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フィルマに向けて無数の魔法攻撃が降り注ぐ。しかし、降り注ぐ弾幕は一斉攻撃ではないため、わずかに攻撃の隙間がある。フィルマはその隙間をぬって避けている。基本的にその肉体の身で避けているが、場合によっては体をかすらせる本当にぎりぎりになったり、持っている刀で弾いている場合もある。
飽和攻撃はその降り注ぐ魔法の量が多いため、それを浴びている側の状況は把握しづらい。本来はそうだが、ブレイブたちはパティの魔力探知によりある程度状況は把握できる。魔法攻撃による影響で見えにくくはなっているものの、パティの感知能力は高く魔法攻撃の魔力とプレイヤーであるフィルマの魔力の違いがわかるのでフィルマの現状が確認できている。
「なんてチート!」
どこからともなくお前が言うな、という声が聞こえてきそうなセリフである。ある種一番のチートと言えるパティが言っていいセリフではない。しかし、パティのチートはもともとスキルメーカーにて設定されているチートであり、フィルマのそれとは異なる。
「いや、パティが言ってどうするのそれ?」
「私のチートは私自身のもともとの設定があるから別にいいの! それ以上にフィルマちゃんの能力は異常!」
そんなことを言っている間に攻撃の隙間からフィルマが弾幕から脱する。
「バリア!」
「バリア!」
フィルマが攻撃から抜けてきたのを確認し、二人はフィルマの攻撃を防ぐ意味合いと行動を制限するために複数のバリアを展開する。
「ブロック!」
フィルマの攻撃、移動を防ぐバリアを破壊される中、ブレイブがブロックの魔法を発動し複数の見えない障害物としてのブロックを展開する。パティの魔力探知により、ブレイブは発動した場所を把握していなくてもその位置を把握できる。魔法により固められた空気の塊は物理的には見えないが魔力での探知は容易だ。
フィルマの探知能力はあくまで生物の気配の探知であり、パティの持つ魔力探知とは別物である。その探知手段ではブロックは回避できないはずだ。
「っ!? 避けられてる!?」
「近づいてくるよ、射線とブロックで行動制限!」
「ブロック! サンダーライン!」
ブロックの魔法とサンダーラインの魔法により、フィルマが近づけないようにする。サンダーラインは雷の帯であり、一時的な魔法とは違い継続的に展開されている。跳べば避けられるが、ブロックの魔法によりそれを防ぐ。フィルマの移動先を塞ぐ魔法、しかしあっさりとフィルマはそれに対処する。
「ブロック」
サンダーラインの射線上にブロックの魔法が発動し、射線を塞ぐ。一瞬だけ射線が妨害され、サンダーラインの魔法によりブロックの魔法が破壊されるが、その僅かな雷の帯の消滅時間でフィルマが駆け抜けていた。
「っ!」
「ブロック!」
咄嗟にブレイブが上空へ跳躍し、フィルマがブロックの魔法を用いて足場を作る。ブレイブがいた場所にフィルマが攻撃を仕掛けるが、すでにブレイブの姿はなく空を切っていた。
フィルマはブレイブを追い空中へ跳躍する。ブレイブがファイアーボールを唱え、空中のフィルマに狙いを定めるが、フィルマは自身を狙う炎の弾幕を見て真正面へと跳躍、パティの張ったブロックの足場の下を抜ける。その潜りぬける駄賃替わりにブレイブの足場となっているブロックの魔法を剣で切り裂く。
「バリア!」
「ブロック!」
消える直前のブロックからパティがバリアを張り、さらにブレイブもブロックの魔法により着地するブレイブへのフィルマの攻撃を牽制する。
「ブロックの魔法をよく使いこなしてるなあ……」
「ブレイブと違って前衛組の戦闘だと使い道ありそうだしね」
「というか、なんでブロックを見抜けたんだ? あれ、見えないはずなんだけど」
ブレイブのサンダーラインを防いだブロックの使い方は有用的だ。ブレイブの使うバリアとは少し違うがそれと同等の役割を持たせることができる可能性はある。バリアとは違い、完全に防御に向いたものではないが。
それはともかくとして、どうやってフィルマはブレイブの発動したブロックの魔法を見抜いたのか。空気を固めたブロックの魔法はそれを見ることは出来ない。フィルマ自身が魔物に対する壁として利用したときと同じである。どうしてフィルマはその見えない塊を把握できていたのか。
「ああ、もう! だからチートなんだよね! あれ、絶対空気の動きとかそういうので把握してるんだよ!」
「ええ……」
パティの言うチート、スキルメーカーにおけるスキルの恩恵を受けない、個々の本当の実力。それは才能と呼ばれるものであり、異世界で開花したものだ。気配探知の時点でスキルメーカーの時からある程度は開花していたものかもしれないが、それが異世界に来た時点で完全に花開いたのだろう。
「フィルマちゃん、昔剣技とか習ってなかった!? 神儀一刀とかいうチート剣術!」
「……お話してていいんです? 時間大丈夫ですか?」
「ええい! どーせ参戦遅れても余裕あるってーの! フィルマちゃん昔絶対チート剣術習ってたはずだよ! じゃないとあんなのできないし!」
勝手な決めつけだ。フィルマもパティと会話せずそのまま無言で戦闘を再開すればいいのに話に乗っている。互いに戦闘の合間、少しは殺伐とした雰囲気を解消したいのだろう。ずっと戦い続けるのは意外と疲れる。また、単に会話をしているだけではなく、次に行う攻撃の準備、どう戦闘を行うかの思考も行っている。互いに切り札は見せていないのかもしれないが、ある程度の手札は見せており、その利用方法もわかってきている。どう戦いの流れを作り得た情報を利用するのか。
「確かに一度剣道道場に通ったことはありますが、一月くらいですよ。あ……そういえば、ちょっとだけ変な講師ですか? そんな感じの人に少しだけお前は見込みがあるとか言われて普通の剣道ではない物を学んだことはありましたけど」
「ちょっとでそこまでできるなんてチートすぎぃー!!!」
「パティ、キャラ崩れてない?」
「私にキャラなんてないよっ! 私はずーっと私だからね!?」
ちょっといろいろと混乱していただけである。
「そろそろ、戦闘再開していいですか?」
「そもそもなんで会話してたのかって話だろうけどね」
戦闘が再開した。
「ブロック!」
「ブロック!」
ブレイブとパティがブロックの魔法により無数の障害物を配置する。フィルマの高速移動は障害物がないからこそであり、たとえブロックの魔法で作られた塊を破壊したとしても、その空気の塊の固定状態が一瞬で解除されるわけではない。無数の障害物の配置はフィルマの行動制限につながるのである。
「厄介です」
ブロックの魔法で作られた障害物を一つ一つ破壊するのは面倒である。剣を一閃し、一気に作られた障害物を破壊する。これはスキルではなく、単なる剣を振るったことによる剣技。パティの言う神儀一刀と呼ばれる剣技に近い物であるが、それそのものではない。しかし、あっさりとスキルではない技術による攻撃を実現するのはパティの言うようにチートと言いたくなるのも理解できなくはない。
「一撃消し飛んだ……」
「だーかーらー! もう! チートすぎー!!」
「バリア!」
「バリア!」
残っているブロックからバリアの魔法を発動する。シールド型やオート型のようなものとは違い、ウォール型は防壁としてのバリアが突き出るため、それ自体が攻撃手段ともなりうる。たとえダメージを受けないとしても、突き出る防壁はその防壁に触れた物を押し出す。
「エレクトリックウェイブ!」
雷の網、単純な攻撃でなく状態異常系、もしくは捕縛攻撃。ただ攻撃するだけではフィルマを追い詰めるのは難しい。ならば搦手を、ということのようだ。また、バリアやブロックの魔法があるのに物理的破壊力を持つ攻撃手段では破壊してしまい相手に得を与えることになりかねない。そういうことで通常の攻撃手段でない魔法を用いた形だ。
「ふっ!」
「げっ!? ああー! もう! やだこのチート剣士ー!」
雷の網、それをフィルマが剣で切り裂いた。先に使った魔法を弾くのもそうだが、普通ではありえない。スキルメーカーのスキルでもスキルが存在しないか、あっても活用しづらい、難しいスキルとなるだろう。一応フィルマの剣術スキルは九であるため、それならば不可能とは言えないのだが、そういうことでもない。
「スキルメーカーのスキルじゃない攻撃手段なんてもー!」
「スキル以外の攻撃……」
ブレイブがフィルマの使う攻撃手段、この世界での才能開花によるスキルではない攻撃。それは、スキルに頼りきりに近いブレイブにとって、目から鱗の発想である。
「神雷の槍よ」
「ちょっと!?」
ブレイブが雷の槍を生み出す。そしてそれをフィルマへと投げつけた。流石にフィルマもそれを投げつけられると回避は不可能だ。射線上にいれば、だが。打擲により真上に跳躍、さらにもう一度空中での跳躍により投げる前の動きで追いきれない位置まで逃げ、槍の車線から逃げる。ブレイブとしても投げる動作の最中で完全に追うことは出来ない。やり投げの射線からフィルマが外れ、槍は決闘の結界に衝突する。
結界内にもの凄い轟音が鳴り響くが、結界は無傷だ。決闘スキルは特殊なスキルであり、通常の方法では対処できない。パティの言うチート剣術の神儀一刀のような、極めて特殊なものであれば切り裂き無効にできるかもしれないが、ブレイブの持つ攻撃手段では対応できないとみていいだろう。
「もう、いきなり神雷の槍って……ブレイブ? ブレイブー!」
ブレイブはパティに反応しない。ぐっと握り拳を作り、何かを感じている様子だ。




