためだ。


「ぎゃあああああああっ!! なんだぁっ!?」

「そこまでだっ!」


 そこにいたのは赤い戦闘服を着たヒーローだった。怪人に不意打ちの攻撃をしかけたのも彼だ。市民たちはそのヒーローの登場にわっ、と歓声を上げる。


「てめぇっ! よくもやりやがったなぁ!」


 悪の怪人がエネルギー球を作り赤いヒーローに撃ちだす。ヒーローは華麗にその攻撃をかわし怪人の懐まで入り込む。怪人は近づかれたことに舌打ちし、ヒーローに対して肉弾戦を仕掛けた。しかし、ヒーローは怪人よりも強く、怪人からの攻撃を受け逆に反撃を加える。


「ぐっ! くそぉぉっ!」

「これで終わりだっ!」


 怪人が怯み、大きな隙を見せる。そこをすかさず、ヒーローは後ろに跳び、助走距離をつけ一気に怪人に高速で駆ける。


「ライジングスマッシャー!!」


 高速で駆けたヒーローの雷光を纏った拳打が怪人を打つ。ばんっ、と大きな音がして怪人が崩れ落ちた。そのまま怪人は黒ずみ、粒子へと変わり空中に溶けるように消えていった。その様子を見た市民たちはわあああと歓声を上げ喜ぶ。そして怪人を倒したヒーローの下へ向かった。ヒーローは市民に囲まれ、対応に苦慮しているようだ。


「…………」


 先にいたボロボロになっていたヒーローはそちらを見て、特に何かを言うでもなくその場を立ち去って行った。








「またボロボロですね」


 医務室と思われる場所に先ほどのヒーローが訪れる。対応したのは白衣の女性だ。彼がここにボロボロな姿で訪れることはいつものことであるらしい。


「とりあえず、スーツは外してください。修復もこっちで出しておきますね」

「はい。いつもすみません」

「いえ、これが私のお仕事ですから」


 申し訳なさそうにする彼に対し、特に気にしていないと笑顔で対応する。


「……とりあえず治癒をかけますね」


 そう言ってスーツを脱いだ彼に手をかざす。白い光がかざした手から生まれ、彼を包み込む。そして彼が受けていた傷を癒した。


「はい、おわりましたよ静城さん」


 白い光が消え、かざしていた手を戻す。治療が終わったことを確認し、彼――静城が体を動かし問題がないかを確認する。


「いつもありがとうございます」

「いえ、今は静城さん以外はここに来ませんから」

「そうですか」


 最近は静城以外が治療室に来ることはなく、特に仕事がないと女性は言う。


「じゃあ僕は風見さんに迷惑をかけているみたいですね」

「いえ、治療が私の仕事です。静城さんが気にする必要はありません」


 再び申し訳なさそうに言う彼にはっきりとその言葉を女性――風見は否定する。


「……むしろ、そちらこそ大変じゃないですか?」

「何がです?」


 風見は心配そうに静城を見る。


「静城さんは攻撃能力がないのに戦いに参加しています。それでは一方的に攻撃されるだけでしょう?」

「…………」


 風見の言う通り、静城は攻撃能力を持たない。ある意味、ヒーローとしては特殊な存在だ。ヒーローとしての資質、能力は持ち得ているのに、敵を倒すことはできない。それはヒーローとしてはあまり役に立たない存在だ。


「守ることが俺の役割ですから」


 少し苦笑い気味だが笑顔で静城は答える。しかし風見はさらに心配そうにする。


「……わかしました。でも、あまり無理はしないでくださいね。本当は私の仕事なんてないほうがいいんですから」

「もちろんです」


 そう言って静城は立ち上がる。


「それじゃあ、僕はこれで」

「はい。それでは」


 最後に風見と会話し、静城が治療室を立ち去った。


「………はぁ。また無理をするんだろうなぁ」


 出て行った静城のことを考えため息をつく。風見と静城は何度か同じやり取りをしている。その都度、言うことは同じで、自分の役割であると静城は言っていた。無理はしないでと言って、もちろんと答えてくれてはいるが、やはり何度も治療室に来る。毎回ボロボロであるため風見はとても心配なようだ。


「あ、スーツを修復に出しておかないと」


 治療の時に脱がせ、預かっていたスーツを修復を頼む場所に提出する箱に入れる。


「これくらいしか最近は仕事がないし、しっかりしないとね」


 そう自分に言い聞かせ、風見は箱を持ち部屋を出た。


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