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1・2

うまく書けず打ち切り気味な作品


気が付けば荒野にいた。


あまりに唐突な意識の覚醒だった。目が覚める、みたいなものとは違う、本当に唐突な意識の覚醒だ。

そこは荒野だった。土は荒れ果て、草木は存在せず、水分の潤いがない。

砂漠ほど乾いているわけではないが、荒れ果てた土地だ。

そこに俺は立っていた。

立っているという表現が正しいのかわからない。俺は動けず、手や足といった四肢の感覚はない。

ただ、座っているという状態や寝ているという状態とは違うという感覚はある。

一番正しいのが立っているという状態だと感じているのだろう。


何故、自分はここにいるのか。最後の記憶を思い出そうとしているが、最後の記憶は曖昧だ。

思い出そうとすれば少し頭痛がして、はっきりと内容を思い出せなくなる。

本当の最後の記憶の少し前の記憶を思い出してみる。俺は学生から社会人になったばかりの人間だ。

普通に仕事をして、家に帰り、買ってきた惣菜とレンジで温めるご飯で夕飯を食べていた。

ごくごく普通の社会人だったはずだ。

それがなぜこんな所にいるのだろう。最後の記憶を思い出せないのはその時に何かがあったからだろうか。

もしそうならなぜ思い出せないのだろうか。わからないが、考えても仕方ないかもしれない。

まず、今の状況を把握することが重要だ。







俺はいったいどういう状況なのだろうか。まずそれを把握することから始めることにする。

まず最初に気づくべきだった。視界の状態が異常である事実に。

今、俺は360度、全方向を見ることができている。視力は悪かったが、今はそうでないようでかなり遠くまで見ることができる。

どうやら視界は動かせるようだ。ただ、動かせると言っても、真横を見る状態から上部から見る状態に持っていく形になる。

上部から見る状態になると、見える範囲が相当限定されている。ただ、自分の体の状態を見ることができた。

俺は樹になっていた。


どうやって樹が物を見ているのか、疑問に思う部分はあるが、それは置いておこう。

そもそも視界が360度見えるということが異常なのだから。

何故それに順応できているかはわからないが、そういうものだと考えるしかない。

なぜ自分はこんな状態になっているのだろう。

いや、すでにそれは考えた。思い出そうとしても思い出せない。それを考える意味はない。

ならば、あとはこれからどうするか、だ。






と、言ってもどうすればいいのやら。そもそも樹になったからと言って何ができるというのだろう。

そう思って周りを見てみる。一面荒野だ。

この雨も降りそうにない、乾いた土地で樹が生きていけるのだろうか。

そう思って荒野を見る。草木が生えてこない者だろうか。このままでは寂しいだろう。

そんなことを持っていると、体の、樹の先のほうの部分の感覚だろうか。そこに何かが集まっているような感覚がある。

その感覚が起きている場所を見ると、実がなっていた。そして枝がそれを先ほど見ていた場所に飛ばす。

ぱん、と乾いた音がしたのかもしれない。よくわからないがその音を聞くことはできなかった。

そしてその実が落ちた場所から草花が生えていた。

まるで意味が分からない。樹が落とした実からどうして草花が生えるのだろうか。

そして、あの草花の大きさからみて、自分は相当大きな樹であるようだ。

今の視点はかなり上のほうからの視点だが、そこから見ていても草花が生えた、ということくらいしかわからない。

地面が緑色になっていることしかわからないくらいだ。

かなり下のほうまで視点を動かして、ようやくその大きさを確認できた。

多分、今の自分の体である樹は十数階建てのビルよりも大きいはずだ。

とんでもないことになっている。自分の体となった樹が起こした所作と大きさだけでもそれがわかる。

これからどうなってしまうのだろう。
















とりあえず把握できたことは、枝から実を飛ばすことができる範囲だ。

この範囲は明確で、自分が視点を一番高い位置から見下ろすことのできる一番外側の位置までだ。

周囲をこのまま荒野にしておくのもどうかと思ったので、枝に実を作り周辺に飛ばす。

実が落ちたところが緑に染まり、植物が生えていく。

もし今の姿の俺が元の世界にいれば、砂漠問題を解決できただろう。

いや、待て。そもそもこの植物が生える水分はどこから持ってきたのだろうか?

もし実の中にそれだけの水分があるとするならば、つまり今の俺の体の中にそれだけの水分があるということになる。

……もしかして荒野ができている原因は俺が水を吸い上げすぎたせいじゃないだろうか。


緑化作業も大体終了した。

少なくとも実の届く範囲全ては何とか緑化した。

ただ、今のところ本当に植物だけしか見られない。他の生物はいないのだろうか。

少しでも動きがあれば、一応点が動いているように見えるかもしれない。

こういうとき視点を下に動かさなければ小さいものが見えないというのが不便だ。







植物が成長したはいいが、樹が他に生えてきていない。

何故この体が投げた実から生えてこないのかが疑問だ。

もう一度実を投げてみる。すでに植物が生えているところに落ち、もともとの植物がつぶれ、新たに植物が生える以上の変化はない。

何か変化はないか、と思いながら下のほうを見ていると、わずかに動く影のようなものが見える。

直ぐに視点を移し、その影の正体を確かめた。

人だ。体が透けているが、人型の何かだ。これはこの世界の人間なのだろうか。それとも人間以外の何かだろうか。

目を凝らしてみる。ふと、その人影がこちらを見る。目線が合う。だが、向こうはこちらと目が合ったことには気づいていないようだ。

そもそも今の俺の体は樹なので目がないから向こうと目が合うことはないのか。

ただ、人影はこちらのほうをじっと見てくる。どうやら目が合わなくても視線があることには気づいたようだ。

ふわふわと近づいてくる。どう考えても浮いている。背中に羽も生えているようだ。

ハーピーみたいな人と鳥の混じったような種族か、とも考えたが、どう考えても飛んでいるのではなく浮いている。

恐らく、精霊や妖精といった種族だろう。ふわふわと自分の足元まで飛んできている。

かわいらしい少女だ。残念ながらその手の趣味はないが、可愛いものは普通に好きだ。

ちょこん、と今の自分のすこし出っ張った部分に座る。

かわいい。どうせなら木の洞にでも住まわせたい。ほかに人がいなくて寂しいのだ。

そう考えていたら、自分の体が変化していく。少女の近くに穴ができた。

中を見ることはできないが、おそらくある程度の大きさの木の洞なのだろう。この体が俺の願いを反映するのならばそうだ。

少女は唐突にできた穴に驚き、遠ざかっていく。流石に急激な変化は怖いか。

しばらくして、戻ってきた。ふわふわと穴の周りを調べている。そして危険がないと判断したのか穴の中に入っていく。

観察日記でもつけられれば娯楽にはなるのだろうが、せいぜいできるのは観察するくらいだ。

しかしなぜこの少女は文明のなさそうなこの周辺で服を着ていたのだろう。別に裸を見たいわけではなくただ謎だ。


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